1.編集者は板前さん
編集を一文で言えば,魅力的な企画を立て,徹底して取材し,おもしろい内容を原稿に起こし,わかりやすく整理して,見栄えのよい割付を行い,読み応えのある組版と美しい印刷をもとに,堅牢で扱いやすい製本をして,読者に読んでもらう仕事だ。この仕事はよく料理に例えられる。きょうのメニューを考え,いい材料を仕入れ,ほど良く煮たり焼いたりして,おいしく味付け,それにふさわしい器にバランスよく盛り付け,お客さまに喜んで賞味していただく仕事である。
編集者は板前さんなのだ。板前さんの仕事と心意気を知ることは,編集者のあり方を知ることに大いに役立つ。お客さんがどんな料理を食べたいか,どこへ行けばいいネタ(材料)がそろっているかを知っている。決まった市場へはだれよりも早く出かける。買い出しや仕入れも自分でやる。そして包丁1本で自在に加工し,火加減・焼き加減もわかっている。調味料も知りつくしている。盛り付ける皿やお椀も自分で買い付けてくる。量も色味もお客の好みを知っている。
編集者は「職人」なのだ。
編集は料理と同じ
2.編集のABCとは?
Art,Business,Craft--この言葉は覚えておこう。「編集」について書かれた初心者向けの本には必ず引用される。編集という仕事に必要な能力について,明快に述べられた言葉だ。しかし日本語訳はいろいろある。
Artは「芸術」「知的創造力」「創作的な仕事」「企画力」,Businessは「商売」「実務」「営業的手腕」,Craftは「技能」「職人的な技巧」「技術」などと訳される。
「編集のABC」として有名な言葉だ。そのいわれを述べると長くなるので省くが,編集者の職能や心得としてぜひ知っておきたいキーワードである。
ポイントはこの3つの条件を兼ね備えることだ。原文は「“at once an art, a craft, and a business”(芸術と技能と商売をいっしょにしたもの)」と言っている。大げさに言えば,芸術家であり,職人であり,商人でもある人--それが編集者なのだ。そのどれ一つ欠けても編集者失格ということになる。さあたいへんだ。その一つでも極めるのは至難の技である。どうしよう。でもそれぞれのプロになる必要はない。3つのセンスをバランスよく磨くことが大切なのだ。
Art, Business, Craft
3.企画は旬を見つけること
どんな本を作ったらよいか。これを考えるのが編集者のいちばんの仕事である。アイデアやテーマだけでは本にならない。ターゲットにする読者はどんな人か。タイトルをどうするか。サブタイトルは? 主旨・ねらいは? どんな内容にするか。ページの展開は? 本の規格や仕様は? 発行時期をいつにするか。著者や取材対象は? こうしたことを考えるのが企画づくりである。
企画は山ほどある。新聞を見れば,毎日,次から次と新刊本が発行されている。たいへんな点数だ。すべてある読者を想定し,たいへんな労力とお金をかけて作られている。
企画とは読者のニーズを探りあてることだ。そんなにむずかしいことではない。最大の読者は自分だ。自分が興味を持っていること,知りたい情報--それが企画のポイントだ。
いま話題となっていること,いま輝いている人物,いま読者が関心を持っている内容,いま起こっているできごと--食べ物でいえば「旬」のもの。それがまずは出版企画の中心になる。「旬」とはいちばん味のいい時機をさす。だれもが食べてみたいと思っているものだ。
企画づくりは自分の興味・関心から
4.毎日の行動すべてが取材である
体力と好奇心--編集者の必要条件である。取材活動に向かうエネルギーは,まず「知りたい!」という好奇心から生まれる。そして取材を実りあるものにするのは知り尽くすまで好奇心を持続させる体力である。この2つが備わってはじめて読者に喜んでもらう,新しくて中身の濃い情報を獲得できるのだ。「取材力」とはまさに「体力と好奇心」である。
「文章は足で書くものだ」とよく言われる。十分な取材ができれば,いい文章が書けるという意味だ。新鮮な材料が豊富にあれば,おいしい料理ができるのと同じだ。そのためには,つねに「旬」を見つけるアンテナとセンスを研いておく必要がある。新聞を読んだり,雑誌や本をめくったり,ラジオを聞いたり,テレビを見たり,書店や図書館に出かけたり,道行く人や街の様子を眺めたり,いろいろな人と話したりと,毎日毎日の行動が大いに役に立つ。日々取材の連続である。ポイントは自分の興味・関心を大切にすることだ。目的を決めて毎日行動することだ。
知りたいことはすぐにメモを取ったり,切り抜いたり,コピーしたり,ファイルしたりして,情報収集することだ。
毎日の行動すべてが取材である
5.インタビューは自分を映し出す鏡
取材のなかでいちばんおもしろくまた神経を使う仕事が人物インタビューである。人はやはり人に興味を持つ。とくにいま“旬の人”はみんなが知りたがっている。読者の代表として,読者の知りたい内容を相手から聞き出すのだ。
インタビューでまず大切なことは事前の準備である。相手に関するデータをできるだけ仕入れておくことだ。名前はもちろん年齢・出身地・学歴・経歴・職業・家族・趣味・嗜好などは前もって調べておく。書いた本があれば,2~3冊は読んでおきたい。また,インタビューするテーマについても,自分なりの知識や意見をできるだけ持っておくとよい。
