No.01 編集プロダクションの生き方

(エンタテインメント業界就職 ROAD4『出版・編集』ダイエックス出版発行より抜粋、2018年5月改)

●エディットの特徴はトータルな編集作業にあるようですね。

小林  そうですね。社内で編集・制作の全部をまかなえるようにしています。
 会社は大きく分けて、教材編集部門、一般書編集部門、DTP・イラストデザイン部門の3つに分かれています。
 教材や書籍関係では東京、大阪方面の出版社が多いけれど、情報誌は主として名古屋の会社が多いですね。
 受注の形は、いわゆるパッケージ型が多く、企画・取材・編集・制作の全部をこなして、できるだけ製品に近い形で納品する、というシステムですね。


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●教材の編集はそれぞれが専門化されていますね。

小林  そうです。自分の強い分野、得意なジャンルを伸ばしていくことは非常に大切であると思います。
 教材のプロダクションは「数学」だとか「英語」だとか「社会」だとか、それぞれ専門特化したところが多いようです。
 とくに東京ではそうでないとやっていけないと思います。
 しかし、地方では逆にそれでは成り立たない。
 幅広くやらないと生きていけないのです。
 もちろん私があまり1本に絞ることを好まない性格のせいもありますが、頼まれた仕事は原則として断らない主義にしております。
 仕事が入ったら、そこで組み立てを考えます。
 エディットの教材部門は5教科体制ができています。
 さらに教材だけでなく、一般書籍・雑誌・情報誌などの編集や本づくりの仕事にも積極的に取り組んでいます。
 だから、だんだん手広くなっていくんです。
 包丁1本で和食も中華もフランス料理も作ってしまう。
 私自身がそういう生き方で編集の業界を流れてきたので、1教科だけ、1分野だけに固まるのは性に合わないんです。
 ファミリーレストラン方式と私は呼んでいますが、地方からスタートした編集プロダクションという条件が、そのような方式を余儀なくしている面が大きいと思います。
 地方では1分野だけの専門プロダクションは成り立ちにくいですからね。


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●ファミリーレストラン方式ゆえの特色ということでしょうか。

小林  その通りだと思います。
 この方式は出版社のほうでもメリットがあります。
 たとえば5教科セットの仕事がある場合、私ども1社ですべてまかなえる点です。
 専門性を強調されるところにバラバラに依頼するよりも、全体の統一感を保てるし、エディットにイラストも表紙も本文のレイアウトも含めて、全部任せられるわけですから、発注するほうも楽ですよね。
 長い伝統と経験を重んじる大手出版社になりますと、ちょっと地方のプロダクションでは心配だと思われるかも知れませんが、比較的短期間に勝負をかけたい出版社には、わりと重宝されています。
 営業を中心とした編集部のない出版社もありますから、そういう会社には非常に便利でしょうね。
 でも、最近は大手のメジャーな出版社からの仕事が増えてきました。
 質の高さも東京並みになったのでしょうか。


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●DTPを使ってのデジタル編集作業も御社の特徴ですね。

小林  DTPの良さは基本的に編集者が使うところにあると考えていますので、全員が使えるようにしよう、というのが私の考えなんです。
 実作業の流れとしては、現在やや分業化せざるを得ない状況です。
 しかし編集部とDTP部門は同じ部屋で作業していますから、きわめて緊密に、担当者同士で直ちに連絡・対応ができるようになっています。
 たとえば、入試問題集などは1年しか寿命がない。
 こういうものは必然的に低コストが要求される。
 こんなときに、入稿から校了まで1日でやってしまうようなシステムは貴重です。
 また、ここではくわしく述べませんが、DTP以外にも、さまざまなデジタルツール、アプリケーションソフトを使って、デジタル編集制作を行っています。
 「早く、安く、質がよい」というのが編集プロダクションの生き残る道だといった人がありますが、まさにその通りだと思いますね。


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●総合的に編集技術を覚えたい人には絶好の会社ですね。

小林  編集実務は早く身につきますね。
 人は苦労した分だけ成長するといいますが、その点ではおしなべて編集プロダクションというところは成長できる場所ですね。
 しかし、生き方の問題としては、出版社か編プロかという問いには、難しい部分がありますね。
 編集に携わりたい、ジャーナリズムの世界で生きたいという思いは共通ですが、その具体的な目的意識がどこにあるかが問題でしょう。
 一度しかない人生を、人との出会いだとか、時代を掴みたい、時代の先端で呼吸をしたいと願うような形で出版ジャーナリズムを目指すならば、メジャーな出版社のほうが、人脈だとか情報のネットワークだとかノウハウにおいて有利でしょうね。
 ある意味、「先端」を走っているわけですから。
 しかしプロダクションでは、自分の力しだいで、思うようなことができるというメリットがある。
 出版ジャーナリズムを目指す人は、会社に帰属して業績を伸ばし、会社の発展に尽くす、というタイプよりは、その道のプロになりたいという人が多いですよね。
 そうすると、自由が利き、自分の力が試される編集プロダクションは自立への近道じゃないでしょうか。
 ただし、大変な苦労がいる場ですけれどね、条件面でも。
 そのぶん「船の漕ぎ方」を教わることができます。
 たいていの場合、編集プロダクションの社長はなんでもこなす船長ですから、トータルに自立して行く道を学ぶことができるのです。


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●編集プロダクションに入りたい人に望む言葉を……。

小林  自分もプロダクションを起こすくらいの気概で入ってもらいたいですね、苦労は多いけれど。
 私なんかは、学生のころは大手の出版社に入って、ジャーナリストの肩書をもって、世界を飛び回りたいと思っていたんですが、能力もチャンスもなく、勉強もしなかったので、小さい出版社からスタートしました。
 途中から方向転換して、この仕事を始めたんです。
 プロダクションはある意味で、なんでもできる会社だと思うんですよ。
 チャンスさえあれば、自分で本を出すことだってできる。
 プロダクションの中で一流になれば、チャンスは飛躍的に広がります。
 私は「敗者復活戦」だと思っています。この言葉、嫌いな人もいるでしょうが、むかしNHKドラマでやっていた「秀吉」型の生き方ではないでしょうか。
 常に前向きで、なによりも大きな夢を持った人物。
 編集プロダクションの求める人材はまさにそういう人だろうと思います。


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●小林さんは専門学校で教えていらっしゃったのでしたね。

小林  はい、「雑誌づくり」を通して、若い人に、企画・取材・インタビュー・執筆・原稿整理・レイアウト・校正・デザイン・組版のすべてを教えていました。
 編集講師稼業は、17年間やりました。
 編集の技術はトータルなもの、全人的なものだと思うのです。
 だから、教えるといっても言葉や文字で伝達できるのはほんの一部分ですが、逆に私自身が多くのものを学びましたね。
 「教えることは学ぶこと」--つくづくそう思いました。
 編集業は「人間力」です。
 社員にも、私自身が全体的に持っている「生き方」を学んで欲しいと考えています。


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