2020年9月16日〜18日の3日間、第11回教育ITソリューションEXPOと第3回学校施設・サービスEXPO、第1回STEM教育EXPOが幕張メッセで開催されました。 3つのEXPOを合わせて、「第11回教育総合展(EDIX東京)」といいます。
今回のEXPOは当初、春に予定されていましたが、新型コロナウイルスのため、9月に延期されました。 そのときに、大手の会社を中心として、かなりの出展辞退があったようです。 そして、まだ新型コロナウイルスの流行は収まらず、開催直前になって、いくつかの企業が出展中止をしたようです。 多分、当初の予定の半分以下になったのではないかと思われます。
新型コロナウイルスの流行のために、学校教育はウェブに移行して、一部オンライン授業などが行われています。 小中高は、7月頃から学校が再開されましたが、大学などは、学校での授業はなく、すべてWebの講義や授業になっています。 そして、すべての分野で、デジタル化が要請される中で、政府がGIGA構想を前倒しし、一人一台端末を持てるように支援を始めました。 いままで、遅々として進まなかった、教育の情報化が一挙に進もうとしています。
私の住んでいる飯能市でも、新型コロナウイルス流行のため、市議会がWeb会議になり、議員一人ひとりにタブレット端末が配布されました。 そして9月からは、小・中学生全員に富士通製のタブレット端末が配布されました。 すべて、LTEタブレットで、クラウドの活用が前提のようです。
東京書籍さんの川瀬氏の話(「東京書籍は新型コロナ禍で何をした? GIGA後に何をする?」9月30日/超教育協会・お昼のシンポ)では、クラウドを前提して、LTE対応のChromebookやiPadの導入が急速に増えているそうです。
川瀬氏は、クラウドの良い点を以下のように話されました。
- インストール作業がいらない
- 端末の容量や故障を気にしないで済む
- ID&PWを入力すれば、学校でも自宅でも通学途中でも学習可能
- PCでもタブレットでもスマホでも使える
- 海外の日本人学校で好評
- ECサイトからも購入可能
この中で、今後の可能性としては、クラウド化により、「既習学年のデジタル教科書・教材を卒業まで使える」ということと「学習履歴の同期が取れて、学習の継続ができる」ということがポイントになりそうです。 そして、後者は今後のAIの活用に大いに役立ちそうです。
今回は、16日の@基調講演「AI時代を生きる子供たちの教育とは〜小・中・高校・大学における教育改革〜」と、 A特別講演「“コロナで気づかされた”一人一台の情報端末環境が拓くICT活用の日常化と新時代の学び」を聴講しました。
@の講演は、東京大学・慶応義塾大学教授(前文部科学大臣補佐官)鈴木寛氏で、印象的だったのは新しい教育についての考え方でした。
一つは、現在は、お手本のない時代、VUCA(ブーカ)の時代だという話です。 VUCAとは、Volatility(不安定さ)、Uncertainty(不確定さ)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の略です。 いわば、これからの未来は、想定外の時代になるということ。
そのためには、「釜石の奇跡」で起きたようなことが必要だといわれました。
- 各自がマニュアルに頼り過ぎない、想定にとらわれないこと
- どんなときでも最善を尽くすこと
- 指示を待たずに、率先者となること
これらは、群馬大の片田俊孝教授による防災教育の「三つの原則」の教えです。 つまり、この三つは、特別に防災だけの問題ではなくなっているという話です。
OECDの提唱する「生き延びる力」は、次のように分類しています。
- 新たな価値を創造する力(Creating new value)
- 責任を取る力(Taking responsibility)
- 緊張関係やジレンマを調整する力(Reconciling tensions & dilemmas)
よく似ているなと思いました。
二つ目は、これと共通していますが、SDGs、VUCA、AIの時代に求められるのは、想定外の問題に対処する力であって、多様な危機のなかではPDCAのサイクルを回している場合ではないとして、OECDのラーニングコンパス2030で提唱された学習サイクルAARの紹介がありました。
