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エディットお役立ちレポート

2017-06-29 第7回コンテンツ東京・第1回AI・人工知能EXPOに参加して

6月28日〜30日の3日間、第7回コンテンツ東京と第1回AI・人工知能EXPOが国際展示場の東7・8ホールで開催された。私は、29日に参加した。

少し前までは、この時期に東京国際ブックフェアが開催されていた。そして、それに併設されて今回のようなものが開催されていた。しかし、今年から、ブックフェアが無くなった。出版業界が関わっているものは、今では、5月に行われて教育ITソリューションEXPOとこれだけになってしまった感がある。

講演については、要旨をまとめ、最後に会場見学を含めて参加の感想を書く。

●特別講演 AI×クリエイティブ
手塚治虫がデジタルクローンで甦る!?
マンガ家AIプロジェクトメンバーによるスペシャルトークショー

司会役:手塚プロダクション取締役 手塚 眞
公立はこだて未來大学副理事長 松原 仁
電気通信大学教授、人工知能先端研究センター長 栗原 聡
ドワンゴ人工知能研究所長 山川 宏
東京大学准教授 松尾 豊(ビデオで挨拶)

この特別講演に出演したのは日本を代表するAI研究者である。松原仁、栗原聡、山川宏、松尾豊と司会の手塚眞は、現在NHK総合テレビで放送中のアニメ作品『アトム ザ・ビギニング』のコミック企画・開発段階から監修をしていて、そこから、このプロジェクトができたらしい。(詳しくは、練馬大学第7研修室(「手塚治虫デジタルクローン」Project起動中というHP─ http://www.7ken.org/ ─参照。ここでは、この特別講演の内容紹介と、それぞれの発表が順次掲載される予定になっている。現在は、最初の松原仁のものがアップされているので、そちらを参照して下さい) 最初に、手塚から、「AIはクリエイティブな能力を持ち得るのか?」、「AIは手塚治虫のような作品を生み出せるのか?」という問いかけがあり、創造(クリエイティブ)を行うために必要な4つのポイント(「アイデア」「テクニック」「エモーション」「ジャッジメント」)が示され、手塚治虫のマンガ制作方法を交えつつ説明がなされた。

こうしたポイントをAIがどう実現するのかをそれぞれの参加者が自分の立場から提案するというのがこのトークショウの内容。

松原仁は、現在の人工知能の現状と限界を説明した上で、究極的には、『鉄腕アトム』のように心を持ちクリエイティブが可能なAIのあり方として、“汎用人工知能”の実現を提案。栗原聡は、“AIの自立性”がイノベーションを起こす糸口となるのではないかという考えを提案し、最後に山川宏は、創造性発揮のプロセスと人間の心をAIに転送する“マインド・アップローディング”を提案していた。時間が余りなく、それぞれが最初の提案ともう一度補足説明と「手塚治虫デジタルクローンProject」の構想が説明されたところで、終わる。(と言うことで、上記のHPを時々見て下さい。詳しい内容がアップされる予定。)

■会場見学

私は、AI・人工知能を中心に会場を回った。面白そうなブースがいくつかあったが、まず、じっくり説明を聞いたものを取り上げ、最後に感想と一緒に全体の様子を報告する。

【NEC+出版デジタル機構】

NECが提案していたのは、講談社と提携してつくった「紙と電子のハイブリット自動編集・組版ソリューション」である。

これは、以下の3つのシステムでできている。

@Smart Source Editor
原稿作成/編集用のシステムで、テキストデータを、校正などを終えた完全原稿にして、XML形式のデータで出力して、次のシステムにデータを渡すもの
A自動組版デザイナー
画面で、XMLデータと事前に準備したスタイルシートを組み合わせ、次に出力装置で使えるファイルへの変換をするもの。
BSUPER EIGITOR/EX
自動組版システムで、最終的にはPSファイル、EPUBファイルを出力するもの。