人は自分に関心を持ってくれる人に関心を持つものだ。知識が深ければ深いほど,インタービューの中身は実りあるものになる。扇谷正造は「自分の顔を鏡で見る作業」と言っている。取材者もまた同時に相手からインタビューされているという意味だ。聞き手の力量が最も問われる仕事である。
初対面の相手に対しては,まずプロフィールなど,相手が答えやすい内容から聞き出していく。“事実”から“真実”へ--これがインタービューの進め方だ。
力量が最も問われるインタビュー
6.常用漢字・現代仮名遣い・正しい表記
「編集者は文章を書かなければならない」と言ったのは池島信平さん。文芸春秋の元社長である。これに加えて「企画を立てる」「原稿をとる」「校正をする」「座談会を司会する」「広告を作成する」ことを『編集者の仕事6カ条』として挙げている。すべてできなくてはいけないということだ。
編集者の文章はなによりも「わかりやすさ」を基本とする。そのためには,常用漢字・現代仮名遣い・正しい表記の知識をきちんと身につけておく必要がある。「会う」と「合う」と「遭う」はどうちがうか。「保証」と「保障」,「交ぜる」と「混ぜる」は? 同音語や同訓語の使い分けは編集者をいつも悩ませる。こうした言葉の知識だけでなく,的確な表現力も大切だ。常にものごとをよく見ること,いろいろな本や文章を読むこと,そして自分で考えること--そうしたことを日々繰り返し実践することだ。
「わかりやすい文章」は一度読めば頭に入ってくる文章,声を出して読んでつっかえない文章と言ってよい。主語と動詞の係りが明確で,1文1文はできるだけ短いほうがよい。書き出しに注意。書き出しが良ければ魅力的な文章になる。
常用漢字・現代仮名遣い・正しい表記
7.写真・図版・イラストも大切な原稿
編集者は写真・図版・イラストもうまく扱えなければいけない。これらも本の重要な原稿である。「文字原稿」に対して「ビジュアル原稿」という人もいる。
写真は写真でいろいろな種類がある。カメラマンに依頼して新たに撮ってもらう写真もあれば,ライブラリーや新聞社からリースして使う写真もある。カラー写真もあればモノクロ写真もある。ジャンルもさまざまだ。ライブラリーからサンプル集を取り寄せればすぐにわかる。編集者に大事なことは,まず数多くのカメラマンと知り合いになること,たくさんの写真ライブラリーと付き合うこと,写真リースのシステムを知っていることである。カメラマンもライブラリーもそれぞれ専門性を持っている。実務としては写真のトリミングやグラフィックデザイン・フィルム製版の知識が必要だ。
図版も,表・グラフ・模式図など種類が多い。組版屋さんや専門の図版屋さん,カット屋さんに作ってもらうケースが多い。そのもとになる図版原稿を作るのは編集者の仕事だ。
イラストはイラストレーターに依頼するが,テーマや色数・仕上げ方法・サイズなどは,編集者が指示する。
写真のサンプル集は無料で送ってくれる
8.テーマの専門家ライターを最大の相棒に!
「書き手」を見つけることが編集者の最大の仕事であると前に書いた。魅力的なテーマがあっても,著者がいなければ本はできない。テーマに精通した著者を探すことが我々の基本的な仕事である。方法はいくらでもある。図書館に行ったり,出版年鑑を見たり,先輩や知り合いに聞いたり,新聞社に問い合わせたり,新聞などで募集してもよい。著者の候補者は見つかることは見つかる。しかし,自分の思うような原稿を書いてくれるかどうかは別問題だ。相手をよく知り,期待に添う著者であるかどうか判断するのは編集者である君だ。
大事なことはまず著者と友だちになることだ。本づくりは著者との二人三脚だ。いっしょになってテーマを考え,追究していく。そしてさらに新しいアイデアや情報を提供してくれる。編集者自身も進化していく。そういう著者が見つかればしめたもの。編集稼業の妙味である。そのためには自分自身もその著者に気に入られなくてはいけない。ゴマをする必要はない。同志的信頼関係を作っていくのだ。
いろんな人と友だちになれる職業。それが編集稼業だ。友人がどんどん増える。それが編集者の生きがいだ。
本づくりは著者との二人三脚
9.カメラマンのサポーターとして
撮影は体力と忍耐のいる仕事だ。カメラマンと付き合ってみるとよくわかる。写真機材はけっこう重い。単にカメラだけではない。三脚やストロボ・照明用傘・バッテリーなど,付属品はけっこう多い。絵は絵の具を加えていく「足し算仕事」であるが,写真は余分なものを除けていく「引き算仕事」である。撮る対象を美しく目立たせるためにバックの汚いものや不要なものを取り除く作業をする。幕を張ったり移動させしたり,カメラアングルを調整したり,撮影する前にカメラマンがすることは山ほどある。それに光の角度や天候にも大いに左右される仕事だ。カメラマンはほんとうによく動く。シャッターを押すだけが彼らの仕事ではないのだ。
編集者にとって著者が同志であるように,カメラマンも同じ共同制作者だ。スタジオや野外撮影の現場には必ずカメラマンといっしょに立ち合うようにしよう。自分のイメージと撮影者の視点が一致する--よい写真ができる条件である。いっしょになって機材を運び,いっしょになって撮影アングルや構図を考える。自分が押したいなあと思っている瞬間にカメラマンがシャッターを押してくれる。うれしい瞬間だ。
写真撮影は想像以上の肉体労働だ!
