AJEC18期9月編集講座「フォントとDTP」を受講して

【講義内容】
◎オンライン講座
 「フォントとDTP」
     講師:藤本 隆(ふじもと たかし)氏
       株式会社ベネッセコーポレーション/ものづくり推進本部

【講師略歴】
ベネッセグループの編集専門会社にて編集業務に長年携わり、2024年度よりベネッセコーポレーションに勤務。
学習教材をはじめ、情報誌・フリーペーパー・教育系タブロイド・資格系教材・広告チラシ・フライヤーなど、広範な印刷媒体の制作に携わり、原稿、記事の執筆、イラストレーション、DTPデザインも行う。

また長年、編集者育成研修の講師を務める。
著書に『印刷発注の基本がわかる本』(日本能率協会マネジメントセンター)。

──AJECの講師紹介より

 今回の藤本隆さんオンライン講座は、「フォントとDTP」でした。三年前に、「フォントとDTP組版」という講座がありましたので、今回は、同じような内容としては2回目になりました。

 前回は、「フォントとDTP」の講座の前に、「漢字の歴史と文字コード」についての講座がありましたので、JIS規格の話や、文字コードの混乱の話が、よく分かったのですが、今回は、それがなかったので、フォントの話が少し難しかったかもしれません。しかし、丁寧な説明で、InDesignを使って具体例を見せていただき、理解が深まったのではないでしょうか。

 以下、藤本さんの講義の内容を簡単に紹介します。

<講義内容>

【フォント】
●字体と書体の区別

 ・字体とは、字の点画や字を構成する骨格の違い。

 ・書体とは、字のデザインの仕方や細部の表現の違い。

→「書体のウェイト」とは、書体を揃えた上で文字主要部の太さを変えるもの。フォントファミリーとは、ウェイトの違ったモノをまとめたもので、フォント名の末尾に、ウェイト記号がついている。

フォントとは、書体の同じ文字集合をデータ化したパッケージ

→かつては、スクリーンフォント(モニター表示)とプリンタフォント(印刷用)というように、用途別に作られていたが、現在は、一つのフォントで両方できるようになっている。

・印刷用フォントには、PostScriptCID(商業用)とTrueType(民生用)があったが、現在では、OpenTypeに統一されている。

→印刷用フォントとしては、①高精度なアウトライン(輪郭)が描けること、②基本書体とファミリー(ウェイト)が揃っていること、③異体字を含む多くの文字種が扱えることなどが必要。   

●OpenTypeフォントの特色
 ・ベジェ曲線による高精度な曲線の描画。
 ・印刷用フォントメーカー(特にモリサワ)が積極採用。
 ・Unicodeベースでより多くの文字種を収録可能。
 ・AdobeとMicrosoftが共同開発。
  ▶Adobe-Japan 1規格

→Adobeが日本語DTP用に策定した符号化文字集合。
2004年 AJ 1-6 23,058字 OpenType-Pr6(JIS90 準拠字体)。
2007年 AJ 1-6N 23,058字 OpenType-Pr6N(JIS2004 準拠字体)。

  ▶文字のユニバーサルデザイン(UD書体)

→モリサワUD書体は、「文字のかたちがわかりやすいこと」「文章が読みやすいこと」「読み間違えにくいこと」をコンセプトに開発された。その場合、「小サイズですべての文字が問題なく判別できること」を一つの基準として、書く文字が見直されている。

 
【DTP(Desktop Publishing)】
●日本におけるDTPの始まり
  Macintosh漢字Talk6.0.7(Apple・1990)→Macでの日本語環境が整う。
  PageMaker3.0J(1989)・QuarkXpress3.1J(1993)→DTPアプリの日本語版が発売される。
  リュウミンL-KLと中ゴシックBBB(モリサワ・1989)→日本語PostScriptフォント搭載プリンタが発売される。
●現在は、Adobe CloudにあるDTPアプリケーションが主流(DTP三種の神器)。
  Photoshop→おもに写真画像等の調整・加工・特殊効果を行うためのアプリ。
  Illustrator→おもにデザインパーツやイラストを作成するためのアプリ。 
  InDesign→写真や図版、テキストを集版して多ベージの組版を行うためのアプリ。  
 ※このほかに、PDF作成のためのAdobe DCもよく使われる。 
●DTPアプリの必須要件(InDesignの場合)
 ①印刷・製本仕様への対応
  →見開き編集・ページ一覧編集・トンボつきゲラ出力。
 ②CMYKカラーへの対応
  →CMYKの取り扱いと編集・分版・レジストレーション。
  ※モニター出力は、RGBカラー。
 ③細密な組版ルールへの対応
  →ツメ・ルビ・組版ルール・禁則。
●組版をはじめる前に設定しておくこと
 ①マスターページの作成と設定
 ②必要な色の作成と設定
 ③文字スタイル・段落スタイルの作成と設定

