エディット通信(2023年陽春号)

■AJEC編集プロダクションフェア2023/オンライン「特別講演」「これからの時代と編集者-ヒット作品を作り続ける秘訣」
 

皆さまへ

いつもたいへんお世話になっています。
エディットのメルマガ「エディット通信」(2023年陽春号)をお送りします。今回は,エディット東京オフィス/塚本鈴夫のAJEC編集プロダクションフェア2023「特別講演」のレポートです。
長文のレポートですが、もしよろしければ、ご一読ください。
ChatGPTについても触れています。

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AJEC編集プロダクションフェア2023の最後に加藤晴之氏のオンライン講演がありました。とてもおもしろい講演で、加藤さんが紹介してくれた(ご自身が編集に関わったものが中心)本も、とても興味深く、特に何度も強調されて紹介されていた、最近出た日野田直彦著『東大よりも世界に近い学校』(TAC出版/2023.2.15)は、すぐにKindle版を買って読んでしまいました。

「1を100にする」より「ゼロを1にする」ことのほうがとても難しいとおっしゃる加藤さんは、今の出版界の状況が「ゼロを1にする」つまり挑戦する力が落ちていると危惧されていました

ちょうどWBCで日本が優勝したすぐ後の講演だったので、WBCの感想からスタートした講演は最後までおもしろく聞くことができました。

<講義内容>

  • WBC(World Baseball Classic)について(導入)
    • MLBが作ったWBCは大成功であり、大谷翔平選手や佐々木朗希選手は選手としてデビューしたときは批判されていたが、栗山監督の采配により、WBCでは大活躍した。
      また、2人は多様性の社会にぴったりのキャラクターである。
    • サッカーの日本代表も体質を変えて成功した。
      現在の出版界でもそうした姿勢が大事。
    • 1を100にするより、ゼロから1を作り出すことの方が難しい。
      ※ピーター・ティール著『ゼロ・トゥ・ワン 君はゼロから何を生み出せるか』NHK出版 (2014/9/27)
  • 本作りについて
    • 個人として書籍に関わっているが、個人ではメディアは作れない。
    • 書籍を作るためには、誰に書かせるかが大事であり、ユニコーン企業を探すように、新しい人を求めることが大事である。
       ※百田尚樹著『海賊とよばれた男』(講談社/2012.7.11)の本作り秘話。
    • 東野圭吾さんのように、常に新しい分野に挑戦している人も素晴らしい。
    • チーム作りを心がけ、多様な人と組むことが重要である。
    • また「読者が何を求めているか」というマーケティングも大切である。
  • テーマの選び方について
    • マスコミが取り上げないようなことで、実際に起きていることに注目することが大事であり、編集者が勉強していれば,セレンディピティが起こる。
    • これからの本作りはチームでやるべきであり、多様な人と組むことが重要である。
    • 「本日、校了!(https://honjitsukoryo.com/)」の若い女性編集者たちの話はおもしろい。
  • 出版界について
    • これからは、雑誌はなくなっていくと考えられ、ネットフリックスなどのサブスクの時代になるだろう。
    • 漫画だけが出版界を引っ張っており、漫画は電子に移行し、サブスクで読むことが可能である。
    • しかし、Webにあるコンテンツは、基本的に言語で作られたものであり、メディアは変わるが、本が基本である。

<感想>

加藤晴之氏が編集に関わり講演で取り上げられたのは、百田尚樹著『海賊とよばれた男』(講談社/2012.7.11)、梶山三郎著『トヨトミの野望』(講談社/2016.10.18)、大西康之著『起業の天才』(東洋経済新報社/2021.1.29)、筧裕介著・認知症未来共創ハブほか (読み手)『認知症世界の歩き方』(ライツ社/2021.9.15)、日野田直彦著『 東大よりも世界に近い学校』TAC出版 (2023/2/15)などですが、みなおもしろそうです。出たばかりの『東大よりも世界に近い学校』は何度も言及されていましたが、気に入っている本のようです。

『海賊とよばれた男』については、本作りの過程を詳しく話されました。よその出版社から出て、講談社文庫になったばかりの『永遠の0』(太田出版/2006.8.23)はまだそんなに売れていなかったそうです。たまたま別の本の帯を書いてもらうために、百田さんに会いに大阪に行ったのが初めての出会いだったようで、そこで同い年だった百田さんと縁ができたとのこと。出光興産創業者・出光佐三のおもしろいエピソードを知って、百田さんに資料を送って書き上げてもらったのが、ノンフィクション手法の小説『海賊とよばれた男』です。百田さんは、いろいろな本を書いているが、すべて違ったジャンルの人の話であり、それぞれがとてもおもしろく仕上がっていることを知っていて、この依頼が大成功に結びついたようです。

加藤さんが、『本日、校了!』というWebサイトに出演して、池田るり子さんが作った川口俊和著『コーヒーが冷めないうちに』(サンマーク出版.2015.12.6)について、いろいろ聞いたという話がありました。この池田さんも以前にAJECの編集講座で話を聞いた人ですが、本作りに向かう姿勢は似ていると思いました。みな、自分がまず著者やテーマに興味を持ち、それを基本にして本を作っています。そして、それぞれ、著者との出会いやテーマの見つけ方に個性があります。こういう若い編集者との付き合いも、加藤さんの編集者の財産になっているようでした。

