【講師略歴】元「週刊SPA!」編集長。1988年の創刊から10年以上「週刊SPA!」の編集に携わり、今までなかった斬新な切り口の週刊誌を作り上げる。現在は、扶桑社の書籍編集部に在籍し、書籍を制作。最新刊は、養老孟司著『ヒトはなぜ、ゴキブリを嫌うのか?』が好評。「週刊SPA!」編集部以前は、音楽専門の出版社・シンコーミュージックや編集プロダクション(オメガ社)の経験もあり、総合出版社だけではない経験も豊富。
杉田さんの講演は、昨年に引き続き2回目になる。昨年は、「今の読者を引きつける原稿整理の技術」について語っていただいた。→2018-06-28
今回は、取材力ということで、情報収集の仕方とインタビューの技術について語っていただいた。杉田さんの経験に基づいた話で、とてもわかりやすい内容だった。
講演の前半は、価値ある情報とは何で、そうした情報を得るためにどうしたらよいか、また、取材相手とどう接すればよいかなどを体験を踏まえて解説。
後半は、その取材相手に実際にインタビューするときの技術について詳しく解説された。
以下、その話の要約をレジュメに沿ってまとめた。
価値ある情報とは、お金を払ってもよいと思う情報である。そういう情報や、そうした情報を持っていると思われる取材対象者を明確にする場合には、まず、大抵はネットの検索からスタートする。その場合、次のようなインターネットの特性を理解しておく必要がある。
@情報量が膨大である
A情報はすべて過去のもの
Bフェイク・ニュースかどうかの判断が難しい
C検索しなければならない
価値ある情報とは、過去のものではなく、今の時点では検索できないものである。
前に「ニュース報道紋切り型辞典」という特集を組んだことがあるが、これは、ニュース報道をある視点から切り取ったものであり、「ニュース報道の言葉は紋切り型の言葉をよく使う」という認識をもとに、新しい視点で、自分の求める情報を言語化=タイトル化して特集を組んだ。こうすることにより、価値ある情報になった。
こうして、タイトルが決まると、@テーマが明確になり、A読者が見え、B情報が絞り込め、C的確な取材対象者が浮かんで来る。
つまり、タイトルを先に考えることによって、まだ詰めの足りない企画の曖昧な部分がはっきりしてくる。また、煮詰まらない場合は、同僚などと話合ってみることもよい。
そして、取材対象者がはっきりしたら、すぐ動くことが大事。行動すると、生の情報が手に入る。生の情報の中には多くの情報が詰まっている。予測していた以上の情報や、ネットでは絶対に入手できない情報が手に入る。
取材対象にアプローチするには、相手を知ってアプローチの仕方を変える必要がある。箕輪厚介さんが、見城徹さんと堀江貴文さんにアプローチしたとき、彼はまったくアプローチの仕方を変えて成功した(今期第1回編集教室の講演レポート参照 )。
取材のときに大事なことは、この人なら何を話してもよいと思ってもらうことである。そうした信頼をどうしたら得ることができるか。次の点に留意してほしい。
@十全な準備
A強い思い
B相手をリスペクトする(当然言葉が丁寧になる)
Cウソをつかない(背伸びをしない等身大の自分で、知らないから聞いているということが大事。知ったかぶりをしない)
D誠実であること など
読者は、こうした取材対象者からの本音を求めている。本音は、信頼を得ないともらえない。
※以下、レジュメに従い、要点のみをピックアップ。
@レコーダーは二つ用意(一つは保険)。
Aインタビューしたいと思った資料。
B質問項目表(10問から15問くらい)。
Cカメラマンへの指示(インタビューの時間を有効に使う)。
@メモをとるならセンテンスだけに。書くことに気をとられないこと。
A次の質問を用意すること。流れにあった質問が大事。(質問項目表の通りではない)
Bインタビューは原則一人で行う。話の流れを変えないことが大事。質問があったら、終わってから。
