エディット・メールマガジン/バックナンバー
エディット通信(2019年小雪号)
■AJEC(日本編集制作協会)第4回編集教室「“売れる企画”の作り方」聴講レポート
2か月ほど前となりますが,日本編集制作協会主催の編集講座にて,『ざんねんないきもの事典』等の編集者・金井弓子さんのお話を聴講いたしました。講演内容について,簡単にまとめさせていただきました。ご一読いただけますと幸いです。
■AJEC(日本編集制作協会)第4回編集教室
企画力「徹底した分析と検証」“売れる企画”の作り方
今回も,100名近くの人が参加される人気の編集講座でした。
講師の金井弓子さんからは,講座タイトルにある「徹底した分析と検証」に基づく具体的なノウハウをご披露していただきました。
金井さんの主な担当作品は,
- 『ざんねんないきもの事典』125万部
- 『わけあって絶滅しました。』シリーズ60万部
- 『やばい日本史』『やばい世界史』シリーズ36万部
などです。
いずれも書店のいちばん目立つところに陳列されているので,ご覧になったことがあるかもしれません。
このような「売れる企画」を立て続けに打ち出す,金井さんのノウハウはご自身で考え抜かれたものでした。
その背景には,金井さんが自分自身のことを客観視していて,いわば《経験の少なさ》をどう乗り越えるかを考え抜いたところに凄さを感じました。
「経験の少なさは,『蓄積』で乗り越える」
として,いろいろな角度から自分自身を映し出して分析されています。具体的には……
- めちゃくちゃ頑張っても,ベテランや頭のいい人には勝てない。どうしたらいいか?
- 自分の持っている「武器」で戦うしかない。では,その武器とは何か?
- 自分に蓄積されているものを「武器」にすることだ!
→正の蓄積としては,「勉強ができる」「詳しいジャンルがある」「趣味を極めている」など。
→負の蓄積としては,「勉強ができなくて劣等感がある」「容姿にコンプレックスがある」「人と話すのが苦手」など。
- 知識でも悩みでも,抱え続けた自分の蓄積は「企画」を強くする。
と話されました。
★『ざんねんないきもの事典』を例に,金井さんが自分の知識・悩みを企画に落とし込んだときに考えたこと
- 1)業界の知識……児童書・生き物本の過去の売れ筋を徹底的にリサーチする
- →候補の生き物を,本に掲載した数の4〜5倍ほど出した。
- 2)長年のコンプレックス……優等生になれなかったじめじめした気持ち
- →候補出しした動物から,自分のなかでオーディションをした。候補から落ちた動物を眺めていたら,自分自身を見ているようだった。
- →むしろ,候補から落ちた生き物に光をあてよう,と考えた。
- 3)趣味……形容詞へのこだわり,雑学への愛
- →「いい感じ」の形容詞にこだわった。批判するときに使うのではなく,やさしい解釈をするときに使いたかった。
→(例)ざんねん,せつない,やばい,など
- →動物のおもしろネタをエクセルにまとめていったら,役立った。一見,関係のない趣味が本に活かされた。
→紙面に盛り込む「面白エピソード」のきっかけとなった。
お話を伺っていると,とても人情豊かで,オープンな語り口の金井さんです。しかし,「売れるかどうか心配だ」を払拭するために,あらゆる手を尽くされた,その徹底ぶりは,余人の追随を許さないものを感じました。
- 読者をちゃんと見ている企画か?
- この本を買う人は,他のジャンルではどんな本を読むのか?
- どんな生活をしていて,テレビ番組は何が好きか?
- 書店に張り込みをして,どんな読者が興味を持つのかを探る。
→迷惑にならない程度に現場(書店)に潜入する。
- 「初速」を出すのは「ぱっと見」勝負,極端な見せ場・魅力をどう作るか?
- ロングセラーを狙うなら,「宣伝のしやすさ」「読者の広がり」 を意識する。
金井さんは,このようなことにいつも心血を注いで,担当された本をできるだけ数多くの読者に届けようとしています。
「新文化」2019年10月31日号の記事に,『やばい日本史』『やばい世界史』のことが取り上げられています。
そこには,
「(『やばい日本史』は)発売当初は,歴史好きの小中学生を中心に購入されていた。しかし,昨秋以降,歴史に関心のある大人が購入していることを知った書店が,ビジネスや歴史棚にも展開。ビジネスワーカー,高齢者への購入層がひろがった。今月も1万部を増刷し,15刷,30万部に達している」
とありました。
まさに,金井さんが事前に想定したことが実現している例です。
人懐っこく,受講者と同じ目線で語られた金井さんのお話は,明日から具体的に何をすればよいかを指し示す道標のような内容でした。