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『みかづき』(森 絵都/集英社刊)を読みました。

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■『みかづき』(森 絵都/集英社刊)を読みました。
                             2017.5.10
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ゴールデンウィークも終わり,一気に夏の兆しを感じるようになりました。
いかがお過ごしでいらっしゃいますでしょうか。

私は,ゴールデンウイーク中に,森絵都さんの『みかづき』を読みました。

教材展のセミナーの折,講師の先生が

「この小説は,とてもいいですよ。主人公のお母さんの身の上相談をする場
面が特に印象的でした」

と言われて,興味を持ったことがきっかけです。

「昭和36年,塾教師たちの熱い物語が始まる」と書籍の帯に書かれています。
467ページという,単行本としてはかなり厚めの本ですが,あっという間に読
めてしまう小説です。

昭和36年から平成20年ごろまでの
「時代ごとの,塾業界と公教育現場との関係」
「子どもの学力や生活環境の変化に,教育関係者がどう関わってきたか」
「塾というかたちの変遷」
などを,丁寧にまとめられるのが縦糸とするならば,
大島吾郎から始まる,娘,孫までの三代にわたる大島家の人間模様は,横糸
といえます。

登場人物の年代や性格に寄り添った文体で,悲喜こもごもの移り行く出来事
を紡ぎ出されています。
塾経営に関する緊張感,親子や夫婦の情の交歓など,文芸評論家の北上次郎
さんが言われるように「すべてが詰まった小説」になっています。

私にとって最も印象的だった場面は,吾郎にとって孫にあたる一郎が,
率先して作り上げようとしている,のちに《クレセント》という新しいスタ
イルの学舎にて,小学5年生の直哉という男の子とのやりとりを通して,互
いに成長していくところです。

無口で,作文を書いてみても,出来事をそのまま書くだけの直哉。
文章を書くということは,すべての教科の学習に通じるため,作文を書くこ
とがままならない直哉の学力は,文章力に比例して低い状態が続く。

ある日,一郎は直哉に『綴方教室』を読ませます。
・綴方教室
<<<https://kotobank.jp/word/%E7%B6%B4%E6%96%B9%E6%95%99%E5%AE%A4-1186549

その後,しばらく時間がたったところで「ハムスター」という直哉の作文に,
直哉の大きな変化をみます。

大きな変化を,森絵都はこう綴ります。

「ぽつん,ぽつんと小さな水滴が落ち,受け皿の竹筒を満たしていく。
そのいじましい運動が一定時間続くと,溜まった水の重みで筒が傾き,つい
にはパカーンといい音を立てて反転する。」

このことは,学びの本質をつく一節ではないかと思いました。

本屋大賞では,第二位という高順位を獲得し,たくさんの読者を得た『み
かづき』は,私を圧倒的に揺り動かした長編小説でした。

もしよろしければ,ご一読ください。

(文責:名古屋本社・企画ソリューション部 伊藤隆)