9月編集講座「印刷・製本の歴史と現在」(藤本隆氏)に参加して
◎オンライン講座「印刷・製本の歴史と現在」
講師:藤本 隆(ふじもと たかし)氏プランディット 編集事業部 編集長
【講師略歴】
ベネッセグループの編集専門会社にて編集業務に長年携わる。学習教材をはじめ情報誌、フリーペーパー、教育系タブロイド、資格系教材、広告チラシ、フライヤーなど広範な印刷媒体の企画・制作経験を持ち、原稿、記事の執筆、イラストレーション、DTPデザインもこなす。ベネッセグループ各社向けの育成研修講師を務める。
著書に『印刷発注の基本がわかる本』(日本能率協会マネジメントセンター)。
(AJECの講師プロフィールより)
AJECの第16期の2回目の編集講座は藤本さんのオンライン講座でした。今回は、前期になかった印刷・製本の話です。
AJECでも、コロナ禍の前には、毎年一度、大日本印刷の工場見学という研修会がありました。今回は、それをオンラインで藤本さんがツアー・ガイドのように丁寧に紹介してくれました。写真やアニメーションを利用して、まるで工場見学に行ったように学べたのではないかと思います。
以下、藤本さんの講義の内容を簡単に紹介します。
<講義内容>
●印刷と組版の歴史
※詳しくは前回のレポートを参照してください。オンライン講座「編集の基礎─工程と役割─」
- 組版の歴史
活字組版 ⇒ 写植組版 ⇒ DTP組版へ
- 製版の歴史
紙型と鉛版 ⇒ フィルムと刷版 ⇒ PDFと刷版
- 印刷の歴史
活版印刷 ⇒ オフセット印刷
- 製本の歴史
洋装綴じ ⇒ 中綴じ・無線綴じ
●印刷の原理と印刷方式
凸版→活版印刷・樹脂凸版印刷
凹版→グラビア印刷
孔版→スクリーン印刷
平版→オフセット印刷
版なし→インクジェット印刷
※アニメーションを使って、インクがどのように紙に転写されるか、説明されていました。
●プロセスカラー印刷
- カラー印刷は、色の三原色を利用して、C(シアン)、M(マゼンタ)、Y(イエロー)、K(スミ)の4色のアミ点の掛け合わせで表現されている。
※風景写真の色分解と重ね合わせを具体例で説明されていました。
●枚葉機と輪転機
- 枚葉機は、平台印刷機のことで、枚用紙(シート紙)を使用して印刷される。
- 輪転機は、オフ輪とも言われ、巻取紙(ロール紙)を使用して、高速に印刷される。
※具体的な機械の写真で説明。大型の機械では、製本までできるようになっています。
●印刷用紙
- A判とB判が基本で、A判よりちょっと大きめのサイズが「菊判」であり、B判より少し大きめのサイズが「四六判」である。
- 紙の折り方には一定のルールがあり、1台の裏表合わせて16ページの面付の決まりがある。
●製本の分類
- ペラものには、「折りなし」(ポスター、チラシ、カードなど)と「折あり」(リーフレットやプロッシャーなど)がある。
- ページものには、上製本(ハードカバー、辞書、辞典など)と並製本(中綴じ、無線綴じ、平とじなど)がある。
●POD(プリント・オンデマンド)
- トナー式 → 用紙選択肢広め・機材の幅が広い。
- インクジェット式 → 用紙選択肢狭め・大型機材が多い。
- オフセット式 → 小型自動オフセット印刷機など。
●1冊の本ができるまで
- ①企画立案、②原稿準備、③組版、④製版、⑤印刷、⑥製本の6工程には、いろいろな人たちや企業が関わっていて、それらの共同作業によって本ができあがっている。
※詳しくは、前回の藤本さんの編集講座のレポート参照してください。オンライン講座「編集の基礎─工程と役割─」
<感想>
今回は、紙の本の「印刷と製本の歴史と現在」という話でしたが、写真やアニメーションをうまく利用して、まるで実際の印刷所に行って見てきたかのように実感できる解説でした。特に、貴重な印刷機の写真を見せながら、枚葉機や輪転機でのカラー印刷の説明は、よく分かりました。ここ2年間ほど、コロナ禍のなか、印刷所見学に行く機会がなかったことを考えると、とても参考になる講演になっていたと思います。
紙の本は、最終的に、印刷・製本されて製品になります。もちろん、印刷に利用される製版までは、デジタル化され、より効率的・便利な作業工程になっていますが、印刷以降は、基本的には昭和時代から始まったオフセット印刷が主流です。最後は、物理的な現実の物としての本になります。ただ、最新の大型印刷機は、高速になり、製本もできるようになっています。
印刷用の面付けについては、白紙の紙を実際に折ってみて、そこにページ数(ノンブル)を書き込んで確かめてみるとよく分かります。大型輪転機で一度に印刷・製本してしまうようになると、各ページのデータがすべて揃っていないと意味がありませんが、少し昔は、少しずつ印刷・製本をしていたので、急いでいるときは、組版ができた順に印刷に回して効率よく1冊の本を作るために、面付けに必要なページをまとめて順に校了にしていたことを思い出しました。
「ゲラ」という言葉は、活字組版をしていた頃の「ゲラ刷り」からきていますが、印刷・製本の歴史を知っていると、私たちが何気なく使っている印刷用語の意味が分かってきます。すべての工程がデジタル化されている現在では、必ずしも知らなくても本はできますが、デジタル化されてきた流れを知っておくと、今後の工程の合理化や効率化にも役立つことがあるかも知れません。道徳の教科書に出てきそうですが、印刷・製本の歴史を知ることは、現在の印刷・製本の現在を作ってきた名もなき先人たちの努力や工夫を知ることになり、敬愛の気持ちが生まれてきます。
現に、私たちは、デジタル化された工程をさらに便利に、かつ効率良く改善していくために日々工夫を重ねています。最終的には、AIなどを使った、工程管理ということになるのかもしれませんが、AIが言葉の意味を理解できるようにならないと完璧な吟味・校正などはできないと思われます。そうした意味では、まだまだ編集者や、工程に関わっている多くの協力者の力が必要です。直ぐに、実践に活用できる知識ではありませんが、時には時間を作って、出版に関わる歴史を振り返ってみるのも大事だと思いました。