ところで、このシステムを利用できるのは、どちらかと言えば大手の企業で、編集プロダクションなどで使えるようなものではない。

そこで、これを安価で利用できるように、出版デジタル機構がこのシステムをクラウドサービスとして提供しているのが「Picassol」である。

こちらのサービスは、1か月39,000円からとなっている。ただ、主として小説や評論、研究論文などの単行本などでは活用すると便利そうだが、組版が終わってからの校正はできない訳で、ページごとにデザインが変わる教材や雑誌などは、使えない。もし使うとすると、一人担当者を置いて、彼が時間を見つけてテキストベースの校正をするという使い方が最も経済的である。講談社でもみんなが使うわけではなく専門の担当がいるという。そして、「強い校正」と「弱い校正」というように分けているようだ。これは、作者の表現を尊重するもの(文芸書など)と出版社の統一表記の基準に合わせるものとの違いによって設定を使い分けているそうだ。

担当者とも話したが、将来は、PDFデータを読み取って、そこでテキストだけを校正してくれるようなシステムができるといいということになる。そうなったら、ページごとにデザインが変わる出版物も校正が可能になる。

【日経BPコンサルティング】

ここでは、コンテンツマーケティングのいろいろなツールを展示、説明していた。ここで提供している3つのWeb診断・評価ソリューションは、「Webコンテンツ診断(簡易バージョン)」と「WebコンテンツSPB評価」と「Webコンテンツリスク診断」である。

丁度、プレゼンでは、「リスク診断」をしていて、Webコンテンツの引用の処理や、写真がどこかにないかなど、著作権処理を扱っていた。エディットでも一部使っていたような機能があるようだ。要するに、出版で培ったノウハウとデータを活用して、Webコンテンツの編集・制作・診断などでアドバンテージを取ろうというのが日経BPの戦略だとおもわれるが、成功しているかどうかはよく分からなかった。

【Beyond Publishing(Gakken Group)】

これは、不思議なビジネス(https://bpub.jp/ )だと思った。AmazonKindleストアのようなサイト+電子書籍制作支援サイトのようなものだ。

一応、「制作から配信、販売まですべてがオールインワンでできるウェブサービス」ということだが、活用することがあるとすれば、制作面かもしれない。販売サイトとしては、ビジネスが難しそうだ。まあ、電子書籍の取次のような役割はできるかもしれない。しかし、電子書籍に取次が必要かどうかはよく分からない。むしろ、「コルク(http://corkagency.com/ )」のようなエージェットとしてなら存在意味がありそうだと思った。

【NTTドコモ】

ここは、ドコモのスマホに登場する「羊の執事」で有名な音声対話システムを一般に解放してビジネスに使ってもらおうという提案。

「多目的対話エンジン SEBASTIEN Speak」というものである。これは、音声認識と音声合成機能を使って自然対話ができるようにしたもので、NTTドコモがメインエージェントを担当し、ここの企業がエキスパートエージェントを作って、自分の専門分野に呼び込んで応答システムができるというもの。このエキスパートエージェットの作成には、NTTドコモが協力することになる。そこがドコモのビジネスになる。

簡単に言えば、ドコモのスマホの羊の執事のようなものを介して、例えばエディットのHPにつなげて、そこでエディットのキャラがいろいろな編集に関わる質問に応答するというようなシステムである。つまり、「本はどうやってつくるのですか」という問を羊の執事にすると、羊の執事が、「それでは、詳しいことは専門家のエディットの○○ちゃんにきいて見ましょう」と振り、エディットの○○キャラが、「それはこうしてつくるんですよ」などと答えることになる。

これは、AIの応用例ではあるが、まだ、かなり高価であることと、対話がうまくいかないなど問題がありそうだが、しかし、今後はこういうものが普及してくることは確かだと思われる。音声入力ということでは、かなり正確になっている。

まとめの感想でも触れるが、IBM Watsonとソフトバンクのペッパーが組んで、いまいろいろやっていることと仕組みは似ているが、こちらは、少し大衆的ということができるかもしれない。

<感想>

全体を見て、AIとは何かということがすこぶる曖昧で、展示もどこまでをAIと言っていいのか微妙なものがあった。

しかし、東京国際ブックフェアを中心とした従来の展示から今回の展示への転換の大きなポイントは、全てが「デジタル」になったということだと思う。もはや、「紙の本」はどこかに行ってしまったという印象だ。