10.テーマとコンセプトをデザイナーに正確に伝える
デザイナーは個性が強い。当たり前のようであるが,やはりそうである。それが実感としてわかるには多少の時間がかかる。ふだん合ったり話したりしている分には普通の人と変わらない。いやむしろ一般人より不器用な人が多い。しゃべり方もうまくない。お世辞などは聞いたことがない。でも親しくなると,だれよりも気軽に安心して話ができる。
デザイナーは「自分ならこうしたい」という思いを常に持っている連中だ。それだけではない。一人ひとりが自分のテーマと表現手法を持って仕事をしている。編集者は彼らの個性を生かすように仕事を依頼することがポイントだ。
本づくり・雑誌づくりでデザイナーにやってもらう仕事は多い。フォーマットの作成や本文のレイアウト,表紙のデザイン,広告紙面の作成などだ。彼らは自分の世界を持っているだけに,依頼する仕事のテーマやコンセプトをしっかり伝える必要がある。それがぴったり合ったとき,びっくりするくらいのすばらしいデザインをしてくれる。そうでないときは何度やり直してもうまくいかない。少なくとも編集者もある程度のビジュアルセンスを研いておく必要がある。
デザイナーの個性を引き出そう!
11.イラストレーターは自分のイメージに合ったタッチの人を
イラストレーターもデザイナーと同じである。個性が強いし,自分の表現スタイルをきちんと持っている。
ただデザイナーの場合は依頼者の要求に合わせて仕事をするケースが多いが,イラストレーターは自分のタッチや表現手法が売り物である。編集者の都合で,いままでと違ったタッチや表現手法で作品を作ってもらうわけにはいかない。編集者は自分のイメージや本のテーマに合ったイラストレーターを見つけることが仕事である。そのためにはできるだけおおぜいのイラストレーターとその作品を知っておく必要がある。タッチにしても表現手法にしても千差万別である。ライブラリーのイラスト作品集やイラストレーターズクラブの合同作品集,それから作品展示会や個展などで勉強しておこう。
本づくりでイラストレーターに頼む仕事は,本文の挿し絵か表紙のイラストである。本のイメージに合ったイラストレーターが見つかったとしても,やはり依頼する仕事のテーマやコンセプトをしっかり伝える必要がある。素材やモチーフなど新しい要素を取り入れて作品を作ってもらいたいからだ。
イラストレーターも常に新しい世界を求めているのだ。
自分のイメージに合ったイラストレーターを探そう
12.原稿の吟味はいちばん大事な仕事
板前さんが仕入れたネタ(材料)をよく吟味して料理するのと同じように,編集者も入手した原稿を十分にチェックして本に仕上げていくことが大切である。原稿の吟味は社内で行う編集の仕事として最も中心になる仕事である。
企画の主旨に合っているかどうか,読者の期待に応えられる内容になっているかどうか,矛盾したり重複したりしているところはないか,構成や展開に問題はないか,文章量は適当か,タイトル・サブタイトル・見出しやリードは読者を引きつけるものになっているか,本文の文章はわかりやすいか,漢字や表記・仮名遣いなどに誤りはないかなど,吟味・検討することは多い。
著者も人間である。独りよがりのところもあるだろうし,用意したデータがちがっている場合もある。おかしいところや気になる箇所があれば,著者にどんどん相談する。著者のほうも編集者の意見や吟味を期待している。編集者は最初の読者である。自分がおもしろければ,読者も必ず興味を持ってくれる。それを信じて納得いくまで推敲する。
板前さんも自信のない料理はお客には出さない。
編集者は最初の読者である
13.編集者は読者の代表としてつねに半歩前に
著者はどちらかというと,その道の専門家である。自分がすでにわかっていることや当たり前だと思っていることはくどくどと言いたくない。できたら常にテーマの先端を行きたいと思っている。しかし専門書は別として,ふつうの本の読者はふつうの人である。そして世の中は「ふつうの本」が圧倒的に多いのだ。
編集者の任務はまず一般の読者が十分に理解できる本を著者に書いてもらうことだ。そのためには読者が何を知りたがっているのか,どんな内容に興味を持っているのか,どの程度の知識があるのか,読者の知的レベルはどうか,といった読者のイメージや意識レベルをまずつかむことが必要だ。
同時に読者の興味・関心を分析・整理し,自分の中に「読者の代表」としての自覚と知識と好奇心を持ち,著者にアタックしていく。読者より知識も関心も少ない編集者はまず失格である。著者は,そんな編集者はまず相手にしてくれない。
編集者は「著者と読者の架け橋」とよく言われる。読者の立場に立って,読者の先頭にいて,読者の代わりに著者と対峙する。一歩ではなく半歩前に立つことが大事だ。
編集者は“著者と読者の架け橋”である
14.見出し・リード・キャプションづくりは編集者の仕事
