オンライン講座「センスに頼らない、売れる企画の考え方」
講師:長久 恵理(ながひさ・えり)氏 ダイヤモンド社編集部
【講師略歴】
1985年生まれ。2社を経て、2011年宝島社入社。e-MOOK『からだにやさしいレモン塩レシピ』(14万部)、『服を買うなら、捨てなさい』(36万部)、『願いが叶う!人生が変わる!引き寄せの法則』をはじめとする引き寄せベストシリーズ(累計20万部)など、主に女性実用書籍、ムックを担当。2018年よりダイヤモンド社。『「育ちがいい人」だけが知っていること』(47万部)などを担当。(AJECの編集講座案内より)
今回の講師の長久恵里さんは、ダイヤモンド社の編集者です。編集者のセンスだけでベストセラーが生まれるのではなく、「企画段階のテーマ(市場)、切り口、著者、フォーマットの4つのかけ算」がベストセラーを生み出していると提案され、1.売れるテーマ(市場)は具体的に何か、2.いい切り口、ダメな切り口の違い、3.著者の選び方、4.テーマと著者だけでは弱いとき、企画を強められる工夫としてのフォーマットの具体例などを話されました。
いい本が必ず売れるとは限りません。確かに、いい本は、狙った市場のお客さんの90%をとれ、いい本じゃないと狙った市場の10%も難しいかもしれないが、市場全体が大きいと、たとえ10%でも、いい本より売れる本になり得ます。企画のときの大切なことをデータ分析しながら、上記の4つの要素を強調されていました。主として、女性向けの実用書を中心とした企画術の話でしたが、「いい本の作り方」ではなく「数字が取れる企画」のつくり方を提案され、数字にこだわった説明には、納得させられました。
以下、簡単に講演の内容を紹介します。
講義内容
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本の売り上げは、企画段階の4つの要素のかけ算で決まる
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1.テーマ(市場)、2.切り口、3.著者、4.フォーマット(+プロモーション)
→この順に、売上に貢献している。
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1.テーマについて
- どのテーマが売れるかは、数字でわかる→例えば、女性実用書では、品格、教養、自己肯定感を育てるものなど。
- コンプレックス市場が大きい→これらは、書店売上データ・ランキング(紀伊國屋Publine、日販WIN、類書などから)を見ると、マーケットサイズや売れる売れないの切り口の共通点を発見できる。
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2.切り口について
- テーマのなかで、いい切り口、ダメな切り口を見る→テーマの市場の中で、切り口によって、人数が減らないか、チェック。
- 大きい別のテーマをかけ合わせるという方法もある→『「育ちがいい人」だけが知っていること』は、いくつかのテーマ分野をかけ合わせている。
【例】「コンプレックス」(100万部を超えられる)、「教養」(100万部を超えられる)、「常識」(100万部を超えられる)、「モテ」(10万部)、「マナー」(最大10万部) 「子育て」(10万部)など - 自分の会社の得意ジャンル(市場)のもののほうが売れやすい→ダイヤモンド社の場合は、ビジネス・勉強・心理・健康・お金・教育・教養・常識・自己啓発などが得意。
- 3.著者について
- 数字を持っている人を選ぶ→書店での知名度、本業の実績、メディア露出の可能性、SNSフォロワー数など。
- 4.フォーマットについて
- 企画が弱いと思ったら、フォーマット(話の展開の仕方)を利用
- 4つのフォーマット 1)ベスト、2)まとめ(網羅)、3)初心者(エントリー層)向け、4)簡単
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長久さんの本の場合
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『「育ちがいい人」だけが知っていること』から
1.テーマ(市場)→コンプレックス、マナー × 3.著者→マナーNO1 × 4.フォーマット→TIPS-
『服を買うなら捨てなさい』
1.テーマ(市場)→ファンション、断捨離 × 3.著者→3万部くらいの著者(業界の大御所) × フォーマット→エッセイ
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プロモーションについて
- 企画段階で、テレビなどに「取り上げてもらう理由」を入れておく。
- 売る人にとっても見やすいもの
- テレビ・ウェブ用の切り口を仕込む(『「育ちがいい人」だけが知っていること』) →本:育ちをよくするTIPS、ウェブ:育ちがしれるのはどこ?、季節にあったネタなど、テレビ:正しいのはどっち?、常識力&マナークイズなど。
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最後に
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いい本をつくるノウハウは、個性的な面があるのでこうした方がいいというのは難しいが、自分が伝えたいこと、好きなこと、いいと思ったものを形にするときは、1.テーマ、2.切り口、3.著者、4.フォーマットのかけ算の話を思い出して、自分の企画をチェックしてください。
感想
今回の講師の長久恵里さんは、宝島社にいて売れる本をつくり、その後ダイヤモンド社に移っても売れる本を出しています。それぞれの出版社で担当した本の紹介がありましたが、それぞれの出版社の得意ジャンルの違いによる微妙な売れ行きの差などにも敏感なようです。宝島社のときは、年間20点くらいもつくっていたようですが、ダイヤモンド社の場合は、年間5冊くらいの出版で、企画段階で綿密に計算して、より丁寧な編集をされているようです。
ダイヤモンド社といえば、以前にAJECの編集講座で、取締役・営業局長兼大阪支社長の井上直さんの講演がありました。そのときのタイトルは、「営業と編集が連係していくために必要なこと」(https://www.edit-jp.com/report/2018-0222.html)でした。井上さんはそのとき、営業局長という立場から、ダイヤモンド社の企画会議のあり方やデータ分析の重要さを話されていました。長久さんの話を聴いて、ダイヤモンド社の社風というか、データ分析がとても丁寧で、数字を大切にしている様子がよくわかります。
最後に述べられていましたが、個々の企画の内容は、それぞれの編集者の個性が出てくるので、その方法を教えるというのは難しいですが、自分の企画を「売れる本」にするために確実にできることをしようという提案は、その通りだと思いました。特に、①テーマの設定、②切り口、③著者の選定、④フォーマットのそれぞれの具体的な事例を挙げた説明は、とても参考になりました。長久さんは、企画の煮詰め方にも自信を持っていると思いました。多分、ダイヤモンド社の企画会議がそういう土壌をつくっているのだろうなとも思いました。
『「育ちがいい人」だけが知っていること』や『服を買うなら、捨てなさい』のような本を企画の具体例として、テーマ、切り口、著者、フォーマットなどから検証されていましたが、そういうテーマを選択し、企画にして本をつくっていくことの中に、長久さんの個性が出ているような気がしました。
編集プロダクションとして、実用書の編集をする際には、テーマの具体的な市場分析や、フォーマットの具体例なども、参考になりそうです。現在、出版されている実用書、特に女性をターゲットとした実用書を眺めていると、長久さんの分析がかなり的を射ていることがよくわかります。
長久さんは、女性向けの実用書をメインに本づくりをしています。もともとファッション業界を志向していたそうで、ファッションでも実用書を狙っていると思われますが、ダンヤモンド社から出るとしたら、どんな切り口になるか、とても楽しみです。