この大きな展示場で共通しているのは、全て「デジタルコンテンツ」を利用しているということだ。それは、AI・人工知能EXPOでも同じだ。テレビがデジタルになり、新聞もデジタル版がネットで配信される時代になった。すべてがデジタルになった途端に、全てがコンピュータで処理するものに変わってしまった。そして、全てのメディアがインターネットを介して融合しようとしている。確かに、角川歴彦氏がいう「メディア大再編」が起きているのだと思われる。スマホさえあれば、テレビも新聞も雑誌も小説も音楽も、見たり、読んだり、聴いたりできるようになってしまった。

画像と音声がデジタル化されることによって、人間が認識できる以上の情報が、そして人間より速く、しかも正確に、コンピュータによって処理されるようになった。人間の目の解像度は、200万画素程度だと言われているし、音声だって聞き取れる範囲と音色などが限られている。しかし、デジタルデータでは限界がない。つまり、コンピュータは、人間以上の視覚と聴覚を持っているということができる。やっと、AIが、これを利用しはじめたのだ。

私は、午前11時頃会場に行ったので、多少空いていた。

今回の目玉は、第1回AI・人工知能EXPOだと思った。受付だけすまして、私は、1時から始まる、AI×クリエイティブの特別講演に参加した。

トークショーはなかなか、面白かった。

講演が終わった午後2時過ぎの会場は、とても混雑していた。そのために、ゆっくり各ブースを見ている余裕もないくらいだった。VRなどのブースでは、50分待ちとかで長蛇の列を作っている。特に、今年から「AI・人工知能EXPO」が加わったことが参加者の増加に繋がったように思われる。

「もし上司に「AI」を導入しろと言われたら」というティファナ・ドットコムのブースが象徴的だが、いまや「AI」と付ければ、新しくてクールだと思われているらしい。

しかし、このブースで中心になっているのは、「チャットロボット」である。いわゆる「音声言語処理」を利用した「会話ロボ」である。現在は、テキストベースのものから、音声ベースのものに移行しつつある。スマホで言えば、iPhoneの「Siri」、NTTドコモの「羊の執事」である。勿論、まだ、自然言語処理までできないし、「Siri」でさえ、「それは、どういう意味?」という指示語に答えられない。

しかし、これらは、「LINE」や「Facebook」でも注目され、開発されているもので、スマホのキラーアプリになるにちがいない。家庭用にいろいろな会話ロボットが作られていて、実用化されようとしている。そして、私たちの編集の分野に直ぐに関係するものとしては、音声入力や、翻訳機能があり、これらはかなりの実用的になってきている。

この展示会は、多分、来年はもう少し変わるのではないかと思う。今回の催し物は、焦点が搾りにくい。AIなどの先端技術の展示と、デジタルコンテンツとその処理とでは、かなり違う。しかし、大きくは、デジタル教科書も含め、ITCという点では似ているのかも知れない。

確かに、昔だったら、それなりの専用機が必要だったのに、今では、それらが、小さな手のひらに乗る端末、スマホとそこで動くアプリで実現できてしまう時代である。むしろ、専用機は、インプット、アウトプット用の機器になっている。

ここで、誤解があるかも知れないので、私の知っている範囲で「AI」について解説してみる。

AIというのは、「Artificial Intelligence」の略で、普通「人工知能」と訳されている。この訳がいいかどうかは別として、「人工知能」というように言うと、あたかも人間のような知能を持った存在をさしているように思われてしまう。これは、半分は当たっているが、半分は当たっていない。

現在のAIのブームは第3次と言われているが、ここでのキーワードは、「機械学習」「ニューラルネットワーク」「ディープラーニング」の3つである。これが、現在のAIを動かしているキーワードだ。この3つの技術で世界をあっと言わせたのが、囲碁でプロ棋士を破ったAlphaGOである。ここから、第3次AIブームに火がついたようだ。

AlphaGOは、「ディープラーニング」を使って、飛躍的に強くなった。ハッキリしていることは、開発者より強いソフトであり、従来のプログラミングによるソフトと違って、自分で学習して強くなっていることである。ある程度まで学習すると、今度は、自己対戦でさらに強くなるらしい。というのは、人間の対局の場合は、大抵どこかでミスして負けているので、ミスしない場合はどうなるかは、人間の残した棋譜だけでは学習できないので、自己対戦を繰り返し、正しく打った場合はどうなるかを学習しているという。そのため、現在のプロ棋士でも、なぜそこに打つといいのか説明困難な場合があるらしい。しかし、そこに打つと勝てる。しかし、コンピュータは、説明してくれない。開発者も、分からないというのが本当のところのようだ。

