オンライン講座「フォントとDTP組版」
講師:藤本 隆(ふじもと たかし)氏
【講師略歴】
ベネッセグループの編集専門会社にて編集業務に長年携わる。学習教材をはじめ情報誌、フリーペーパー、教育系タブロイド、資格系教材、広告チラシ、フライヤーなど広範な印刷媒体の企画・制作経験を持ち、原稿、記事の執筆、イラストレーション、DTPデザインもこなす。ベネッセグループ各社向けの育成研修講師を務める。 著書に『印刷発注の基本がわかる本』(日本能率協会マネジメントセンター)。
これで、藤本隆さんのオンライン講座は、4回目です。今回は、前回触れられなかったフォントとDTP組版についての講座でした。漢字、フォントに続くDTP組版なので、漢字やフォントをInDesignでどのように活用できるかもよく分かるように解説されていました。
以下、藤本さんの講義の内容を簡単に紹介します。
講義内容
【前回講義の漢字についてのまとめ】
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漢字(コンピュータで使う符号化文字集合としての)について
- 常用漢字以外の漢字の字体が、JISの取り扱いで、旧字体のままか、拡張新字体にするかで混乱が生じた。
→ 旧JIS 78 旧字体 → 新JIS83 拡張新字体 → JIS2004 旧字体
※拡張新字体とは、旧字体のものも、常用漢字の字体にあわせて変更したもの
- 常用漢字以外の漢字の字体が、JISの取り扱いで、旧字体のままか、拡張新字体にするかで混乱が生じた。
【フォント(Font)】
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フォントとは
- 字体と書体の区別
字体とは、字の点画や字を構成する骨格の違い。
書体とは、字のデザインの仕方や細部の表現の違い。 - フォントとは、書体の同じ文字集合をデータ化したパッケージ
どのような文字集合を収録しているかはフォントにより異なる。
文字集合のデータ化方式はフォントにより異なる。
かつては、スクリーンフォント(モニター表示)とプリンタフォント(印刷用)というように、用途別に作られていたが、現在は、一つのフォントで両方できるようになっている。 - 書体のウェイトとは、書体を揃えた上で文字主要部の太さを変えるもの。
フォントファミリーとは、ウェイトの違ったモノをまとめたもの。
フォント名の末尾に、ウェイト記号がついている。 - 印刷用フォントには、PostScript CID(商業用)とTrueType(民生用)があったが、現在では、OpenTypeに統一されている。
印刷用フォントとしては、①高精度なアウトライン(輪郭)が描けること、②基本書体とファミリー(ウェイト)が揃っていること、③異体字を含む多くの文字種が扱えることなどが必要。 - OpenTypeフォントの特色
ベジェ曲線による高精度な曲線の描画。
印刷用フォントメーカー(特にモリサワ)が積極採用。
Unicodeベースで、より多くの文字種を収録可能。
AdobeとMicrosoftが共同開発。 - Adobe-Japan 1規格
Adobeが日本語DTP用に策定した符号化文字集合。
2004年 AJ 1-6 23,058字 OpenType-Pr6(JIS90 準拠字体)。
2007年 AJ 1-6N 23,058字 OpenType-Pr6N(JIS2004 準拠字体)。 - 文字のユニバーサルデザイン(UD書体)
モリサワUD書体は、「文字のかたちがわかりやすいこと」「文章が読みやすいこと」「読み間違えにくいこと」をコンセプトに開発された。
その場合、「小サイズですべての文字が問題なく判別できること」を一つの基準として、書く文字が見直されている。
- 字体と書体の区別
【DTP(Desktop Publishing)】
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DTP組版について
- 日本におけるDTPの始まり
Macintosh漢字Talk6.0.7(Apple・1990)→Macでの日本語環境が整う。
PageMaker3.0J(1989)・QuarkXpress3.1J(1993)→DTPアプリの日本語版が発売される。
リュウミンL-KLと中ゴシックBBB(モリサワ*1989)→日本語PostScriptフォント搭載プリンタが発売される。 - 現在は、Adobe CloudにあるDTPアプリケーションが主流(DTP三種の神器)
Photoshop → おもに写真画像等の調整・加工・特殊効果を行うためのアプリ。
Illustrator → おもにデザインパーツやイラストを作成するためのアプリ。
InDesign → 写真や図版、テキストを集版して、多ベージの組版を行うためのアプリ。
※このほかに、PDF作成のためのAdobe DCもよく使われる。 -
DTPアプリの必須要件
- 印刷・製本仕様への対応
→見開き編集・ページ一覧編集・トンボつきゲラ出力。 - CMYKカラーへの対応
→CMYKの取扱いと編集・分版・レジストレーション。
※モニター出力は、RGBカラー。 - 細密な組版ルールへの対応
→ツメ・ルビ・組版ルール・禁則。
- 印刷・製本仕様への対応
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組版をはじめる前に設定しておくこと
- マスターページの作成と設定
- 必要な色の作成と設定
- 文字スタイル・段落スタイルの作成と設定
→DTPオペレータの作業工数を減らし、手作業によるロスやミスの発生を抑制する。
→編集・修正・流用時にロスやミスが発生しない「きれいなデータ」を作成する。
→機械でできることは機械に、機械にできることを増やす=非破壊で再利用できるデータを作成する。
- 日本におけるDTPの始まり
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DTPデータの入稿(印刷所にデータを渡すとき)
- ネイティブ入稿(以下の物をセットで渡す)
データを作成した組版アプリのデータ
リンクとして配置したファイル
必要であれば、フォントデータ
