第13回教育総合展(EDIX東京)に参加して

第13回教育総合展(EDIX東京)に参加して

 5月11日~13日の3日間、第13回教育ITソリューションEXPOと第5回学校施設・サービスEXPO、第3回STEAM教育EXPO、第2回保育・幼稚園ICT化EXPO、第2回人材育成・研修EXPOが「第13回教育総合展EDIX東京」として、東京ビッグサイト西展示棟で開催されました。私は、11日に参加しました。

 今年のEXPOもまだコロナ禍の中にあり、昨年同様に大手の企業を中心として、かなりの出展辞退があったようです。特に、教科書会社、教材会社、出版社などは少なく、デジタル教科書や教材などの情報はあまりありませんでした。

 今回の最大の特色は、GIGAスクール構想が前倒しされ、ほとんどの小・中学校に一人一台の端末が設置され、それが運用され始めて1年が経った上で開催されたというところにあります。端末の導入に伴い、学校のインターネット環境や授業での活用の方法など、新しい試みが模索され始めたところです。

 というわけで、今回も、参加したセミナーを中心に報告します。全体の教育の流れのようなものを感じとっていただければ幸いです。
 聴講したセミナーは、①教育先進自治体首長パネルディスカッション、②AIは教育をどう変えるのか、③改めて入試改革を考える、の3つです。
 簡単な内容と、面白いなと思ったことを紹介します。

Ⅰ 教育総合展・特別講演「教育先進自治体首長パネルディスカッション」

【冒頭挨拶・オープニング講演】
 文部科学省初等中等教育局就学支援・教材課長 山田哲也

【モデレーター】
 信州大学名誉教授・(一社)教育情報化推進機構理事長 東原義訓

【発言者】
流山市長 伊崎義治
川崎市長 福田紀彦
松坂市長 竹上真人

●オープニング講演
 まず、文科省の山田哲也氏からは、総合展開催の挨拶と、GIGAスクール構想の最新の動向の報告と今後への期待が述べられました。
① GIGAスクール構想にもとづくICT環境の整備が進んだ
・一人一台端末の整備(小・中学校)は、ほぼ実現
・通信ネットワーク環境の整備もかなり進んでいる
・高校の一人一台端末については、今年は1年生に配備し、令和6年までに完了したい
※低学年の子どもたちも含めて、かなりの子どもたちが、インターネットを利用している。
(令和3年度青少年のインターネット利用環境実態調査)
https://www8.cao.go.jp/youth/kankyou/internet_torikumi/tyousa/r03/net-jittai/pdf/kekka_gaiyo.pdf)
・コロナ禍の中、遠隔授業やWeb会議などの利用が進んだ
② 今後の課題
・ネットワークの遅れなどの課題がある
・デジタル教科書の活用はこれからで、活用の支援を急ぎたい
・デジタル教材などの普及と家庭教育のあり方の検討
・クラウド利用が進むので、セキュリティポリシーのチェックが必要
※「個別最適な学びと協働的な学び」に一人一台端末はとても役立つということを強調。
(文科省のStuDX Styleを参照:https://www.mext.go.jp/studxstyle/

●パネルディスカッション
まず、モデレーターの東原義訓教授(https://oetc.jp/)からの挨拶があり、その後、先進自治体首長(市長)による各市の教育の自慢話をしてもらうよう指示がありました。

▶流山市長 伊崎義治氏(https://www.city.nagareyama.chiba.jp/
① 人口20万人で、住民の転入率が全国1位であること
・平成17年に15万人だったが、令和4年には20万人を越えた
② ICT教育の進め方
・ICT推進顧問の設置
  東京理科大・滝本宗広氏
https://www.tus.ac.jp/academics/teacher/p/index.php?3044
  尾崎えり子氏
https://i-hivechiba.com/rollmodel/2018-rm10
・民間企業の活用
  IT機器関係→富士電機
  教育支援システム→EDUCOM(https://www.educom.co.jp/
  学習データとソフト→ベネッセ(https://www.benesse-hd.co.jp/ja/
 プログラミング教育→ソニーのtoio(https://toio.io/
③ データを可視化して、みんなで共有
→ベネッセの「ミライシード(https://www.teacher.ne.jp/miraiseed/)」EDUCOMの「スクールライフノート(https://sweb.educom.co.jp/swas/index.php?frame=SLN)」などの活用