加藤さんの話は、直接的には、われわれ編集プロダクションの仕事とは関係がないかもしれません。しかし、加藤さんが編集協力して作られた『東大よりも世界に近い学校』の日野田直彦校長の教育論と日野田さんが実際にやっている学校教育の改革は、興味深いものがあります。なぜなら、日野田さんが学校教育で育てようとしているのが、まさにゼロから1をつくることのできる子どもたちだからです。そこで工夫されている教育のあり方は、私たちの教材作りにも関わってきます。教育の変革が言われはじめて久しいのですが、まさに求められている人材育成のために、どんな教育が必要か、具体的に提案されています。

日野田さんのやったことは、詳しくは、上記本を読んでいただくとして、日本の学校教育が、東大を頂点とする階層化された大学への入学のための教育になっている中で、子どもたちに多様な生き方を提案し、実践させたことです。そのポイントは、日本の大学という枠から離れて、世界の大学への進学に挑戦させるということでした。日野田さん自体が帰国子女として、日本の教育になじめなかった経験がその原点にあるようです。本当は日本の子どもたちも、本心では今の学校教育になじめないのに、同調圧力のなかで、個性を引っ込めて、ひたすら受験体制に従っているだけだということでもあります。今では、日野田さんの学校説明会には、1万人を越える参加者があるそうです。

加藤さんは、ChatGPTを大隕石の落下だと言っていました。多分、加藤さんは、ChatGPTというAIは、1から100を作る装置であり、ゼロから1を作るのは、人間にしかできないと言いたいようです。そのとおりだと思います。でも、ChatGPTのすごさは、Chat機能を使って,私たちがAIを操作できるということです。名古屋大学の学長が、ChatGPTに作らせた祝辞を紹介していましたが、それなりに祝辞になっています。多分、「普通の祝辞」としては、完璧ではないかと思われます。

ChatGPTは、人間の質問に答える装置です。そして、その回答は、質問の質に依存しています。LINEで話題になっている「AIチャットくん」は、ブログラミングは専門ではない渋谷幸人さんが、ChatGPTを使って、一晩で作ったアプリだそうです。つまり、ChatGPTは、プロンプトエンジニアリングに長けた人が使えば、ある意味ではゼロから1を作れてしまいます。それだけでなく、多分、教育の現場で使われるようになれば、教師のライバルというより、児童・生徒の強力な助っ人になると思われます。もっとも、今の学校がそんな使い方をするかどうかは分かりませんが。

今回の加藤晴之さんの講演は、話もおもしろかったですが、加藤さんが作った本に、とても刺激を受けました。現在では、編集者が黒衣を脱ぎ捨て、自分でも本をPRしたり、自分で起業したりする時代になりました。加藤さんも起業家になったわけですが、編集者としての企画会社を起業するのは、多分、厳しい道であり、それなりの覚悟と経験と情報力と人間関係作りがあって、はじめて可能なのだということも理解できました。もちろん挑戦する価値があるということも……。(了)




【加藤晴之さんの略歴】
1955年大阪生まれ、80年東京大学文学部卒業、同年4月、講談社に入社、「フライデー」編集長、「週刊現代」編集長、書籍編集部の学芸図書出版部担当部長などを務め、2016年に退社、加藤企画編集事務所を設立。
『週刊現代』編集部では、カラーグラビア班から社会・経済事件の特集記事班まで幅広い分野を経験。また、連載コラムなどでは、渡辺淳一氏の長期連載エッセイ「風のように」、林真理子氏の短篇連作、評論家・立花隆氏の時事コラム、ルポライター・溝口敦氏の社会派ルポルタージュの担当編集者に。
また、編集した単行本は『海賊とよばれた男』(百田尚樹・著/2013年本屋大賞)『僕は君たちに武器を配りたい』(瀧本哲史・著/2012年ビジネス書大賞)『ミライの授業』(瀧本哲史・著/講談社)、近刊では『起業の天才!江副浩正8兆円企業リクルートをつくった男』(大西康之・著/東洋経済新報社)など、分野を問わず多数。自著に『働く、編集者-これで御代をいただきます』(宣伝会議)。



■エディットのお薦め記事・お薦めサイト・エディット各種サイト


【エディットお薦め記事】

ChatGPTの意義については、下記の動画が参考になりました。
●JDLA緊急企画!「生成AIの衝撃」~ ChatGPTで世界はどう変わるのか? ~
 https://www.youtube.com/watch?v=TVaB5R4-uOE
●AI”超進化”で日本がとるべき戦略は
 https://www.youtube.com/watch?v=Yn8AmoadfBg

次に、AIで作られた文章や画像の著作権についてはこちらが参考です。アメリカの裁判では、AIが作った画像には著作権はないという判例があります。
●AI(人工知能)の法律問題【著作権・特許権】を弁護士が解説
 https://it-bengosi.com/ai-horitsu/

活用の仕方としては、デジタルネイチャーの落合陽一氏が面白い。
●【落合陽一が実演:ChatGPTの賢い使い方】
 経営戦略、アイディア出し、要約、コーディングにフル活用/英語こそ最強のプログラミング言語
 https://www.youtube.com/watch?v=xIiN-1suSW0

プロンプトエンジニアリングについて
●【徹底解説】これからのエンジニアの必携スキル、プロンプトエンジニアリングの手引「Prompt Engineering Guide」を読んでまとめてみた
 https://dev.classmethod.jp/articles/how-to-design-prompt-engineering/


【エディットお薦めサイト】
〇日本文藝家協会
〇日本図書教材協会・全国図書教材協議会
〇教科書協会
〇毎日ことば
〇日本編集制作協会

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