オンライン講座「編集者に必要な著作権の知識」
講師:藤本 隆(ふじもと・たかし)氏 株式会社プランディット/編集事業部・編集長
【講師略歴】
ベネッセグループの編集専門会社にて編集業務に長年携わる。学習教材をはじめ情報誌、フリーペーパー、教育系タブロイド、資格系教材、広告チラシ、フライヤーなど広範な印刷媒体の企画・制作経験を持ち、原稿、記事の執筆、イラストレーション、DTPデザインもこなす。ベネッセグループ各社向けの育成研修講師を務める。 著書に『印刷発注の基本がわかる本』(日本能率協会マネジメントセンター) (AJECの編集講座案内より)
藤本隆さんの6回目のオンライン講座でした。今回は、「編集者に必要な著作権の知識」ということで、編集者にとって必要な法律の知識として、主として知的財産権の中の商標権と著作権について解説されました。
これまでは、出版物の制作工程のなかの製作の技術や知識について話されてきましたが、今回は、企画編集や校正などの段階でも問題になる著作権など、法律的なルールの問題について分かりやすくまとめられていました。藤本さんは法律家ではなく、編集者としての注意事項について語られましたので、法律解釈上の問題などには触れられませんでしたが、特に2次的著作物になる教材編集などでの問題点などは分かりやすく説明されていました。編集者は、法律の専門家ではないとはいえ、著作権などの微妙で、グレイゾーンを含んでいる引用や転載の扱いには細心の注意が必要です。
以下、藤本さんの講義の内容を簡単に紹介します。
講義概要
- 産業財産権には、特許権、実用新案権、意匠権、商標権がある。これらは、すべて申請が必要であり、登録することによって、法的な権利を得ることができる。
- 商標権は、ネーミングやロゴマークに独占権を与え、模倣を防止するために保護することで、産業の発展を図るもの。
→特許庁への出願が必要であり、出願されたもの、登録されたものはWebの特許情報プラットホームで確認できる。 - 商標登録されている名称は、一般的な呼称に言い換えて表現すること。
→どうしても使う必要があるときは、商標登録された態様を守って使用する。また、使用するときは、登録者に了解を得るようにすること。 - 著作権には、著作財産権と著作者人格権があり、これらの権利は、著作物が創作された時点で自動的に発生するとされ、申請・登録や届け出は一切不要。財産権は原則死後70年の保護期間があるが、人格権には期限はない。
→法人の財産権は創作後70年。また、1967年以前に死亡した著作権者については、保護期間は死後50年になっている。(TPPに参加して変更になった) - 著作物とは、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう」(著作権法第2条一)
→この「表現」は、プロやアマとは関係はないし、手間がかかったかどうかとも関わりなく、同じ著作物とされる。ただし、あくまでも表現されたものであって、アイデアには著作権はない。 - 財産権(著作物を「財産」として扱う権利──譲渡、貸出、相続できる)
複製権、上映権、展示権、頒布権、公衆送信権等、翻訳翻案権、譲渡権、貸与権 - 人格権(著作者への敬意ある扱いを受ける権利──著作者から切り離せない)
公表権、氏名表示権、同一性保持権 - 既存のコンテンツ(著作物)を利用して編集する場合
- 企画に合わせたコンテンツ(著作物)を発注する場合
- 著作権と関連して、肖像権、パブリシティ権が関係してくる場合がある
→写真の著作権はカメラマンにあるが、被写体には肖像権やパブリシティ権があるものがある
→また、多くの建築物自体には、著作権はないが、所有者・管理者の承諾を得るために対価を支払うことが必要になる場合がある(金閣寺の写真を使用するときは、お布施として金閣寺にお礼を支払う)
1 産業財産権(主として商標権について)
2 著作権
<著作権の内容>
<著作物の取り扱い上の注意>
──使用許諾を得ての限定的な利用
①無許諾状態で製作進行していないか
→既存のコンテンツに複数の権利者がいる場合には十分留意
②許諾範囲を逸脱していないか
→利用許諾を得る際に提示した媒体内容と違う範囲での利用に注意
③著作者人格権を侵していないか
→氏名表示権、同一性保持権に配慮した利用方法をしているかに注意
──買い取りによる財産権の移転/利用許諾
①「買い取り」できているのは何か
→著作者が著作財産権を譲渡する契約書面になっているか
②編集過程での修正・削除・加筆はできるのか
→法的に買い取ることのできない権利についての合意はあるか──「著作人格権は、これを行使しないこととする」と明記しているか
③その著作物自体が「盗用」にあたらないか
→パクリを防ぐ依頼・確認と、「依拠」についての目線合わせが必要──安易な「引用」をしていないか注意
3 周辺の権利
<感想>