→DTPオペレータの作業工数を減らし、手作業によるロスやミスの発生を抑制する。

→編集・修正・流用時にロスやミスが発生しない「きれいなデータ」を作成する。

→機械でできることは機械に、機械にできることを増やす=非破壊で再利用できるデータを作成する。

●DTPデータの入稿(印刷所にデータを渡すとき)
 ・ネイティブ入稿(以下の物をセットで渡す)
   データを作成した組版アプリのデータ
   リンクとして配置したファイル
   必要であれば、フォントデータ
 ・PDF入稿(PDF/Xによる入稿)
   PDF/X-1a CMYKカラー・透明機能の分割
   PDF/X-4   RGBカラー・透明機能への対応
●更なる組版の効率化のために
 ・Scriptによる自動化・バッチ処理
 ・自動組版アプリとの連携
 ・変換アプリによる自動組版
 ・xmlによるスタイルシート自動組版
  ※単にソフトを道具(ツール)として使うだけでなく、仕組みを工夫することが大事。

◎編集者の使命について
 ・文字を、紙に、スクリーンに、データに、正しく表現する。

→文字の扱い・フォント・DTPについて、正しい知識を持つことで、トラブルを回避し、先手を打った政策ができる。

<感想>
 三年前の講座では、「漢字の歴史と文字コード」の講座の続きだったので、日本語における漢字の多様性についてよく分かっていたので、「フォント」の話にスムーズに入っていけました。今回は、三年ぶりであり、文字コードの理解は前提にされていなかったので、字体と書体について、多少戸惑った人たちがいたかもしれません。興味のある方は、エディットの過去の情報レポートに「漢字の歴史と文字コード」のレポートがありますので、参考にしてください。

 戦後、当用漢字ができ、さらに常用漢字に改訂されました。その後、漢字制限から拡張の方向に舵を切ったことから、多様な漢字の字体が許容されるようになりました。特に、戸籍謄本などに使われた文字や地名などが大量に、デジタル文字として使われるようになり、印刷使用可能文字数が劇的に増加しました。また、部首や旁などの新字体、旧字体の混用などもあり、Adobeの字体もそれに対応して使われるようになりました。2004年につくられた「AJ 1-6 23,058字 OpenType-Pr6(JIS90 準拠字体)」は、新字体に統一されたものであり、2007年につくられた「AJ 1-6N 23,058字 OpenType-Pr6N(JIS2004 準拠字体)」は、常用漢字以外は、旧字体を中心にしたものです。こうした、漢字の使い分けは、実際にInDesignを使用して、設定などが例示されていて、とても分かりやすかったです。

 ところで、私が、DTP組版で衝撃を受けたのは、教材などの教師用アカ版をつくるとき、レイヤーを分けて児童用と教師用をつくり、校正の段階で重ね合わせてPDFをつくれば、簡単にアカ刷りの校正ができることでした。私個人としては、Photoshop、Illustrator、そしてInDesignなどが、いろいろなレイヤーを駆使して、多様な組版(マスターページの設定などもそうです)の仕方ができることに驚きと、編集者の仕事のしやすさに感動しました。今回の講演では、この点より、フォントの取り扱いが中心でしたが、フォントの取り扱いもとても便利にできることがよく分かりました。

 私が編集を始めたころは、日本語のフォントとしては、写研、モリサワなどがありましたが、DTPが始まる前は写研のフォントが圧倒的なシェアを占めていました。デジタル化が起こり、DTPが始まったとき、写研はあくまで写植機メーカーとして生き残ろうとして生き残れませんでした。他方、モリサワは、フォントメーカーとして生き残りました。DTPが印刷業界の標準の時代になって、Adobeと連携しながら、新しいフォントを次々と開発して、現在では、フォントメーカーといえばモリサワと言われるようになっています。しかも、近いうちに、写研のフォントも、モリサワからフォントとして、利用できるようになるそうです。写研の時代を知らない人は、新しい書体だとみられるでしょうが、私たちのような写植時代の編集者にはある意味では、懐かしい書体に出会えることになります。

 結局、写植機が使われなくなって、写植機メーカーに拘った写研という会社がなくなってしまいました。また、コンピュータで手軽に書いたり、印刷したりできるということで、一時期ワープロ専用機が日本の会社で作られるようになり、流行しました。しかし、これらは、やがて、PCのワープロアプリに駆逐されていってしまいました。編集者時代に、ワープロ専用機で書かれた原稿を著者からいただき、組版に回すときにデータの互換性という問題で、とても苦労した思い出があります。

 ところで、日本のDTPは、Macintoshで始まりました。DTPとは「Desktop Publishing」の略で、日本語では「デスクトップパブリッシング」と言います。DTPは、パソコンを使って印刷物をデザインし、レイアウトを行う技術やプロセスを指します。これにより、書籍、雑誌、パンフレット、ポスターなどの印刷物を専門的な印刷会社に依頼することなく、個人や企業が自ら制作することが可能になります。このことから、印刷関係、デザイン、イラストレイターなどは、印刷の必須のツールとしてMacを使うようになりました。最初は、Illustrator、Photoshop、InDesignなどは、Macでしか使えませんでした。したがって、一般企業では、Windowsがメインでしたが、印刷業界では、Macがいわば標準のPCだったとも言えます。