雑誌や新聞の文章は,大きく分けると,見出し,リード,本文の3つで構成されている。そのほか,写真説明用のキャプション(ネームともいう)やプロフィール,コラム,広告文などがあるが,中心になる要素は上の3つである。
見出しで,読者の興味を引きつけ,リードで本文を読ませる工夫をする。それぞれ大切な役割がある。キャプションも大事だ。雑誌や新聞のページをめくって,まず目に飛び込んでくるのは「写真」である。おもしろい写真,はっとする写真であれば,読者は興味を示す。そして写真の内容を知るためにキャプションを読む。それがおもしろければ,さらに深く内容を知ろうとして,本文を読むのだ。キャプションもリードの役目を持っている。リードとはleadのこと。「導く」という意味だ。内容や本文へ「導く」ものがリード文である。
見出し・リード・キャプション・コラム
15.レイアウトの基本は内容重視でいこう
編集者はいろいろな能力を求められる。その一つにレイアウトがある。日本語で「割付」というが,1ページ1ページの紙面を作っていく仕事だ。英語でlayout「外へ置く,配置する」と書く。横組の本と縦組の本ではレイアウトのしかたは違う。目の流れが違うからだ。また内容や読者対象,紙面に盛り込む素材や文字量によっても当然変わってくる。
書籍や雑誌のレイアウトは,その専用の割付用紙で行うのがふつうだ。書籍や雑誌はチラシやカタログと違って,ページの基本フォーマットがある。字詰め・行数・段数・版面など,紙面の形が決まっているのだ。それが割付用紙になっている。これがあると,レイアウトするときにたいへん便利だ。
レイアウトの技術はシンプルかつメリハリのある紙面作りであると前に書いた。細かい部分や形式はデザイナーやレイアウターの仕事である。それ以前に大事なことがある。盛り込む内容や素材を取捨選択すること,そして読者にぜひ見てもらいたい,読んでもらいたいものとさほどそうでないものとを区別し,大まかな大きさと配置を決めること--それが編集者のいちばん大事なレイアウトの仕事である。
大まかな大きさと配置は編集者が決める
16.組版の仕方はいろいろ
少し前までは写植の知識があれば,組版の問題はこと足りた。手動写植でも電算写植でも文字の組付専用であった。文字の名前も写研かモリサワの書体名称を知っていれば通用したし,大きさも級数で統一されていた。図版や写真は別個の作業で版下か製版で合体させる。組版の流れはシンプルであった。いまはそういうわけにはいかない。コンピュータを使った組版システムが普及して,組版が多様化してしまった。図版や写真を画像処理してはじめから組み込んだり,版下を必要としないシステムも行われたりして,組版の流れもたいへん複雑になってしまった。
とくにここ10年の変容は恐ろしい。竹やぶのタケノコのように和製・外国製の組版ソフトが出現した。そしてDTPという言葉が流行し,出版・印刷・デザインの業界では「マッキントッシュ」というパソコンが組版ツールとして普及した。しかしそのソフトも多様で,いまだにメジャーな組版システムはできあがっていない。同時に写研の組版システムも健在で,マッキントッシュとのデータ互換も可能で,編集者はどの組版システムで本を作ったらよいか,悩みが増えた。
組版システムの進化は著しい
注:最近では,WindowsPC・Adobe CS/CCでのDTP,モリサワパスポートのフォントが中心となっています。
17.欠かせないDTPの知識
Desk Top Publishingを略してDTPという。むかしは「机上出版」と訳されたが,いまはその訳はぴったりしない。あえて言えば「パソコンを使った組版システム」としたほうが現在の意味に合っている。
かつては,組版の仕事は印刷屋さんや写植屋さんの専門の仕事であった。しかしパソコンの普及で出版社やデザイン事務所・個人でも組版の作業ができるようになった。またDTPはプレゼンテーションや見本組ツールとしても有効で,自由自在に紙面の修正や変更ができたり,写真・図版も事前に取り込むことができ,形が確定すれば,そのまま組版フォームとして文字データを流し込み,大量のページ組も瞬時にできる。DTPはたいへん便利な組版ツールである。
編集者の本来の仕事は出版の“純粋ソフト”であるテーマ・企画・取材・執筆(原稿)という,いまはやりの言葉で言えば「コンテンツ」contents作りである。そのコンテンツを加工する道具として,またデータベース化して,CD-ROMやマルチメディア・インターネットという新しいジャンルのビジネスにも,DTPは大いに役に立つのである。
組版システムの流れを変えたDTP
注:最近では,Webメールを使ったデータ便のやりとりなどが当たり前になっています。
18.MACで何ができるか
