オンライン講座「編集制作工程と編集者の役割」

講師:藤本 隆(ふじもと たかし)氏  プランディット 編集事業部 編集長

【講師略歴】
ベネッセグループの編集専門会社にて編集業務に長年携わる。学習教材をはじめ情報誌、フリーペーパー、教育系タブロイド、資格系教材、広告チラシ、フライヤーなど広範な印刷媒体の企画・制作経験を持ち、原稿、記事の執筆、イラストレーション、DTPデザインもこなす。ベネッセグループ各社向けの育成研修講師を務める。 著書に『印刷発注の基本がわかる本』(日本能率協会マネジメントセンター)。

 AJECの編集教室として、初めてのオンライン講座でした。司会から藤本さんの紹介があり、藤本さんがスライドを見せながら、講演されました。JEPAの講演、超教育協会の講演など、いろいろなオンラインでのセミナーに参加したことがありますが、それらと比べても、1時間半の時間を有効に使い、とても丁寧な説明で分かりやすい講義でした。

 藤本さんの講義はシリーズになっていて、これから一ヶ月おきに設定されています。今回の講義は、その総論としての位置づけのものでした。

 以下、藤本さんの講義の内容を簡単に紹介します。

講義内容

  • 印刷と組版の歴史
    • 組版、製版、印刷の歴史
    • 活字組版から写植組版を経てDTP組版へ
    • 鉛版からフィルム製版を経てCTP製版へ
    • 活版印刷からオフセット印刷へ
    • オフセット印刷の仕組みについては、見事なアニメーションのスライドで、とても分かりやすく説明されていました。
  • 1冊の本ができるまで
    1. 企画立案 →編集
    2. 企画立案 →編集
    3. 組版(初校、再校、校了)→プリプレス
    4. 製版(色校)→プリプレス
    5. 印刷 →プレス
    6. 製本 →ポストプレス
    • ここでは、①から⑥までの工程にどんな人たちがいて、どんな役割を果たしているかが簡単に紹介されていました。
    • この工程の説明の中で、「企画」と「規格」という二つのキーワードについて説明がありました。分かりやすく、とても参考になりました。
      • 企画とは、テーマ、セグメンテーション、切り口、見せ方、メッセージなどの内容
      • 規格とは、仕上がりイメージ、製作体制・製作フロー、具現化のための仕様、ルール、予算など決め事
      • 本の製作には、企画と規格のバランスが大事だということ
      • 「どんなに見栄えが良くても、企画が悪ければ読まれない」
      • 「どんなに優れた企画も、的確に具現化されなければ伝わらない」
  • 各工程の詳細
  • ①から⑥の工程で、編集者がどんなことをして、どんな外部協力者がいるのか、少し詳しく説明
  • 編集者の立ち位置
    • 編集者は、取材先、カメラマン、執筆者、イラストレ-ター、デザイナー、組版会社、校正者、印刷会社とそれぞれ対応して付き合っていく
    • 編集者は、それぞれの外部協力者に「普段ならこれで終わるけれど、後もう少し見直して完璧に仕上げよう」とか「ほかでもない○○さんのいうことなら」などと応じてもらえるようになることが大事
    • 「編集者は扇の要」であり「後工程はお客様」
  • 本についての知識一覧
    • 紙面の構成要素
    • ゲラの各部名称
    • 旧字・正字・異体字など
    • コンプライアンス
    • 編集者に必要なもの
  • まとめ──編集者と製作工程の理解
    • 印刷媒体の標準的な製作工程を知り、各工程に必要な知識を身につけること
    • クライアントや製作に関わる各プロフェッショナルと共通の言語で精度の高いコミュニケーションが取れる
    • 無理・無駄がなく、コスト的にも優れた業務設計ができ、スムーズでリスクの少ない制作をすすめることができる

感想

 全体としては、編集者が本をつくるとき、どんな人たちと、どんな仕事をしていくのか、そして、そのとき、どんなことが大切なのかという講義でした。

 講義の最初に話された「印刷と組版の歴史」は、なかなか興味深かったです。

 私は、写植組版が全盛のころに出版社に就職しましたが、一部、活版印刷が残っていて、活字組版から、DTP組版まで経験しました。しかし、もう活字組版も、写植組版も普通には使われていません。そういう意味では、少し懐かしい気がしました。藤本さんから、写植で使う文字盤のスライドを見せてもらったときは、感動しました。昔、知り合いの写植屋さんのところに行って、実際に文字組をしているときの現場を見せてもらいましが、とても細かい仕事で、文字盤の一字一字を拾って、印画紙に焼きつけていく作業は、とても疲れる大変な仕事だなと思ったものです。

 また、①の企画立案から⑥製本までの、各工程については、どんな仕事があり、そこで編集者はどんな人たちと、どのように付き合っているのかが分かりやすく説明されていました。その上で、「編集者に必要なもの」(資質)を下記のようにまとめられていました。

  • 基本的な編集スキルと、複雑な仕事の流れを整理して進める段取り力
  • クライアントをはじめ、各工程のプロフェッショナルとスムーズなやりとりを進める交渉力
  • 担当するテーマ・分野に対する深い専門性と、担当するテーマ・分野を広い視野で位置づける幅広い知識
  • 各工程における作業内容の理解と、各工程で扱われる用語の正しい理解

 言われてみれば、当たり前のことのようですが、①企画立案~⑥製本までの各工程のなかで、編集者としての立ち位置を理解すると、「編集者に必要なもの」がより分かりやすく、より切実なものであると感じられました。まだ編集の仕事に就いたばかりの人だけでなく、かなり経験を積んだ人たちも、もう一度、編集者としての仕事の棚卸しをしてみるためにも、いい機会だと思いました。各工程での内容の細部については、今後シリーズとなる藤本さんの編集講座で、詳しい解説がなされる予定になっていますので、とても楽しみです。ちなみに、3月編集講座が「校正記号と校正補助ツール」、5月編集講座が「漢字の歴史と文字コードとフォント」になっています。どちらも、同じ藤本さんの講座です。藤本さん自身が,私たちと同じ編集プロダクションの編集者でもあり、より具体的な話が聞けそうです。

 今回は、特に本づくりということに焦点を絞った講義でしたが、読者に手に取ってもらえるようにするためにどうしたらよいか、紙の本の社会的役割や未来についてなどは、また、別の講師の講義もあるようなので、そちらも楽しみです。最後に、ひとつAJECに注文があります。これは、Zoomでのセミナーなので、おそらくセミナーの録画がなされていると思います。夕方の6時から7時半というのは、自宅で見る人たちには、食事時にあたり、時間的に見るのが困難な人たちもいるようです。また、退社後の帰宅途中という場合もありそうです。そのためにも、Webセミナーの録画の活用ができればいいと思いました。

 今回が初めてのWebセミナーでしたが、とてもよかったと思われますので、AJECでの今後の対応を期待しています。

(文責:東京オフィス 塚本鈴夫)