オンライン講座「校正記号と校正補助ツール」
講師:藤本 隆(ふじもと たかし)氏 プランディット 編集事業部 編集長
【講師略歴】
ベネッセグループの編集専門会社にて編集業務に長年携わる。学習教材をはじめ情報誌、フリーペーパー、教育系タブロイド、資格系教材、広告チラシ、フライヤーなど、広範な印刷媒体の企画・制作経験を持ち、原稿、記事の執筆、イラストレーション、DTPデザインもこなす。ベネッセグループ各社向けの育成研修講師を務める。著書に『印刷発注の基本がわかる本』(日本能率協会マネジメントセンター)。
今回は、編集講座のBコースで、藤本さんの2回目の講座になります。前回は、「編集制作工程と編集者の役割」という講座で、印刷と組版一般の過程と対応づけながら、編集者の仕事が紹介されて、編集者の大事な役割が説明されていました。今回は、「校正記号と校正補助ツール」という講座ですが、出版活動のなかで、校正という過程の位置づけと役割が分かりやすく解説されていました。詳しくは、藤本さんのスライドやAJECでの活動報告で確認してもらうことにして、ここでは、藤本さんの講座の流れをライド順に紹介しておきます。
講義内容
- 印刷と組版の歴史
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編集制作工程と校正の位置づけ
- 校正とは「校(くら)べ 正(ただ)すこと」
- ──もとになる原稿、資料、基準と照合し、誤りを正すこと
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修正すべき対象
- 誤字誤植──単純誤植・誤変換・文字化け
- 文法・表現──誤用・口語表現
- 整合性──連番・相関する要素
- ファクト──固有名詞・固有情報・異体字
- 表記ゆれ──不統一
- レイアウト──色・書体級数・扱い
- 修正すべき対象を明確にし、判断のぶれや修正の無限ループを防止することが大切
- 校正とは「校(くら)べ 正(ただ)すこと」
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修正判断基準
- 原稿・初校・再校・色校の作業で、どこまで直すか
- ──品質特性に照らして、工程ごとの修正判断基準を明確にし、事前に合意しておくことが大切
- 「品質向上」の工程と「品質保証」の工程を明確にする。校正は本来、「品質保証」の工程。
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校正の工程と種類
- ゲラをチェックし、組版・レイアウト・内容の間違いを正し、ミスを防ぐ「品質保証」のための工程
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色校いろいろ
- 本機校正、平台校正、デジコン、インクジェット校正
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校正の種類
- 突き合わせ校正
- 読み合わせ校正
- あおり校正
- 素読み校正
- 電子検版
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校正記号について
- JIS(日本産業規格)で規定され、2007年に改訂
- 文字の修正・削除、挿入など、すべて決まった記号で指示
- 誰が見ても一目でわかる必要がある
- いわば校正の際の共通語
- 我流のくずしを避けて運用する
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校正記号の運用
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──第三者に指示を伝える記号であることを意識する
- JISのルールに従い、正しい記号で運用する
- 編集側とオペレーターの誌面理解の差を考慮する(オペレーターは誌面内容について知らないことが前提)
- 雑な校正赤入れはオペレーターのモチベーションを下げる
- わかりづらい校正赤入れはお互いの時間を浪費させる
- あいまいな指示を避け、オペレーターの手を止めない
- わかりやすく、見やすく、正確な赤入れを意識する
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校正補助ツール
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機械構成ツール
- プログラムにより、誤字誤植や文法上の誤り、登録辞書との齟齬を指摘するもの
- Word
- JustRight!6Pro
- 校正支援ソフト Press Term
- ──機械校正のアプローチには、以下の方法が組み込まれている
- 検索置換による正誤指摘
- 名詞、固定フレーズの正誤例蓄積による検索置換
- 正規表現を使った拡張検索
- ──形態素解析による文法把握(いわゆるAI校正)の方法
- ルールベースによる正誤指摘
- 正誤例の大量蓄積(教師データ)による深層学習と正誤指摘
- 機械が理解しやすいデータ形式に寄せることで制度を上げる
- ──非破壊テキストとレイアウトの分離・テキストの構造化
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オンライン校正ツール
- データ化されたゲラ(PDF)に画面上で手を入れるためのツール
- Adobe Acrobat DC