いま「マッキントッシュ」というパソコンが出版・編集業界を席けんしている。略してMACというが,はじめは遊び感覚を取り入れた個人向けの楽しいパソコンとして世に出た。飛びついたのはグラフィックデザイナーたちで,瞬く間に彼らのデザインツールとして普及した。アプリケーションもDTP用の「クオークエクスプレス」,デザイン用の「イラストレーター」,写真加工用の「フォットショップ」に人気が集まり,デザイナーの“三種の神器”といわれた。
追い打ちをかけたのが新しい製版システムだ。MACで加工したデータはそのままフィルム出力できる。カラーの場合は4色分版の形でできてくる。これは画期的なことだ。MACが使えないと印刷デザインの仕事はできなくなってしまった。極端であるが,それに近い状況が生まれている。デザインができる,イラスト・図版が描ける,レイアウトができる,写真が加工できる,色が自由に付けられる,文字の組付ができる,写真やイラストを組み込んだ画面をはじめから見ることができる,修正や変更が自在にできる,さらに完成した紙面はそのまま製版フィルムになるのだ。
MACが印刷デザインのシステムを変えた
注:最近では,WindowsPC・Adobe CS/CCでのDTP,モリサワパスポートのフォントが中心となっています。また,印刷製版はフィルムではなく,CTP(コンピュータ・to・プレート)が使われています。
19.書体の知識と写植
各ページの文字の大きさや書体を考え,読みやすくメリハリのある紙面を作る仕事も本づくりの大事な仕事である。雑誌などでは,この仕事はデザイナーやレイアウターの分野になる。しかし小さい出版社では,この作業も編集者が行う。
むかしは見出し文字はおもにゴシック体,本文書体は明朝体と言われていた。もちろんいまはそんなことはない。写植の見本帳を見るとわかるが,和文・欧文ともびっくりするほど多種多彩な書体がある。力強い書体,上品な書体,堅い書体,柔らかい書体,繊細な書体,温かい書体,クールな書体,前衛的な書体,古風な書体など。一つひとつの書体ににそれぞれ独特のイメージがある。さらにまた文字の大きさや行間・字間の違いで雰囲気が異なる。見出し,リード,本文にそれぞれどんな書体を使うか,いつも迷う。雑誌はそれぞれの読者と個性を持っている。そのイメージや好みに合う書体を使いたい。書体のセンスが問われる。気に入らなければ,表題や見出しはオリジナルな書き文字を使ってもよい。
書体の研究は写植の見本帳が手っ取り早い。写研で言えば「ゴナ」や「ナール」など,おもな書体名は覚えておきたい。
写植書体見本(写研)
注:最近では,モリサワパスポートのフォントが中心となっています。
20.表記の知識が武器になる原稿整理
著者の原稿を整理するとき,いちばん基本になることは原稿の文字や符号が正しく使われているかどうかを吟味することである。「表記チェック」といわれる作業だ。
表記とは一言で言えば「書き表し方」のことであるが,漢字の使い方,平仮名・片仮名の使い方,漢字と仮名の使い分け,常用漢字,現代仮名遣い,送り仮名の付け方,区切り符号の使い方,人名・地名の書き方,外来語の書き方,外国地名・人名の書き方,敬語の使い方,数字の書き方,助数詞の基準,メートル法と計量単位,ローマ字のつづり方,差別用語など,その範囲は驚くほど広い。
これら表記には一定の基準があり,その知識を編集者は身につけておく必要がある。文化庁が作成した「現行の国語表記の基準」や大手新聞社や出版社が発行している『用語の手びき』や『用語集』などが参考になる。また「国語辞典」や「漢和辞典」のほかに「国語表記辞典」や「例解辞典」「漢字用例辞典」などの表記に関する辞典類も編集者必携である。
表記の知識は一朝一夕には身につかないが,まず「この表記はおかしい?」と疑う感覚が大事である。
おもな表記チェック
21.「校正恐るべし」
校正ミスは本づくりに付きもので,やってもやっても出てくる。校正がプロフェッショナルな仕事として成立する理由もそこにある。14年間,専門学校で「雑誌づくり」を教えているが,学生の校正ミスの多さに驚く。卒業制作として1人A4判12ページの雑誌を作ることになっているが,毎ページ文字や表記の誤りが見つかる。正しい言葉・文字を知らない。気がつかない。一字一字吟味することをしない。印刷になってから先生に指摘され,取り返しがつかない場合が多い。インタビューした人の名前を間違える学生もいる。本ができたら見せてほしいと言われても,恥ずかしくて持っていけない。
学生だけを責めるわけにはいかない。30年間本づくりに携わってきた私も,いままで顔が赤くなるような校正ミスを何度出したことか。今でもよく校正ミスの夢を見る。目が覚めて,「あー,夢でよかった」とほっとする。それだけ完全にミスのない本を作ることは至難の技である。
「後生畏るべし」ということわざがある。自分のあとから生まれてくるものたちを尊敬しようという意味だ。これをもじって「校正恐るべし」とよく言われる。知っておこう。
校正見本--初校正ではたくさんの朱が入る
22.ワープロ原稿に注意!
