オンライン講座「凡人でもヒットを出せる企画術」
講師:大坂 温子(おおさか あつこ)氏 朝日新聞出版・書籍編集部
【講師略歴】
1985年生まれ。2012年に朝日新聞出版入社。主な担当書籍に、18万部突破した『天才はあきらめた』(山里亮太)のほか、シリーズ累計75万部を突破した『頭に来てもアホとは戦うな!』(田村耕太郎)がある。同書は2018年オリコンビジネス書ランキング1位を獲得し、2019年ドラマ化。そのほか『「やりがいのある仕事」という幻想』(森博嗣)(9.3万部)、『朝日ぎらい』(橘玲)(2019年新書大賞入賞)などを担当。
今回は、編集講座のLコースの第2回目で、朝日新聞出版でベストセラーを幾つも出している大坂温子さんの登場です。ここでは大坂さんの講座の流れ・内容を紹介します。
講義内容
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はじめに──100万部を出している編集者にきいてみた
- 企画の情報源 → 自分自身
「じぶんがほんとうにおもしろいと思うものをつくったらいい。自分に近い感覚の人は必ずいるから。あんまりマーケティングに意味は無いと思う」 - 自分が面白いと思うものをつくり続けたら、ベストセラーが出せるようになった。
- 企画の情報源 → 自分自身
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企画の立て方の基本の「き」
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企画のスタートはここから
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著者ありき → 強い著者とは
- ベストセラーを量産している方
- 平均的な消化率が高い方
- メディアへの露出が多い方
- SNSのフォロワーが多い方
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テーマありき → 強いテーマとは
- 時事的なこと
- 多くの人が常に興味・関心のあること
- ニッチなジャンルではあるけれど、熱心な読者がいる層
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著者ありき → 強い著者とは
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やってはいけないこと
- 類書のない企画は、絶対やっちゃダメ!
──そもそも読者がいないと思われる。 - 売れているからって、大して興味もないテーマには絶対手を出さない。
──大けがをする可能性がある。
- 類書のない企画は、絶対やっちゃダメ!
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どうやって企画を立てるのか?
- 加藤昌治著『考具』を参考に、「アイデアに完璧さは不要」「量が質を生む」ということから、「ちょいメモ」をすることに。
→ 一日一個企画をつくり、メモに残す(最低、著者とタイトルを書く)。
※一日一個企画術のメリット - ネタ切れが存在しない。
- ゴミのようなアイデアのなかから、光る企画を客観的に見つけることができる。
- 常におもしろいものをみつけようとする姿勢が生まれる。
- 加藤昌治著『考具』を参考に、「アイデアに完璧さは不要」「量が質を生む」ということから、「ちょいメモ」をすることに。
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タイトル先行型企画のすすめ
- 中味はあとから考える形で、OK!
- 企画の段階から決まっているタイトルは強い(売れやすい)。
- 自分の心に強烈に刺さったなら、同じように刺さる読者はきっといるはず!
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有力な情報源
- 書籍→著者(実績ありで堅い)、テーマ
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ウェブ→旬なテーマ
具体的な情報源- はてなブックマーク
- 匿名掲示板のまとめサイト
- 新聞→著者(比較的無名でもこれから可能性がある)
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読者がいるかどうか、どうやって見極めるのか?
- 人と話す。
今どんなことに興味があるのか、どんなことで悩んでいるのか、自分の興味をぶつけて、共感を得られるかを探ってみる。 - 本の売り上げランキングを眺める。
「こういうのが売れるんだな」ということを日常的に身体にしみこませる。マーケティングは必要ないが、“なんとなくうれそう”という感覚を養うことは大切。 - 書店を歩く。
ランキングからこぼれ落ちているヒットをさがす。自分がやりたい企画と「書店さんが売りたいもの」をすりあわせる。 - 上記のことが難しい場合、ネットを見て、リアルな悩み、違和感、興味を知る。
「私と同じ悩みを持っている人がたくさんいる」「こんなことを面白がる人がいるんだ」「その違和感、わかるなあ~」など。
- 人と話す。
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編集は、しんどいことをお金にかえられるラッキーな仕事
- 自分と同じように悩み、もがいている読者は必ずいるはず。
- 企画としてアウトプットすると、悩みもスッキリして、一石二鳥。
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企画のスタートはここから
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『頭に来てもアホとは戦うな!』の売り伸ばし戦略の紹介
- ベストセラーは,書店から生まれる。
- 書店員さんが「店頭に置きたい」と思えるように、帯はどんどん変えよう!