AARとは、Anticipation(予測)、Action(実行)、Reflection(振り返り)の略で、「自分で予測して計画を描き、実践に移し、実践を振り返って、経験から正しい知識を吸収したり、次の予測や目標につなげていったりする学習サイクル」のことです。
これからは、教育界では、多分この言葉が流行しそうです。
最後は、これからは、解けない問題を解決するのが人間で、解ける問題はAIに任せればよいので、教師は教材開発するよりも、キュレーション(情報を集めて整理すること)のほうが大事だと強調されていました。
そして、アメリカの国立訓練研究所が発表した7つの学習方法を学習率順に並べた「ラーニングピラミッド」の紹介がありました。
「ピラミッド」とは以下のようです。
- Lecture(講義)5%
- Reading(読書)10%
- Audiovisual(視聴覚)20%
- Demonstration(実演説明)30%
- Discusion Group(議論し合うグループ)50%
- Practice Doing(練習)75%
- Teaching Other(他者に教える)90%
鈴木寛氏は、冒頭、東京都の新型コロナウイルス流行の中の学校教育という点では、5年前から一人一台の端末に向けて努力していた渋谷区の一人勝ちだと述べられました。 そういう意味では、渋谷区は、防災の三原則を実践したのかもしれないと思いました。
次に聞いたAの講演は、内閣府人工知能戦略実行会議座長・安西祐一郎氏、信州大学名誉教授/教育情報化推進機構理事長・東原義訓氏、町田市立町田第五小学校校長・五十嵐俊子氏の三名による座談会でした。
おもに五十嵐校長が町田市立町田第五小学校(以下「町五」)での実践の紹介をし、それについて、他の二人が感想や注釈を加えるという展開でした。
町五では、5年前から一人一台端末に取り組んできました。 動画で授業風景を紹介されたが、機種はノートPCで、ソフトはG Suiteでした。 子どもたちは、クラウドにつなげて、Googleドキュメント、スプレッドシート、スライドを使っていました。 いちばん驚いたのは、小学校の1年生でもPCを活用できるということでした。 そのことを、五十嵐校長は強調されたいようでした。
当然、教師もG Suiteを使用しています。 そして、子どもが学校に来られないときは、積極的にテレワークになり、自宅からG Suiteで情報を共有していたそうです。
また、新型コロナの流行で、休校のとき、児童の多くは自宅のPCやタブレッドを使っていましたが、PCやタブレッドのない家庭には、学校のノートPCを貸し出して、Webでの学習に使ったといいます。 オンライン授業は、6年生だけが行ったようです。
最後に、町五の先生方のコロナ禍体験の感想として、もう端末のない時代には戻れないということ、小学校1年生から6年生まで一人一台あればできるということを、皆さんが言っていました。 五十嵐校長は、コロナ禍の体験を踏まえて、安いアプリや教材をどんどん開発してほしいと要望されました。
確かに、これから、クラウドを通じて学習が行われたとき、当然、学習結果はクラウド上に蓄積されます。 そして、個人ごとの分析も可能になってきます。
また、OECDの学力調査も、コンピューターを使った応答が行われ始めました。 ということは、コンピューターによる評価も今後行われる可能性があります。 そのほうが、学習結果の情報整理は簡単になるし、今後の学習に役立つ工夫も容易になります。 AIの活躍しそうな分野でもあります。
今後、LTEでクラウドにつながったタブレットやPCで学習するとき、Web上にいろいろな学習ソフトやアプリが登場することになります。 いや現に普及しています。 それだけでなく、サブスクリプションを使った学習サイトも多数存在しています。
そういうなかで、教材が今後どうなっていくかは、注視する必要がありそうです。 ユーチューブの動画にも、楽しそうなものが多数提供されています。 今回、教科書会社さんが、どこも出展していなかったので、よく分かりませんが、どうやらデジタル教科書も一部無償で国から配布されるようになりそうです。 無償配布は全学年ではなく、小学校の5,6年と中学生用と言われていますが、学習者用のデジタル教科書とデジタル教材との関係や在り方などが今後どのように変化するかも注目していく必要がありそうです。