整理の終わった文字原稿はふつう印刷所や写植屋さんに渡され,そこで印刷用の文字組みが行われる。これを組版作業という。組版されたものをコピーしたりプリントしたりしてできたものが「校正紙」である。
校正の基本はこの校正紙と原稿との照合作業である。原稿を印刷文字に組んだときの誤りを見つける仕事だ。原稿が完全ならば,校正紙が原稿どおりになっているかを漏れなく確認すれば校正作業は済む。つまり組版上の誤りのチェック作業だけでよいのだ。しかし現実には原稿そのものに誤りがあったり,新たに直したい箇所が出てきたりする。
また最近はワープロ原稿が多い。データをそのまま使って組版を行うので,文字の誤りはないはずだ。その場合は校正する必要がないということになる。しかし現実は違う。ワープロ原稿は意外にミスが多い。それもとんでもない誤りが出る。ワープロは勝手に文字を変換してしまうからだ。ふつう正しい文字が見つかるまで確定しないが,原稿の内容に集中していたり,長い文章を一気に入力したりすると,一つひとつの文字の確定まで神経が行き届かないことが多いからだ。
とんでもない誤りが出るワープロ原稿
23.基礎として必要な現代仮名遣いと常用漢字の知識
校正者にまず必要な能力は「正しい言葉の使い方」に関する知識である。その基本が現代仮名遣いと常用漢字だ。
現代仮名遣いは昭和21年に内閣告示の形で「現代国語の口語文を書きあらわす仮名遣い」の準則を示したものである。それ以前の「旧仮名遣い」に対して「新仮名遣い」という。「こんにちは」「これは」などの「は」の用例,「じしん(地震)」「はなぢ」(鼻血),「うなずく」「もとづく」などの「じ・ぢ」と「ず・づ」の用例,長音・拗音・促音の書き方など,現代語を仮名で書き表す要領が示されている。
常用漢字は昭和56年に内閣告示の形で「法令,公用文書,新聞,雑誌,放送など,一般の社会生活において現代の国語を書き表す場合の漢字使用の目安」を定めたものである。「常用漢字表」(本表,1945字)と「付表」(当て字や熟字訓)からできている。常用漢字の音訓外の漢字は平仮名にしたり,ルビをつけたりして表す。「誰」とか「頃」など,よく見かける漢字でも常用漢字の音訓外の漢字であったりする。
そのほか,送り仮名の付け方も編集者の必須知識である。「本則」「例外」「許容」といった用語も知っておこう。
「現代仮名遣い」と「常用漢字」は国語表記の基準
24.ミスをしない校正のコツ
日本語の表記やテーマに関する知識を十分に持っていても校正ミスはよく発生する。気がつかない。見逃してしまう。同時にたくさんのことをチェックしようとする。締め切り日に追われ気持ちに焦りがある。自分の知識を過信する。一度だけの校正で終えてしまう。校正ミスの原因はいろいろある。
私は「校正作業は紙面との闘い」だと思っている。まず机の前を整理する。できるだけ片づけて,辞書と関連図書以外は置かない。深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。一切の雑面を払い,紙面に精神を統一する。「一つでも多く誤りを見つけるぞ!」と心に念じて取りかかる。集中力の持続が勝負だ。校正作業をしばらくしていると,体が熱くなってくる。汗が出てくるのだ。校正はそれだけのエネルギーが要る。
もちろん精神論だけではダメだ。内容・表記・形式・統一事項など,チェック項目を事前にできるだけ細かく用意する。校正マニュアルの作成だ。そして1項目ごとに作業を行う。ここがポイントだ。同時にたくさんの作業を行わないことだ。校正が終わるころには校正紙はボロボロになっている。
外部校正に出して,自分以外の目を通すことも大切だ。
校正作業は真剣勝負!
25.校正は文字だけではない
いままでは文字校正を中心に書いてきたが,校正は文字だけではない。写真・イラスト・図版の校正もあれば,紙面の大きさ,割付・文字面の寸法と位置の確認,色味や色分け,ページのかけ方などの印刷上のチェックも大事な校正作業だ。
写真・イラストの校正は製版後の色校正・青焼き校正の段階になるケースが多いが,大きさ・位置・色味のチェック,とくに写真は裏焼き(表・裏の逆使用)に注意しよう。図版は本文との整合性,記号類の統一などのチェックを忘れないこと。本は大半がA4正寸とかB5正寸とかの規格サイズで作られる。しかし,特別な寸法で製作されるケースも増えてきた。どちらにしても本のサイズの確認は必要だ。
校正で見落としがちなものが割付(レイアウト)・文字面の寸法と位置をチェックする作業だ。これに加えて天地左右の空き(マージン)スペースの確認も必要だ。これを版面確認という。また写真や色ベタを断ち切りで使用する場合の3mm飛び出し線の確認も忘れないでおこう。
色校正・青焼き校正のときは,本ができたときのページの順番が正しくなるかどうかという面付け確認作業がある。
いろいろある校正作業
26.製版って何だ