- 売り伸ばしの最大の要因はテレビの力(テレビで取り上げてもらう)。
- その他に、公式ツイッターの立ち上げ、商品サイトの紹介、AERAdot.へのパブ記事など。
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ベストセラー編集者に聞いてみた
──コロナ禍の中、「金、勉強、教育」は強い三大テーマ。- 『本当の自由を手に入れるお金の大学』(両@リベ大学長)
- YouTube開設からわずか二か月でオファー。
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なぜ、そんなに早くオファーしたのか。
- 著者としてのキャラが立っていた。
- 本当のことを言っていると感じた。
- 体系化された内容が書籍向けだった。
- 『京都ぎらい』(井上章一)
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渋々と続けたからこそ生まれたベストセラー
- やりたいことなんかなかった。
- 編集者は今も向いてないと思っている。
- でも目の前のことを面白がる力があった。
- 悩むのは暇な証拠。目の前のことに集中する。
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渋々と続けたからこそ生まれたベストセラー
- 『本当の自由を手に入れるお金の大学』(両@リベ大学長)
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ベストセラーを出すために、「企画術」よりも大切なこと
- 社内の人とできるだけ仲良くしよう──5万部までは企画の力、5万部からは人の力。
- 「本」できちんと感動し続けること──本は自己実現のツールではない。
- 続けること。
<参考> おすすめ本4冊
- 堀田貢得・大亀哲郎著『編集者の危機管理術: 名誉・プライバシー・著作権・表現』(青弓社2011/12/9)
- 武部良明編『現代国語表記辞典』(三省堂1992/8/1)
- ジョン・ケープルズ著『ザ・コピーライティング――心の琴線にふれる言葉の法則 』(ダイヤモンド社2008/9/20)
- 小学館辞典編集部編『句読点、記号・符号活用辞典。』(小学館2007/9/13)
感想
今回の講師の大坂温子さんは、書店サイドでも売れる本をつくっている編集者として有名になっているようです。紀伊国屋書店新宿本店で、大阪さんの編集した本のフェアをやっているほどです。朝日新聞出版では、ノルマは特にな無いそうですが、年間8~10冊ほど本をつくるそうですので、この間、かなりの点数をつくっていることになります。大坂さんは、読者と等身大の自分というものを自覚して、自分が面白いと思う本をつくってベストセラーを出している編集者であり、編集者としてのタレント性も持っている人でもあります。大坂さんは、はじめはKKベストセラーズに入社し、4年ほどしてから、朝日新聞出版で募集があったので、応募して転職したそうです。かなり、行動力のある編集だと思います。 今回の講演は、「凡人でもヒットを出せる企画術」というタイトルからも分かるように、自分を凡人と規定していますが、「凡人」というところを強調されているところに、読者をつかむ才能があるのだと思われます。これは、二月のAJEC編集講座で話された谷綾子さんとも共通していて、自分の「凡人」としての感覚の普遍性を信じているのだと思われます。大坂さんはネットなども有効に活用されていて、好奇心が旺盛であるようです。ただ、KKロングセラーズと朝日新聞出版の違いは、私には明確には分かりませんが、出版物の印象として、朝日新聞出版のほうが、著者とテーマを重視しているような気がしています。
今回、語られた内容は、著名人の役立つ言行録ではなく、地味ながら本が好きな編集者のあり方として考えるべきだと思います。最初から、ベストセラーを出すことを大きな目標に編集者になった大坂さんが、結果としてベストセラー編集者になれたのは、大坂さんの著者やテーマへの感覚の鋭さだと思われます。その意味では、朝日新聞出版が大坂さんには合ったのだと思われます。面白いテーマを面白い本にできる著者と、どう出逢うのかが企画のポイントです。そのために行っている、「一日一つ企画メモ」を書くという作業は、いろいろな意味で編集者の企画力を向上させることに役立っているのだと思いました。大坂さんが教えを請うたベストセラー編集者たちは、「編集者は、自分がまず面白いと思うものでなければダメだ!」と言っていますが、それは、ベストセラーをつくるためだけでなく、本づくりの基本だと思われます。そして、「凡人」であるからこそ、自分の感覚を信じて本をつくると、結果として、それがベストセラーになり得るということを言っているのだと思います。もちろん、いろいろと本が売れるようになるために確認作業はされていますが、自分が面白いと思うものは、多くの読者も面白いと思ってくれると信じているようで、大坂さんは、自分の感覚にかなり自信を持っていると思われました。企画の立て方について言えば、著者とテーマをどう選ぶかということが、ヒットに結びつく最大のポイントになるということを大坂さんは強調されていましたが、著者とテーマの選び方は、まさしく編集者の感覚としか言いようがありません。もちろん、編集の仕方、読みやすい本づくり、タイトル、PR、販売法のなどがヒットには必要です。そして、大坂さんが言うように「5万部までは編集者の力で、それ以上はみんなの力」というように考えて行動することが大切なのだと思います。要するに、毎日企画を立て続けるとか、興味をもってWebを見るとか、ベストセラーを常に見ておくとか、日常的な著者やテーマおよび本の形に対する感覚を磨いておくことというのは、編集者として企画を立てるためには、当たり前のことだと思われます。そして、そうした当たり前のことが十分にできれば、続けられれば、凡人でも、いや、凡人だからこそ、ヒットが出る本をつくることができると言っているように思いました。