今回は、主として著作権についての解説でした。編集者としての藤本さんは、編集上、配慮すべきコンプライアンスの問題として、著作権という制度について説明されました。具体例もあり、とても分かりやすい説明でした。編集作業で必要とされる著作権の基礎知識としては、ほぼこの通りだと思われます。
ただ、著作権には、とても分かりにくいグレイゾーンのようなものがあり、実際に裁判をしてみないと分からないという面もあります。裁判をしてみるとよく分かるというか、社会的通念として、どのように理解すべきかが判例として示されるのですが、著作権問題は、実はあまり裁判になりません。その前に、示談で解決してしまうのが通例です。これには、裁判そのものの費用がかかり過ぎるということもあるようです。
出版界で著作権意識が大きく変化したのは、1999年頃、小学校の国語テストの問題文に教材文を引用していたことから、著作権違反だという訴訟がなされたときからだと思われます。これは、テストの問題のために教材の一部が引用されていたものですが、その引用が適法引用かどうか争われた裁判です。私はその裁判では、被告側の一員として東京地方裁判所に通ったことがあります。
それまで、教材会社の編集者は、テストの問題作成で、教科書の教材の一部を引用して問題を作成することは合法だと思っていました。私もそう思っていました。実際、小学校の教材会社だけでなく、塾教材、家庭教材、入試問題などでは、著作者に了解を得ることなく、合法的な引用として問題が作成されていました。教材会社などが加盟していた日本図書教材協会では、著作権講座など開き、これは適法引用だと指導していました。だから、その裁判では、日本図書教材協会の加盟の教材会社がまとめて被告になりました。
この裁判で、テストなどでの引用は違法とされました。それは、引用ではなく、転載だとされました。だから、著作権者に了解を得て、それなりの対価を支払って利用しなければならないことになります。著作権裁判では、刑法的な罰金と民事的な損害賠償の二つが課せられます。引用された作品には多くの著者がおり、長い間行われていたことでもあり、各出版社は罰金や損害賠償のために数億円の支払いがなされたものと思われます。
その後、学校教材だけでなく、塾教材や家庭教育教材なども違法を侵しているという訴訟がなされ、裁判で違法という判決がなされています。これが教育教材だけでなく、出版界での著作権に対する意識の転換点になったと思われます。つまり、著作権に対する権利意識が高まったと言えます。
現在、日本文藝家協会では、教材等の著作権処理が一括して行われるようになっています。こうした裁判を受けて、教材会社各社と日本文藝家協会が話し合い、教材ということで、教育的配慮も考えて、普通の著作権より使用料が割安になっています。
引用など、著作権の権利制限としては、著作権法第30条から39条にかけて規定が並んでいます。私的な目的であれば、コピーは自由であることや、学校の授業の中で使われる場合には複製は自由に行ってよいなど、いろいろな権利制限規定があります。また、教科書の中で利用する場合は、一定の金額を支払えば、著者に了解を得ることなく使用できることなどがあります。もちろん連絡はなされますが、掲載拒否はできないということです。
ところで権利意識の高まりの中で、著作権への配慮から、例えば、研究授業で参加の先生方に配布する資料に教材の引用がある場合には、著作権者に了解を取るというようなことが行われています。また、教育書の中に粗筋(あらすじ)などを掲載する場合にも、著作権者に了解を取るというようなことも行われているようです。これが、違法なのかどうかは、裁判してみないと分からないところです。著作権違反の訴えは申告制なので、著作権者がどこまで権利を主張するかという問題もあります。
また、囲碁や将棋の棋譜に著作権があるのかないのかということにも、諸説あります。日本将棋連盟や日本棋院などは、著作権があるという見解ですが、これについては裁判をしてみないと分かりません。Web上では、自由に公開されているようです。
しかし、現在では、著作権への配慮から、特別な場合を除き、基本的には、著作者がいる場合は、著作者に了解を得るようにするのが一般的になっているようです。
私的利用のためのコピーや写真を撮るのは自由ですが、Webなどで使う場合は、注意する必要があります。内田樹さんのように、Webに公開された文章は、自由に使ってもらってかまわないという宣言をしている人もいますが……。特にデジタルデータは、コピーが簡単にできるので、一層の注意が必要だと思います。
藤本さんの話された著作権の原則を理解し、編集者として、著作権の知識を深めていく必要があります。著作権というのは、社会的な決まりごとなので、変更することがあります。また、時代の流れに合わせて、世界の動向を見ながら、改訂がなされています。特に、インターネットとデータのデジタル化の進展によって、いままでの著作権では対応仕切れないものも発生しているようです。編集者として、十分、注意していくことが大切だと思われます。