印刷のもとになるもの(版)を作る作業が製版だ。「整版」とか「精版」とも書く。いまはオフセット印刷が主流なので,製版もフィルム(写真)製版ということになる。フィルム(写真)といっても,我々が人物や風景を撮影する一般のフィルム(写真)ではない。印刷用の専門的な製版フィルムであり,カメラも製版用カメラである。写真家が使うカメラとはもちろん違う。
製版はまず1ページごとに文字・写真・イラスト・図版などを組み立てていく。文字や図版・線画のイラストはそのままフィルムにするが,カラー写真や濃淡のあるイラストは4色分解フィルムを作ったり,網撮りしたりしてから各ページのフィルムに組み込んでいく。また文字や背景(バック)に網をかけたり,色を付けたりする。これらは編集者やデザイナーの製版指定にもとづいて行われる。各ページができあがれば,次に印刷サイズに合わせて面付けする。本のサイズによって32ページ,16ページあるいは8ページの形でセットする。本のページを8や16ページの倍数にするのも印刷の面付けがもとになっているからだ。
4色分解の原理
注:最近では,印刷製版はフィルムではなく,CTP(コンピュータ・to・プレート)が使われています。それでも面付の原理は変わりません。
27.文字・写真・イラスト・図版の扱い
フィルム製版で文字や写真・イラスト・図版がどう扱われるかを知っておくことは編集者にとって重要なことである。とくに雑誌やビジュアル本の編集者にとっては,製版の知識は欠かせない。また製版のシステムも日々進歩している。
文字はふつうそのままフィルムに撮ればよいが,タイトルや見出し文字は白抜きにしたり,網かけをしたり,色分けしたりして加工することができる。また,コラム文などのバックに薄い色を付けて,他と区別する処理をする場合も多い。
写真はカラーとモノクロによって扱いが違うが,網撮りする点では同じだ。色の濃淡はすべて網点の多い少ないで表現するからだ。カラー写真は4色のかけ合わせで再現する。
イラストの扱いも写真とよく似ている。カラーイラストの場合はそのまま反射原稿として色分解するか,一度写真に撮ってから処理するかの2とおりの方法がある。また濃淡のないイラスト(線画イラスト)は文字と同じくそのままフィルムに撮る。図版類も大半が線画なので同じ扱いになる。
背景(バック)に色を付けたり網を引いたりする場合は,アタリ線を引いて色網指定をする。
文字と写真を組み合わせる
注:最近では,印刷製版はフィルムではなく,CTP(コンピュータ・to・プレート)が使われています。それでも網点の原理は変わりません。
28.これからはデジタル編集の時代
最近はフィルム製版の作業をコンピュータでやってしまうようになった。製版屋さんは出版社やデザイナーからデジタルデータをもらってフィルム出力するだけになった。
それだけではない。文字原稿も写真もイラストも図版もデザインもレイアウトもすべてコンピュータで作ったり作業したりする時代になった。文字原稿はワープロで,写真はデジタルカメラで,イラストや図版はグラフィックソフトで,デザインやレイアウト・原稿類のセットはDTPソフトを使って編集していく。そして,できたものをそのまま製版会社に渡せば,製版されたフィルムができあがってくる。まさにデジタル編集の時代がやって来たのだ。
デジタル編集とは原稿から組付・製版まですべてデジタルデータで行うことを意味するが,もちろんすべての原稿が最初からデジタルでなくてもよい。もとはアナログ原稿でも一度デジタル原稿に変換して処理することができるのだ。
しかしデジタル編集の時代になったとはいえ,いままでのアナログ的なシステムが完全になくなったわけではない。いまはまだ共存の時代だ。編集者には両方の知識が要求される。
デジタル編集の流れ
29.DTPと製版
デジタルの世界は怖い。長い間編集稼業をしてきて,最近思う率直な感想だ。15年ほど前からワープロやパソコンを使って本を作ってきたが,嫌な思いやたくさんの失敗がある。原稿を作っている最中に突然コンピュータが動かなくなり,全部もう一度やり直したり,保存したつもりのファイルが見つからなかったり,データが変な文字に変わってしまったりしたことが何度あったことか。また,初校では正しかった文字が再校ではおかしくなったり,画面では正しくなっているのにプリントすると違った文字で出力されるとか,手で書けば簡単なことなのにパソコンで作ろうとするとたいへんな作業になったり,いまだによくわからないことも起こる。
データの変換の問題は製版フィルムを作る段階でよく発生する。最近は少なくなったが,MACのDTPソフトを使って組み付けしたデータをフィルムに出力するとき,文字が化けたり(正しい文字に変換されないこと),表やグラフの位置がずれたりした現象がよく起こった。フォントが合わなかったり,ソフトのバージョンや環境設定の違いが原因のようであるが,最後まで気を抜けないのがデジタル編集だ。
出力依頼書はもれなく正確に!