- PDF入稿(PDF/Xによる入稿)
PDF/X-1a CMYKカラー、透明機能の分割
PDF/X-4 RGBカラー、透明機能への対応
- ネイティブ入稿(以下の物をセットで渡す)
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更なる組版の効率化のために
- Scriptによる自動化・バッチ処理
- 自動組版アプリとの連携
- 変換アプリによる自動組版
- xmlによるスタイルシート自動組版
※単にソフトを道具(ツール)として使うだけでなく、仕組みを工夫することが大事。
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編集者の使命について
- 文字を、紙に、スクリーンに、データに、正しく表現する。
文字の扱い・フォント・DTPについて、正しい知識を持つことでトラブルを回避し、先手を打った政策ができる。
- 文字を、紙に、スクリーンに、データに、正しく表現する。
感想
漢字の符号化方式とフォントとは密接に関係していて、実際の画面出力や印刷出力は、フォントを使ってなされています。前回の講座で、漢字をコンピュータで処理するために、どのような符号化方式を採用してきたのかをJISの歴史として学びました。特に、常用漢字外の字体を常用漢字の字体に合わせるのか(拡張新字体)、それとも、もともとの旧字体のままでいくのかが、問題でした。
一応、現在の基本は、常用漢字外の字体は旧字体でいくというJIS2004の規格になっているようですが、モリサワのフォントでは、それが別々のフォント集合になっています。私が昔、20年ほど前にInDesignを使っていたころは、拡張新字体になっていたようで、InDesignの異体字検索で、旧字体のものを探した記憶があります。現在は、フォントのファミリーの最後にNがつくかつかないかで、旧字体か、拡張新字体のどちらが基本になっているかが区別されていることをはじめて知りました。
今回の講演が、漢字、フォントに続いてDTP組版だったので、JIS規格の問題(旧字体、拡張新字体)がDTPソフト(InDesign)ではどのように処理されているか、具体的な例を挙げられていてとてもよく分かりました。符号化文字集合としてほぼ必要な漢字を網羅した、JIS2004と、それに伴うフォントの作成の歴史は、知っておくべきことだと思います。
ところで、私が、DTP組版で衝撃を受けたのは、教材などの教師用アカ版を作るとき、レイヤーを分けて児童用と教師用を作り、校正の段階で重ね合わせてPDFを作れば、簡単にアカ刷りの校正ができることでした。このレイヤーという考え方は、PhotoshopやIllustratorなどにも使われていた方法ですが、とても教材の編集には便利だと思ったものです。
そのころは、まだ、写植で組版していて、児童用と一部重なる教師用アカ刷りをどのように組版するのかが、頭痛の種でした。それが、DTP組版でいとも簡単にクリアされたのでした。また、文字や画像などの修正も、簡単にできるようになりました。その分、後でも修正が可能だと安心してしまったという悪弊も生じましたが、……。
また、PageMakerやQuarkXPress(Illustratorも)などで、DTP組版は日本語の縦書きの場合、微妙にうまくいかないことがありましたが、InDesignの日本語バージョンはそれを見事にクリアしていました。そのときに、正方形の仮想ボディの中に文字をデザインするという発想を知りました。この正方形の仮想ボディで組版することによって、日本語の縦組みがきれいにできるようになりました。また、字形にあわせて詰めるようにすることもできるようになっています。
日本語のフォントとしては、写研、モリサワなどがありましたが、DTPが始まる前は写研のフォントが圧倒的なシェアを占めていましたが、写研はあくまで写植機メーカーとして生き残ろうとしました。他方、モリサワは、フォントメーカーとして生き残りました。DTP組版の時代になって、Adobeと連携しながら、新しいフォントをつぎつぎと開発して、現在では、フォントメーカーといえば、モリサワと言われるようになっています。そして、DTP組版ソフトは、現在、Adobeの独擅場となり、ほとんどがInDesignで行われています。最初は、Macでの実用化でしたが、いまでは、Windowsでも同じように扱え、データもほとんど互換性があります。
これからは、InDesignを使いながら編集作業をするのか、それともInDesignによる組版は、デザイナーや組版会社にまかせて、組版しやすい入工原稿をどうつくるかが編集の仕事だと考えるかに分かれてきます。
編集プロダクションによっては、編集者が全員InDesignを使いこなしているところもあります。また、作家によっては、InDesignを使いこなし、多様な漢字やルビを使い、しかも見開きを超えた段落にならないようにという組版ルールを作って、原稿を作成している京極夏彦のよう人も現れました。
今後は、簡単な物は、InDesignで内製し、複雑な物は、組版会社(または、デザイナー)に依頼するということになっていくのかもしれません。エディットもそうしていますが、編集者全員がWordのように使えるかと言えば、難しい状態です。
将来は、編集者全員がInDesignを使えるようになり、その上で入工原稿をどう作れば完全原稿になるのかと考えられるようになるのが理想だと思います。ただ、AdobeのCreative Cloudのプランは、月額月6,248円(税込)の費用がかかります。InDesign単体のプランだと月額2,728円(税込)になります。編集者の道具として、これが安いと言えるのかどうかは問題がありそうですが、……。
いずれにしても、InDesignがマイクロソフトのOfficeのように文房具の一種として使えるようになれば、もっと普及し、みんなが使うことになるかと思います。そうすると、藤本さんの言う、「道具から仕組みへ」ということも考えられるようになるかと思います。そのためにも、編集者としては、DTPについてひと通りの知識を持ち、InDesignを道具として多少は使えるようになる必要がありそうだと思いました。