 藤本さんが述べられたように、DTPソフトを使えば、テキストの入力・編集(原稿の入力や修正、文字の書体やサイズ、行間の調整など)、画像の配置・編集(写真やイラストなどの画像を配置し、サイズや色調などを調整)、レイアウト(テキストや画像を配置し、全体のバランスを整えること)が、PCで全て可能になります。少部数のものはそのまま印刷すればよいですし、大部数で製本するものは、印刷用データを作成(印刷会社に出力するためのデータ、PDF/Xによる入稿)して、印刷所に渡すことができます。

 これは、いままで悩んできた、フォントの問題や組版の問題の革命的な解決になったと思います。大きな印刷会社は、現在でも内部で組版などをやっていますが、いわゆる組版だけをする会社、製版だけをする会社は、消えてなくなってしまいました。DTPの普及によって、高品質な印刷物を作成できる(プロのデザイナーでなくても、比較的簡単に高品質な印刷物を作成できます)、時間とコストを削減できる(従来の印刷工程に比べて、時間とコストを大幅に削減できます)、修正が容易で印刷前に何度でも修正できるので、より完成度の高い印刷物を作成できるようになりました。DTPは、印刷業界の革命だったと思います。

 もちろん、前回の講座の感想でも述べましたが、よい点もあれば、不都合な事態もあります。いちばん大きな問題は、品質向上と品質保証の工程が渾然一体化してしまったということかもしれません。デジタルデータの活用により、原稿作成や修正、レイアウトなどと組版が同時進行していたりして、いつまでも品質向上にこだわらざるを得なくなってしまっていることもあります。そのためかもしれませんが、現在、Adobeの三種の神器のようなDTP基本ソフトを使えるかどうかは、編集者の必須の技術ではありませんが、必須の知識や技能になりつつあります。藤本さんのDTPについての解説は、DTPソフトを使ったことがある人には、とてもよく分かります。

 私もまだ編集者だったころ、Windows版でAdobeの三種の神器が使えるようになったとき、自腹で購入して、しばらく挑戦したことがあります。PhotoshopやIllustratorは、デザイナーでないとなかなか使いこなすのは難しいですが、InDesignは、組版の知識があると、Word感覚で、しかもWordより便利に組版ができます。ただ、当時は、InDesignのデータは容量が大きく、その点、使いにくいところもありました。

 しかし、現在では、編集者がInDesignなどのDTPソフトウェアを使えることは、非常に役立つスキルです。MacでもWindowsでもサクサクと動かせますし、ネットが早くなり、使いやすくなっています。編集者がこれらのツールを使いこなせると、仕事の幅が広がります。例えば、レイアウトやデザインの理解が深まります。 DTPソフトを使うことで、ページレイアウトやデザインの基本的な原則をより深く理解できるようになります。これにより、デザイナーやDTPオペレーターとのコミュニケーションがスムーズになり、指示も的確に出せるようになります。

 また、簡単なレイアウトや修正が自分でできます。 デザイナーやDTPオペレーターに依頼しなくても、自分で簡単なレイアウトの変更や修正ができるため、作業が効率的に進められます。特に、締め切りが迫っている場合や、ちょっとした修正が必要な場合に便利です。

 さらに、校正がしやすくなります。InDesignを使うことで、文章の流し込みや文字組み、行間、フォントサイズの調整などを自分で確認できるため、校正の際により細かいチェックが可能になります。そして、小規模なプロジェクトや予算が限られている場合、編集者自身がDTPを行うことで、コストを削減しながらも、クオリティの高いものを制作できる可能性があります。

 ただし、DTPソフトウェアを使いこなすことが重要かどうかは、その編集者の役割や働く環境にもよります。大規模な出版社やデザインの専門職と協働する場合は、基本的な知識があれば十分なこともありますが、より小規模な出版社やフリーランスの場合は、実務的なスキルとして身につけておくと、非常に有用だと思われます。ただし、慣れないと、余計に手間がかかり、専門家にまかせた方が効率がよいということもあります。その場合は、組版は専門家にまかせて、編集者は編集者としての本来の仕事に集中した方がよいです。 

 ただ、生成AIの登場によって、DTP基本ソフトの知識・技能は、多分必須になっていくのではないかと私は予想しています。生成AIの活用には、ある種の専門知識が必要です。生成AIによる生成物は、多分これからもそのままでは使えないと思われます。出版物のデジタルデータになるまでには、編集者の修正作業が必要です。いまのところ、AIと人間は共同しながらでないと、クリエイティブな仕事はできないのです。そのためには、DTP基本ソフトの知識・技能が必須になると思われます。

(文責:エディット東京オフィス 塚本鈴夫)