注:最近では,印刷製版はフィルムではなく,CTP(コンピュータ・to・プレート)が使われています。それでも製版トラブルの原理は変わりません。
30.印刷の仕組み--主流はオフセット印刷
「印刷」といってもその意味は広い。組版から製本・加工までの工程すべてをいう場合もあれば,紙にインクで刷るだけの作業を「印刷」という場合もある。ここではこの狭い意味の「印刷」をさす。現場ではふつう「刷り」という。 印刷の方式は大きく3つある。凸版・平版・凹版である。これらは原理的な違いによる。スクリーン印刷・謄写版印刷などの孔版という方式もあるが,これは特殊印刷の分野だ。 編集者は凸版・平版・凹版印刷の特徴を知っておきたい。凸版印刷はふつう活版印刷といわれ,活字や写真版・凸版(図版やマークなど)をもとに木版画の原理で印刷する。輪郭が明確でくっきりしている。平版印刷の代表はオフセット印刷である。文字も写真も絵もフィルム製版して,版を作る。写植の普及やカラー写真製版の進歩で,今日の印刷の主流をなしている。安く早く印刷物を作るのに適しているからだ。凹版印刷はグラビア印刷が代表だ。写真などの濃淡を凸版や平版が網点の粗さで表すのに対して,グラビア印刷はインクの量で表現する。写真印刷に適した方式であるが,製版コストが高いし,校正刷りができないため普及していない。
オフセット印刷のしくみ
31.製本・加工・紙の基本的な知識
どんな形の本にするか,カバーや帯をどう作るか,本文や表紙にどんな紙を使うか,こうしたことを考えるのは編集者にとって楽しいことである。自分の子どもにどんな服を着せるかを考えるのといっしょだ。本づくりでは「製本」という。
製本には大きく上製本と並製本がある。上製本は中身より表紙が大きいこと,表紙に芯があること,見返しがあることの3つがそろっていることが条件で,一般にハードカバーといわれる。並製本はこれらの条件に合わないもので,ソフトカバーという。ただし見返しはあってもよい。また「かがりとじ」「平とじ」「中とじ」「無線とじ」といった本文の綴じ方も知っておこう。
カバーや帯は本に欠かせない。これらは読者の目に触れる表紙になるからだ。カバーにプレスコートをかけたり,PP貼りの加工をして,つやを出して目だたせる場合もある。
用紙はまず規格を知っておこう。A判・B判といった大きさの規格もあれば,重さ(厚み)の規格もある。次は紙の種類だ。恐ろしいほどたくさんあるが,上質紙・中質紙・コート紙・アート紙・色上質紙・ボール紙くらいはわかるだろう
本のおもな綴じ方
32.印刷所との相談・交渉
本を作るとき,著者と相談するよりも前に印刷屋さんと相談しろ!とよく言われる。製造原価や日程の問題だけではない。どんな本が見栄えがよいか,大きさは? 適切なページの量は? 製本様式は? 加工のしかたは? 見やすい本文用紙は? 見返しや表紙・カバーの紙は? など,中身や表紙・造本について相談にのってもらうためだ。また本のイメージをつかむために束見本を作ってもらい,専門家としての意見を聞く。親しくなれば,いまどんな本が人気があり,たくさん印刷しているかといった出版情報まで教えてくれるかもしれない。印刷屋さんは編集者にとって大切なブレーンだ。
そうは言っても印刷所との打ち合わせのポイントはやはり印刷料金と日程の問題だ。料金についてはこちらから造本仕様と印刷部数を提示して,見積もりを出してもらう形をとる。組版・製版・印刷・製本・加工・用紙それぞれに料金体系があり,やり方・内容で単価は千差万別である。自分で印刷料金の原価計算ができるようになれば,一人前の編集者だ。
印刷日程はふつう発行日から逆に計算する。それぞれの工程にどのくらいの日数がかかるか。編集者の常識の一つだ。
原価計算書
33.マルチメディアとCD-ROM
時代は常に変化する。デジタル編集の到来はペーパーメディアに留まらない。全く新しいメディアをも創出した。文字・映像・音声を同時に組み込むことができるメディア。しかも自由自在にアクセス・検索でき,こちらの希望する情報を瞬時に見ることができる。さらにインタラクティブ(双方向的)な機能も兼ね備えている。マルチメディアとその作品化されたCD-ROMはいま各出版社が注目している出版ジャンルである。書店にもパソコンショップにもさまざまなテーマのCD-ROMが並ぶ。今までのペーパー出版物をCD-ROM化したものからマルチメディアの特性をフルに生かした独自のCD-ROM出版まで,その点数は急速に増えている。
若い編集者にとってはたいへん魅力的なメディアである。しかしまだ生まれたばかりで,いまも進化し続けているメディアである。それだけに技術的な新しい動きや変化を常にキャッチしておかなくてはいけない。プラットホームをどうするか,オーサリングソフトは何を使ったらよいか,映像や音声の素材編集をどうするか,著作権の問題は? など,編集ベースとして検討しなければいけない問題は多い。
大型書店にはマルチメディアコーナーもできた
注:最近では,スマートフォンなどの普及にともない,マルチメディアが当たり前になったため,逆に「マルチメディア」という単語は使われなくなりました。
34.インターネットとホームページ
いまインターネットを利用したホームページづくりが流行している。ホームページは,メッセージや情報を世界の人にじつに簡単に発信することができる/読者はいつでも好きなときに何回でもその「ホームページ」を見ることができる/文字・写真・絵・音声・動画を同時に入れることができる/「リンク機能」を使って見たいページや好きなテーマに簡単に移動したり,詳しい内容や関連することがら,対応する写真・イラスト・ビジュアルをすぐに検索して見ることができる/内容はいつでも自由に何度でも更新・変更・改善・追加することができる/好きなページだけを自由にプリントアウト(印刷)したり,ダウンロード(保存)することができる/相手からのメッセージを気軽に送ってもらうことができる/「リンクコーナー」を利用すれば広がりのあるネットワークを作ることができるなど,いくつかユニークな特徴を持っているメディアだ。「ページ物」であり,中身づくりは編集者の仕事である。実際の制作はHTML言語なり,専用のソフトを使って行う。またデータの容量を減らして画面に出る時間を早くするなど,専門的な加工知識が要求される。
さかんに作られているホームページ