(昨年のレポート )
4月3日〜5日の3日間、第9回コンテンツ東京が西展示棟の1階と2階、第3回AI・人工知能EXPOが青海展示棟で、それぞれ開催された。私は、3日と4日に参加した。
今回は、第9回コンテンツ東京と、第3回AI・人工知能EXPOは別会場になった。多分、後者があまりに盛況になったので、分割されたのだと思われるが、私の印象では、今回は昨年より静かで、参加者が少なくなったような気がする。ひょっとしたら、青海展示場が広いからかもしれない。
コンテンツ東京のほうは、第5回コンテンツマーケティングEXPO、第8回クリエイターEXPO、第7回コンテンツ配信・管理ソリューション展、第7回映像・CG制作展、第5回先端デジタルテクノロジー展、第9回ランセンシングジャパン、第3回広告デザイン・ブランディングEXPO(旧グラフィックデザインEXPOから変更)から構成されている。
訪問者も、二つ合わせれば、昨年より多かったかもしれない。どちらも同じような盛況さだったような印象である。
私は、3日は、講演の聴講を中心にして、会場はざっと見るだけだった。講演の内容は以下のとおり。
公立はこだて未来大学副理事長・元人工知能学会会長 松原仁 氏
人間は、創造性を用いてコンテンツを作っている。現在、コンピュータに創造性をもたせるのは大変むずかしいのではないかという意見がある。
たとえば、「死」のないコンピュータには、「もののあわれ」はわからないのではないかという意見がある。しかし、人間だって自分の「死」は体験できない。だから、創造性は、実現してみないと、あるかないか証明できない。
ところで、将棋の世界や囲碁の世界では、コンピュータは、新手を打っている。
人間のデータから、人間が思いつかない手を見つけることができるが、これは、創造性ということができるのではないか。ただし、もとからあった手を、よい手だと評価したということではあるが…。
現在、創造性を求めて挑戦しているプロジェクトには、絵画・音楽・俳句・短歌・パズル・散文などがあるが、今のところ、完全ではない。
昨年の講演で発表された、「気まぐれ知能プロジェクト『作家ですのよ』」と、AI俳句が紹介されてから、現在挑戦している「川柳」(ヨミ子)の紹介があったが、結局、それなりのものができるが、コンピュータには、評価することができないので、人間がたくさんつくったもののなかから評価して、選択するしかないというのが現状のようだ。
とはいえ、ボルヘス著『バベルの図書館』 を紹介しつつ、「ひょっとしたら、作品が有限の文字数であり限り、コンピュータがたくさんの作品をつくり出せば、その中には本当に素晴らしい作品がある可能性はあるのではないかという期待を持っている」とのこと。
楽天(株)執行役員 楽天技術研究所代表 森正弥 氏
AIの現在のトレンドは、「学ぶAI」から「創造するAI」へ(クリエイティブAI)である。
楽天では、2億5000点以上の商品を扱っている。この商品をAIを使って自動的に識別できるようにしている。
ヒントン教授の論文をもとに、楽天でも画像認識にAIを使って試したところ、なぜか「データは生データが大事」とのこと。「人間が整理して与えると、うまく学習できない」という。つまり、ディープラーニングで画像認識をさせるときは、ノイズが大事だと思われるとのこと。
ところで、これからは、消費者は、個別化されていく。大衆に同じものを売るとい発想ではなく、個別の個人に対応して商品を売っていく必要がある。スマホの時代は、誰もが、場所・時間にかかわらず、世界と繋がっている状況になっている。
したがって、AIに商品の特徴とユーザーの特徴を理解させ、どうしたらそれらをマッチングできるかということが重要になってくる。
一つの例だが、たとえば、AIは「ステテコは父の日に売れる商品だ」ということを示したが、確かに結果としてそうだった。いまではこうした予測ができるようになっている。金融で言えば、株価や金利などの予測もAIがするようになっている。
クリエイティブAIの三つの条件として、次のように考えている。
こうした条件を満たすアプリケーションをつくって利用していくことが大事。日経新聞の株価記事、決算サマリーなどは、そうして実現されている。
現在、AI開発のトップは、中国に移っているが、すでにアリババは自動広告作成システムをつくっている。楽天も、AIに新商品の作成をさせることを考えている。
AIがニーズを見つけて、コンテンツを作成し、その上で顧客へのパーソナライズサービスの実現をすることが、これからの動きである。
(楽天は)人間の知と機械の創造性を統合する新たな関係づくりを考えている。しかし、AIは特定の枠のなかで最高のパフォーマンスを実現させるのだが、この枠をどう設定するかが難しい。
アルファGO・ゼロは、将棋や囲碁で最高に力を発揮したが、将棋や囲碁というゲームを開発できるのだろうか。ゲームをすることは得意だが、ゲームはつくれないのではないか。人間は、「飽きる!」ということが特徴だが、コンピュータは飽きることがない。「飽きる」から創造するのではないか。
日本マイクロソフト(株)業務執行役員Microsoft365ビジネス本部本部長 三上智子 氏