▶川崎市長 福田紀彦氏(https://www.city.kawasaki.jp/
① 人口は154万人、出生率が全国1位。公立174校
② 導入の経緯
・最高レベルのICT環境
・クラウド(Google Workspace for Education)をChromebookで利用
・ベネッセのミライシードも利用
※Googleのパートナー自治体に参画
「かわさきGIGAスクールNEWS」参照
https://www.city.kawasaki.jp/880/page/0000122425.html
③ 導入の成果
・情報化や学びが活性化した
・貸し出しのルータが5000台、3000学級でオンライン指導を実現
・教育会議、アンケート、研修などがオンラインで実行
・グーグルミートで全校集会を実現
・続々とデジタル副読本を発行(7部会)
④ 今後の展望
・市の学習状況調査を進める
 →小4、5、6,中1、2、3のスタディログをAIで分析
・学習システムと支援システムの連携
・2024年に市制100周年記念事業
・いろいろな可能性があり、場合によっては200人の授業も

▶松阪市長 竹下真人氏(https://www.city.matsusaka.mie.jp/
① 人口16万人、1年に1000人ずつ減少している
② GIGAの前
・2011年よりICT活用について始める
 →長谷川元洋/監修・松阪市立三雲中学校/編著『無理なくできる学校のICT活用』(学事出版/2016.4.12)
③ GIGAスクロール構想の開始
・一人一台iPad(第7世代)LTEモデル
・持ち帰りの実行
④  今年度の取り組み
・モデル校づくり
・運用サポート体制をつくる
 →※自前から外注を使うように拡大
・行政と家庭を結ぶ「松阪市ナビ」アプリの活用
⑤  ICT活用のねらい
・だれひとり取り残さない教育の実現(経済的格差の克服)
・不登校児童生徒をICT活用で救う
 →スタディサプリの活用
※特に人口減の自治体は、地方を守る子どもを育てる必要がある。
→教育レベルを上げないと人が集まらない。そのためにICTがある。

▶モデレーターの東原義訓氏に指名されて、飛び入りで佐賀県多久市長/全国ICT教育首長協議会会長の横尾俊彦氏が参加され、「日本のICT教育の遅れを取り戻すのは、コロナ禍がチャンスになる。市長、教育委員長、校長などが率先して、ICT教育に向けて努力してほしい」というエールをおくられました。

▶東原義訓氏
○ 「市長の情報収集力がすごい。新しい教育課程など、教育の動向がよく分かっている。そういう市長だからこそ、いろいろなことができるのだ」と解説されました。

Ⅱ 教育総合展・特別講演「AIは教育をどう変えるのか」

東京大学情報理工学系研究科・次世代知能科学研究センター教授/松原 仁
 https://www.ai.u-tokyo.ac.jp/ja/members/matsubara

① 人工知能について
 ・個人的には鉄腕アトムのような人工知能をつくりたい
 ・「人工知能(AI)」には明確な定義はない
  →コンピュータの進化と技術の進化によって変わってくる
② 人工知能と人間
 ・知能とは何か、心とは何か、感情とは何か
  →人工知能の研究は、人間とは何かを探究することにつながる
③ 今の世の中の人工知能の例
 スマートフォンやAIスピーカーの音声・Webを通じての推薦やおすすめ
 自動運転・将棋や囲碁でプロ棋士より強くなること、など
 ・AIは、ルールや範囲が明確なことは得意
 ・ルールが不明確で範囲が不確定なものは不得意
  →教育も、どちらかというと後者に近い
④ 人工知能の歴史
 ・1956年に人工知能(AI)と呼ばれるようになった
 ・3回のブームがあり、現在はその第3回目である
 ・ディープラーニングの時代(2010年ごろから始まる、機械学習の活用)
⑤ ディープラーニングとは
 ・2006年、ジェフリー・ヒントンが提唱
 ・もとになるパーセプトロンの考え方は、1950年からあった
 ・ディープラーニングを使った翻訳ソフトは素晴らしい
  →日本人の英語の論文がそれでうまくなったといわれている
 ・多くのデータが必要(人間は少ないデータで理解する)
 ・パフォーマンスはいいが、なぜそうなるかは分からない
  →説明可能AIをつくるのは難しい
⑥ AIが得意なこと不得意なこと
 ・定型的な作業は得意、例外的な作業は苦手
 ・人間にとっての意味を理解できない
 ・ルールが明確のことは得意、不明確のことは苦手
 ・データからの再現(モナリザ風の作品をつくるなど)は得意だが、自分で創造することは不得意
  →コンピュータによる脚本づくりや俳句作りに挑戦したが、なかなか難しい
⑦ ITとAIと教育
 ・ITとAIは個別対応に向いている
 ・分からないことを重点的に学習できる
 ・進み方と速さを調整できる
 ・同じことを何度でも学習できる
 ・語学学習に向いている
 ・若い世代ほど抵抗がない
 ・教師には教師の、AIにはAIの良さがある
⑧ 情報教育の必修化
 ・現在は、読み書きIT(AI)の時代
  →どの学校で、どれだけ教えるか
 ・2022年度の高校で情報Ⅰが必修化
 ・2024年から共通試験にも
 ・大学でもデータサイエンスの教育が始まっている
  →一般人もIT・AIについて学習する必要がある
⑨ 教育とAI
 ・何を教えるのか
  →記憶能力や外国語翻訳はコンピュータのほうがすぐれている
 ・人間をどう評価するか
  →人間にしかできないことは何か
  →スマートフォン持ち込み可のテストの可能性
 ・そもそも何のために勉強するのか
  →よりよい生活のため
 ・AI時代の教育とは
   人間は人間のできることをする
   やるべきことを見つけるのも教育
   「人間性」を身につけるための支援