ただ、ある意味では、統計的に勝てる手だけを打っているとも言えるが、なぜそれが、統計的に勝てる手かどうかは、自分で学習して導き出しているのだから、プロ棋士が直観で打っているのと変わらないとも言える。

ところで、現在、AIといっても、AlphaGOのようなAIは「特化型AI」と言われている。つまり、ある専門分野では、人間を超えた能力を発揮できるコンピュータがこの3つの技術を使っていろいろ開発され始めたということが特色だ。

人工知能は、大きく分けて、「強いAI」と「弱いAI」に区別されている。本当は、この強いAIを人工知能と呼ぶべきであるが、両方とも人工知能と呼ばれている。強いAIとは「Artificial General Intelligence(AGI)」のことで「汎用人工知能」と言われているものだ。「マンガ家AIプロジェクト」は、このAGIで目指しているものである。AlphaGOは、特化型AIで、弱いAIに属する。プロジェクトは、この弱いAIをいろいろ組み合わせて、AGIを作れると考えているようだ。しかし、現在の研究の段階は、科学で言えばまだニュートン以前だとも言っていた。

AIの展示場でいろいろ提案されているのは、この弱いAI、つまり、特化型のAIを使ったいろいろな試みだとも言える。特に、画像認識、音声認識、自然言語処理などで「ディープラーニング」がある種のブレークスルーを起こし、飛躍的に発展しているからだ。これには、コンピュータのハード面の進化とインターネットなどによる、情報の集積支えられて、より学習が進んだためだと思われる。

今回ブースは無かったが、IBMの「Watson」は、この特化型のAIである。IBMはAIという言葉を使わない。IBMは、これを、「コグニティブ・システム(認知システム)」と呼んでいる。こちらは、昨年日本IBMとソフトバンクが提携して、日本語版のWatsonがサービス提供を始めている。みずほ銀行が、ペッパーくんを入れたり、このWatsonを顧客との対応の相談役として使ったりしている。

日本のメガバンクの三行がこのシステムを導入していろいろ新しい活用を開発している。

また、マイクロソフトも、IBMと同じようなシステム「Microsoft Azure(https://azure.microsoft.com/ja-jp/ )」を開発している。こちらも、AIとは言わないで、Cognitive Computingという。

現在の流行は、こうしたシステムとチャットボットとのリンクだ。人口知能を使ったチャットシステムとしては、すでにiPhoneのSiriやNTTドコモの羊の執事がる。

現在、「シンギュラリティ」(特異点)ということが話題になっているが、これは、「汎用人工知能」ができた時か、あるいは、「特化型のAI」が自分よりすぐれた「特化型のAI」を作り出せるようになった時のことをさしていると思われる。そうなると、もう人間はいなくてもよくなるという意味である。しかし、それはそんなに簡単ではなさそうだ。取り敢えず、手塚治虫のプロジェクトのメンバーは、シンギュラリティが来るとは思っているようだが、現段階がニュートン以前だと言っているわけで、ニュートン段階でそれが可能なのか、それとも更にアインシュタインレベルの理論がないとできないのかは不明である。

私は、人間も物質でできていて、進化してここまで来たのである以上、いつかはAGIが実現するだろうと思っているが、いつ来るのか、また、そうなったときのAGIのあり方がどんなものかは、いま考えられているイメージとはかなりかけ離れているような気がする。

というわけで、特別講演で語られていたことと、AI・人工知能EXPOブースで見たものの間にあまりに落差があって、一瞬めまいを覚えるくらいだが、着実に進化していることだけは確かなようだった。まだまだ、実用的になって、AIを編集に使うというようになるには、費用と研究が必要なようだが、「囲碁」の世界のように、「編集」という作業だけなら、AIの方が速いし正確だということになるかも知れない。少なくとも、編集というのは、有限の素材を使って、最も顧客が喜ぶものをつくり上げるということなので、いずれAIもできるようになると思われる。その時は、「ブック」のようなものをいったんつくってそれを見たり読んだりするのか、その都度ごとにAIが「ブック」をつくり出して見たり読んだりするのかはよくわからない。その時、「編集者」は何をすることになるかは、まだよく分からない。

<参考文献>

(文責:東京オフィス 塚本鈴夫)