インテリジェント クラウド+インテリジェント エッジにより 、全ての世界が、デジタルと繋がる時代になった。いまでは、パーソナルコンピュータのかわりにスマートフォンが端末になっている。
こうしたなかで、物理世界とデジアル世界の融合(MixedReality複合現実)させて、空間をキャンパスにして、大きな世界に広がる「ホロレンズ2」(MicrosoftHoloLens)が開発された。
MRというのは、VRと違って、現実の映像を見ているときにデジタル映像を重ね合わせて、現実とデジタルをミックスする体験である。VRは、完全にデジタルだけの世界になる。しかし、MRは、空間に映像を浮かべているように感じられるというところに、特徴がある。「ホロレンズ2」では、人間の10本の指の動きを認識できるようになったので、ピアノを弾くこともできるようになっている。
マイクロソフトの調査では、MRの市場は今後5年で15兆円の規模になるという。これらは、現在は室内設計・トレーニング・教育・エンタメなどに使われているようだ。
エヌビディア(同)エンタープライズマーケティングシニアマネージャ 田中秀明 氏
最近は、AIの発達により、CPUではなく、GPUコンピューティングが重要視されつつある。これが、Intelではなく、NVIDIAが注目されている理由。
NVIDIAによれば、「GPUの使用によって、AI革命が起きた」という。
NVIDIAのシステムのNVIDIA-RTX は、GPUとCUDAというプログラミング言語を使用している。
4日は、午後から、第9回コンテンツEXPOをまず見学してから、西ホールの近くのバス停から3時頃バスで青海展示会場へ移動して、AI・人工知能EXPOを見学。その後、5時頃、また、西展示会場に戻り、クリエイターEXPOに寄った。
今年の第9回コンテンツ東京と、第3回AI・人工知能EXPOは、昨年と比べて、会場が広くなり、ゆったりと見学できた。また、全体に落ち着いた雰囲気だった。
しかし、各ブースを回って、担当者に、昨年とどこが違うのと聞くと、あまり芳しい返事が無かった。つまり、そんなに変わっていないという様子だった。昨年しっかり見てきたUEIなど、今回は出店していない企業がいくつかあったし、AI人工知能のブースから先端技術に移行した企業などもあった。
多分、これから、またしばらくAIは冬の時代に入るような感じである。もちろん、ディープラーニングを中心としたAIを利用したソフト開発やシステム開発が現実的になり、あらゆるところで利用されるようになり、その意味では、堅実な進化を遂げそうだ。「人間の仕事を全て奪う」とか「シンギュラリティ が来る」とかという話は沈静化しているし、「人間を越える」とか「人間を不要にする」ということは語られなくなってきている。これからは「どのように人間と協調しながら、進化するか」が問われるような時代になってきたと言えそうだ。
昨年のレポート でも書いたが、まだ、コンピュータは「意味」を理解できない。自然言語処理と言われているが、まだまだ統計的な処理以上のことはできていない。音声認識や画像認識は、ディープラーニングでかなりのところまで学習できるようになっているが、やっていることの「意味」を理解するということは、まだまだ先のことになりそうだ。つまり、もう一度ブレイクスルーが必要だと思われる。
昨年と同じように、NTTグループ、日立グループ、KDDIグループなど、それぞれ見て回ったが、ディープラーニング以降、AIの世界では新しいブレイクスルーが見つかっていない。ある意味では、もう少し脳の構造や言語の意味の理解が進まないと、新しい段階に入ることは無理かもしれない。
しかし、たとえば【NTTグループ】のAIは、「人を支えるAI」「社会を支えるAI」として、着実に進歩している(「corevo (コレボ)」と呼ばれている)。なかでも面白かったのは、こどもの成長にあった絵本を選ぶというAI「ピタリエ 」というサービスがある。こども一人ひとりの興味や発達に応じたぴったりの絵本を探すナビゲーションサービスである。これは、基本的には、たくさんの絵本の文章データと、幼児の発達段階ごとの習得語のデータを基にして、こどもの成長にあった絵本を探し出すという仕組みである。
【KDDIエボルバ】では、顧客対応のAIチャットボットサービスを紹介していたが、新しい技術革新があったわけではないが、地味なところで、進歩してはいるようだった。
また、【日立グループ】では、昨年はまだ実験段階だったが、いよいよ食事画像判定・栄養成分提供サービスをはじめるようだ。まだまだ未解決の部分はありそうだが、スマホで写真をとって、そこから総カロリーや栄養バランスなどもわかる時代が来そうだ。
昨年、自動校正システムPicassol で話題になった【メディアドゥ】も、今回は、講演などをテキストにしたり、要約したりするシステムのPRをしていた。つまり、こちらも、あまり進展がなかったということでもある。
こうした意味では、今年は、地味にこなれた技術を使い、AIとは言わずに、いろいろなテクノロジーをセットにして、仕事自体の改善を図る展示が多くなったような気がした。