Ⅲ 教育総合展・基調講演「改めて入試改革を考える─私たちはどのような人間を育てたいのか」

青山学院大学学長 阪本 浩
https://www.aoyama.ac.jp

① 青山学院大学の入試改革
○一般選抜の方法を次のようにしている
(Ⅰ)独自問題と大学入学共通テストの組み合わせで受験できる方式
(Ⅱ)独自問題と大学入学共通テストに加えて、英語資格・検定試験を用いて受験できる方式
(Ⅲ)独自問題のみで受験できる方式

※独自問題では「記述式を含む総合的な問題」または「記述式を含む個別科目問題」や「論述」を課して実施。
 ・この独自問題が新しい入試形式になっているが、2021年度は受験者が数万人減少
 ・大学入試が教育改革の壁になってはいけない
   →3教科マークシート方式がいいのか?
※平成26年の中教審答申で高校・大学接続ということがいわれ、画一的な知識・技能を問う選抜を止めることにした
② 大学入試改革に求められていること
 ・文科省や経団連からも、入試改革が求められている
 ・ボールは大学に投げられた
  →2025年度から国立大学は『高度な記述式問題を課す』
  →青学はすでに、入試改革をしたが、受験生が6万人から4万人に減った
 ・共通テストの活用の仕方がこれからの課題
  →受験のために、早くから文系、理系に分けるべきかどうか
③ 私たちは、どのような人間を育てたいのか
 ・「神の前に真実に生き 真理を謙虚に追求し 愛と奉仕の精神をもって すべての人と社会とに対する責任を進んで果たす人間の形成」
 ・専門知識の習得だけでなく、人間形成を目的とする、全学共通教育システムの「青山スタンダード教育」を用意し、「およそ青山学院大学の卒業生であれば、どの学部、学科を卒業したかに関わりなく、一定の範囲の知識・教養と一定の水準の技能・能力を備えているという社会的評価を受けること」
  →教養の中でも「情報」の技能も重視し、Society5.0の社会に向けて、データサイエンスやAIの教養も養えるようにしている(IT留年もあった)
 ・さらにキリスト教の理解も
④ 2024年150周年に向けて
 ・さまざまなセンターを設置し、新しいプログラムを開始
  →ボランティア活動とサービス・ラーニング、リカレント教育、国際オンラインプログラムなど。
 ・新図書館棟の建設(2024年完成)
  →1・2階パソコン教室、3階以上が図書館
 ・「地の塩、世の光」(スクールモットー)としての教育共同体の更なる発展を目指す


<感想>

 今年の教育総合展は、コロナ禍の中とはいえ、緊急事態宣言も解除されていたので、もう少し大きく開催されるのかなと思っていましたが、残念ながら、寂しい出展会場でした。同時に、AIの展示会が南展示棟で行われていたので、参加者も少なくなったのかもしれません。

 2021年度は、コロナ禍の中、一気にGIGAスクール構想が進展し、同年中にはほとんどすべての小・中学校で、一人一台端末の設置が実現されました。そのことを踏まえて、新しい動きなどが見られるのかなと期待していましたが、現段階では機器の普及は進みましたが、活用については、いろいろな動きが始まったばかりだと思いました。