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オンライン送校ツール
- データ化されたゲラ(主にPDF)をオンラインでやり取りするためのツール
- Brushup
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機械構成ツール
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編集者に求められる要素
- 工程設計力
- 知識とスキル(スピード・正確性・ていねいさ)
- デジタルへの知見
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校正のポイント
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──「読者の目」から「「チェックの目」へ
- 一文字一文字を(意味でなく)形で見る
- 複数で見る
- 視点を変えて見る
- 見落としやすいポイント・パターンを知る
- 間違っていると思って見る
- チェックシートの活用
感想
これまで、いろいろな「校正」についての講義を聴きました。それぞれ特色のある講義でした。長年、校正に携わると、それなりに哲学ができるようだと思いました。
藤本さんは、出版活動全体を俯瞰してから、今回は校正という段階に焦点を絞って話をされました。原稿が入稿され、組版され、ゲラが出校されたところから、製版され、色校が出て、校了になるところまでの過程を取り上げて、そこで「品質保証」するのが校正の仕事だと言われました。原稿検討などは、「品質向上」にあたるものですが、それ(品質向上)を校正段階でやるのは間違いだというのがよくわかりました。しかし、編集プロダクションの実務としては、初校が上がってから、著者校正や編集部チェックなどが入り、プロダクションの校正作業としては「品質向上」も同時に行っているというのが現状のようです。それゆえ、原稿検討の段階で、版元とある程度の合意に達しておかないと、純粋な「品質保証」としての校正は難しいと思われます。
「校正」は、印刷工程の発展によって、かなり変わってきています。デジタルになってからの組版の校正は、同時に色校も行われるようになっています。つまり、組版が終わると、ゲラがPDFになり、色校正も同時になされていくというのが現在の主流になっています。プロダクションの編集作業は、何らかのデジタルデータ(Word原稿が多い)をもらい、その原稿を検討し、デジタルデータ(Wordが多い)で組版入稿して、InDesignで組版してもらい(または組版し)、その後はPDFデータで校正を進め、校了にし、InDesignの組版のデータを納品するというのが一般的な過程になっています。もちろん、受注の仕方によっては、もっと多様な形態がありますが……。藤本さんがいうように、校正を純粋に品質保証の過程となるようにするためには、組版に入稿する段階で品質向上を完全にしておかないと不可能であり、この段階で、版元のチェックや校閲を入れてもらうのが大事だと思います。デジタル原稿をもらって、初校になってからのPDFデータで版元チェックが入ると、往々にして、品質向上の段階(本当に品質向上になるか微妙ではありますが)に逆戻りする場合が多いです。この点では、常に版元の担当者とのコミュニケーションが大事だと思います。こうしたことを考えることができるのは、編集作業における校正の役割が明確になっているからです。藤本さんが述べているように、品質向上の段階(原稿検討・整理など)と品質保証(校正・校閲など)の段階の区別ができるようになることによって、それぞれの役割が明確になってきます。そういう意味では、ときには校正の原点に戻って考えてみて、私たちの編集作業を振り返ってみることも必要だと思いました。
ところで、デジタル原稿の場合、本当は、テキストデータとその他のもの(レイアウト、図版など)を区別して処理できると、もっと多様な校正も可能になってくると思われます。今、はやりのAIを使った校正は、いわばこのテキストデータに対しての校正が主であり、現段階ではとてもレイアウトなどの校正はできません。Wordを使ったデータ処理でも、テキストデータを上手に扱うためには、スペースキーを使ったレイアウトをするのではなく、レイアウト(段落下げや表組みなど)は常に書式設定で行うことが原則になります。(四禮静子著『スペースキーで見た目を整えるのはやめなさい』(技術評論社/2020.6.19))ただ、教材や実用書も、図版やレイアウトが複雑になってくると、テキストとその他(構造的な書式)を区別して処理するのが難しくなります。InDesignの各種の校正ツールは、いわばテキストデータに対する校正機能を担っている場合が多いと思われます。藤本さんが提案してくれた校正補助ツールの中のWordやJustRightなどはテキストデータの校正処理だと言えます。Brushupは、PDFデータを校正データとしていて、共同作業としての校正ツールとしてはかなり有効かもしれませんが、これは使う人が慣れないと,なかなか難しいと思いました。正規表現について言えば、プログラミングで文字データを扱う場合は、必須な技術であり、簡易なスクリプト言語と一緒に学ぶことをお薦めします。そろそろ、編集者にもプログラミングの知識・技能が必要になってきていると思いました。
藤本さんの講演は、校正という点に限って言えば、とても妥当で、興味深かったです。編集プロダクションとしても、よく心に留めておくべきことだと思いました。