C相づちなどのリアクションは大事。想定外の話が出て来る場合がある。
@いきなりインタビューをはじめない。5分くらいの雑談からはじめるとよい。
A質問項目表に拘らない。リズムが大事。
B質問は、シンプルに。聞き手は多くを語らない。
C知ったかぶりをしない。十全な準備をして、まったく知らないふりをすること。結果として、準備以上の情報を得るようになる。
D疑問点はその場で解決。
Eきれい事の回答には、読者の代表として質問を返す(本音を引き出す)。
F回答を急かさない。
@録音をやめても、インタビューは終わっていない。ホッとしたときに、本音が出ることがある。コンサートのときのアンコールのようなことが起こる。
A当日または翌日には、感謝の気持ちを伝える。
@テープ起こしを読んで、使えそうなところをマーキング。
Aマーキングのチェック。
B仮小見出しをつけ、内容別にブロック分けをする。
Cブロックを見て、話の順番を決める。
D構成にしたがって、原稿執筆を始める。
最後に、杉田さんは、編集者の特典として、「いろいろな人に会える。また、取材を通して、自分の成長の糧にできる。」ということを強調された。
今回の講演では、杉田さんの口から、箕輪厚介さんと養老孟司さんの名前が何度も出た。箕輪厚介さんの講演を最近聞いたそうだ。私も、第1回の編集教室で箕輪さんの講演を聞いている ので、よく理解できた。
後者は最近編集した養老孟司著『ヒトはなぜ、ゴキブリを嫌うのか?』の影響だろうと思う。養老さんは、「脳と情報」について「変わるもの」と「変わらないもの」という区別をしている。脳は、日々変化している。今日は、昨日と違った脳であり、違った考えをすることがある。これに対して、一度情報となったものは、過去のものであると同時に固定化されたもので、変わらない。脳は、日々変化し、情報は永遠に変化しないというのが養老孟司さんの情報の考え方である。脳は、情報を言葉などで生み出し、固定化するが、脳は過去の情報に触れ、それを栄養として新しい情報をつくりだす。(この点については、養老孟司著『養老孟司の人間科学講義』ちくま学芸文庫/2008.11.10を参照)
雑誌の編集者というのは、ある意味では、常に価値ある(金になる)情報を集め、それを料理して、雑誌の記事をつくっている。いわば脳をフル活動させているわけだ。そのために、情報収集にかける時間は多いと思われる。
しかし、実際の記事を作成するためには、最初にひらめいた「面白いな」という情報をさらに膨らませ、読者に興味を持つ内容として発展させなければならない。そのために、編集者は、日々苦闘しているわけだ。
このための基本が「視点・行動力・五感」という言葉であると思われる。インターネットの時代が1995年から始まったと考えると、現在までたかだか25年である。その間、情報の多様化は目を見張るものがある。しかし、養老孟司さんは人間の脳は、5万年前とほとんど同じであるという。杉田さんは、だからこそ、「視点・行動力・五感」が大切だと強調された。
今日の杉田さんの講演は、箕輪さんとは違って、とても地味な内容だったが、情報収集の基本や、取材対象へのアプローチの仕方、さらには具体的なインタビューの仕方までていねいで、杉田さんの実体験を踏まえた内容は、とてもわかりやすかった。
第1回では箕輪厚介さん、第2回では池田るり子さんの講演を聞いた。二人とも個性的な編集者だが、杉田さんが講演の最後に言われた、編集者の特典、「いろいろな人に会えて、しかもそれらをすべて自分の成長の肥やしにできる」ということは、みな強調されていたことだと思う。
ある意味では、最近の編集者というのは、多くの読者を想定して、その特定の読者がどんな興味を持っているのかをリサーチするということではなく、まさしく自分が面白いと思うものを、強く引かれるものを大事にして、そこから本づくりをしているように思われる。そのためにも、「視点・行動力・五感」を大切にする必要があると思った。