 流山市、川崎市、松阪市の市長の話でも分かるように、いろいろな端末が学校に導入されましたが、Chromebook、iPad、Windowsタブレットなどが中心です。文科省は、一人一台端末を文房具のように使えることを指導していますが、学校で使われる端末の基本OSはGAFAMのものであり、そこで動く基本的なツールとしてのアプリもまたGAFAMのものです。子どもたちの学習ツールもほぼビジネスツールと同じになっています。

 今回の展示でいちばん注目されて人が集まっていたのは、Googleのブースです。セミナーブースを二つ使い、Google Workspace for Educationの活用の紹介がなされていました。多分、現在、いちばん学校で多く使われているパッケージ・ツールです。今後、学習システムや校務システムが統合されて、クラウド上で活用されるようになると、さらにGCP(Google Cloud Platform)やAWS(Amazon Web Services)、Microsoft Azureなどが使われるようになるのではないかと思われます。

 また、GIGAスクール構想の実現のためには、通信環境、端末、基本OS、基本ソフトウェアが必要となり、そのためのトータル的な運用のためには、各市長さんが述べられていたように、いろいろな企業と提携しながら、進めていくことになります。今回の展示会もそうしたツールを提供する企業がいくつかありましたが、期待していたベネッセの展示がなかったのは残念でした。

 他方で、デジタル教科書自体は、まだこれから検討されるようですが、クラウドを利用した利活用ということになります。
 今年度から文科省も予算をつけ、モデル校での活用を進め、普及を図るようです。その場合、現在、ビューアが教科書会社によっていくつかのグループに分かれています。
 啓林館、帝国書院が参加している「超教科書」、教育出版、学校図書などが参加している「みらいスクールプラットフォーム(富士ソフト)」、光村図書、開隆堂などが参加している「マナビューア」、そして、東京書籍が中心に進めている「Lentrance Reader」などがあります。
 それぞれ、独自性を持っているようですが、展示をしていた「超教科書」はEPUBとSVGでつくられたビューアのようです。今のところ、独自のコースを進めていて参加社の獲得に努めているようです。
 基本的なクラウドのプラットホームがGAFAMに握られている中で、そんなビューアの競争をしていていいのかという問題はありそうだと思いました。

 ところで、Google Workspace for EducationなどをChromebookで活用して、チャット、Web会話など、コロナ禍で企業などが取り入れたテレワークの機能なども、子どもたちは自由に使えるようになっています。もちろん教師たちも、同様に使えるようになっています。

 そして、学習システムと、校務支援システムは、別々に専用端末で活用されていましたが、GIGAスクール構想の展開によって、一気にクラウドを活用した両者の連携に向かって歩み始めました。そのためにいろいろな問題も発生しています。いちばん大きな問題は、通信ネットワークの整備とセキュリティの問題です。

 この点については、NTT東日本のブースのセミナーに参加していて、「ゼロトラスト」という言葉を教えてもらいました。ゼロトラストとは、「クラウド活用や多様な働き方に対応するために、ネットワークの接続を前提に利用者やデバイスを正確に特定し、利便性を保ちながら、常に監視・確認する次世代のネットワークセキュリティの考え方」だそうです。

 従来のセキュリティ対策は、信用できる内側と信頼できない外側と区別して、システムを内側につくることによって、セキュリティを守ろうとしてきたわけです。それが、クラウドの活用などにより、すべての対象を信用できないということを前提に考えて、セキュリティを守ろうというわけです。文部科学省のセキュリティポリシーもデジタル庁のゼロトラストの推進に連動して、新しく改訂されました。
それが、「クラウド・バイ・デフォルト原則」に基づいて改訂された「教育情報セキュリティポリシーに関するガイドライン(令和4年3月)」です。
(参照)
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyouhou/detail/1397369.htm

 ゼロトラストの中で大事になるのは、自分の認証IDとパスワードの適切な管理(今後、指紋認証や顔認証なども普及する)です。一度、私たちも、このガイドラインに目を通しておくことが必要だと思います。もちろん、このガイドラインは、クラウドの発展・拡大により、さらに改訂が必要になることがありそうですが、常にチェックしておきたいと思いました。

 展示会だけでは、ICTの学校での使われ方がよく分からないところがありましたが、セミナーに参加することによって、GIGAスクール構想の進展による、大きな学校教育の流れが理解できました。セミナーの講師の話を聞いていて、ようやく、ICTが教育全体を変えるところにきたのだという印象を受けました。そして、学校だけの問題ではなく、私たちの仕事の中でも、デジタル化の流れの中で、新しい仕事の工夫が必要になってきているのだと思いました。


(文責:東京オフィス 塚本鈴夫)