オンライン講座「レイアウトとデザインの基礎」
講師:藤本 隆(ふじもと・たかし)氏 株式会社プランディット/編集事業部・編集長
【講師略歴】
ベネッセグループの編集専門会社にて編集業務に長年携わる。学習教材をはじめ、情報誌、フリーペーパー、教育系タブロイド、資格系教材、広告チラシ、フライヤーなど、広範な印刷媒体の企画・制作経験を持ち、原稿、記事の執筆、イラストレーション、DTPデザインもこなす。ベネッセグループ各社向けの育成研修講師を務める。 著書に『印刷発注の基本がわかる本』(日本能率協会マネジメントセンター) (AJECの編集講座案内より)
藤本隆さんのオンライン講座が、5回目になりました。今回は、「レイアウトとデザインの基礎」ということで、編集者にとって必要な基礎知識と理論について解説されました。
特に、レイアウトやデザインの実際の具体例を提示された説明で、とてもわかりやすい内容になっていました。
「企画」と「規格」という言葉を取り上げ、「どんなに優れた企画も、的確に具現化されなければ伝わらない」のであり、具体的に「規格」に落とし込んで行くために、必要な技術として、「レイアウトとデザイン」の力が必要であり、そこでは、編集者とデザイナーの二人三脚が必要だと強調されていました。
編集者は、レイアウトやデザインの専門家ではないので、具体的なレイアウトとデザインはデザイナーに頼らざるを得ないが、そのときに、デザイナーと共有する企画と読者へのメッセージの理解が大事だというのは、とても共感できました。
以下、藤本さんの講義の内容を簡単に紹介します。
講義内容
- レイアウトとは、誌面の構成要素を、読みやすく、企画意図が正しく読者に伝わるように配置すること。
- デザインとは、レイアウトに視覚的効果を加えて、細部と全体を調整し、誌面の総合的な演出を行うこと。
→企画に基づいて用意した素材が具体的なページイメージに固定され、「制作」から「製作」に変わる大切な役目。 - 編集者は、レイアウトとデザインのプロではないので、デザイナーに仕事を依頼することになるが、大切なことは企画・メッセージを編集者とデザイナーが共有することである。
- それぞれの要素の役割は明確か。
- キャッチが絞り込まれているか。
- 各要素のボリュームは役割に応じて適切か。
- 全体の流れはスムーズか。
- メッセージは明確か。
- 基本構図(構図の役割や効果など)
→三角形の構図、逆三角形の構図、水平・垂直の構図、傾きの構図、整列の構図、アクセントの構図、対象の構図、「起こし」と「受け」、集中、拡散など。
(構図の役割や効果など、具体例を通して説明、以下同じ)
●レイアウト・デザインの役割
●レイアウトとデザインの基礎知識
1)誌面の構成要素の理解2)構図の基礎知識
- 3)色彩の基礎知識(色彩の役割や効果など)
- 色彩の3要素
色相──色味(赤~紫)
明度──明るさ(白~黒)
彩度──鮮やかさ(潤色~濁色)
- 色の連想(色相、明度、彩度ごとに)
具体的連想と抽象的連想 - 暖色系と寒色系
- 色の地味・派手
- 色の調和と対比
- 書体の区別
→明朝体、ゴシック体、ゴナ系ゴシック、丸ゴシック体など、役割を見極め、効果的に用いることが大切。 - 書体選択のセオリー
→多種類の書体を同一紙面に用いすぎない、ファミリー(ウエイト違い)を有効に活用する、ウエイトの太い書体を小さな級数で用いない、見出し用の書体で本文を組むのは可読性の問題がある、など。 - 組版に関する注意事項
→組版ルールで印象が大きく変わることに注意、半角約物・句読点のツメ処理に統一ルールを、ジャスティファイ(右揃え・下揃え)での字間アキに注意、組み方向(縦組み・横組み)に編集意図はあるか、行間・段間に編集意図はあるか、など。 - 基本的な編集スキルと、複雑な仕事の流れを整理して進める段取り力。
- クライアントをはじめ、各工程のプロフェッショナルとスムーズなやりとりを進める交渉力。
- 担当するテーマ・分野に対する深い専門性と、担当するテーマ・分野を広い視野で位置づける幅広い知識。
- 各工程におけるプロの作業内容の理解と、各工程で扱われる用語の正しい理解、リスペクト。
→製作工程を理解することで、クライアントや製作のプロフェッショナルとコミュニケーションが取れるようになるとともに、スムーズでリスクの少ない製作を進めることができる。
4)文字組の基礎知識
●編集者に必要なもの
<感想>
今回の講座の醍醐味は、レイアウトとデザインの基礎知識ということで、それぞれの理論や知識を深めるために、必ず具体例を提示されたことです。そのために、格段に理解しやすく、印象に残る内容になったと思います。
新聞誌面構成や色彩の基礎知識などは、国語や美術の時間に、基礎的な知識を学んだはずですが、私たちは多分ほとんど忘れていると思います。それらを思い出すと同時に、具体的に事例を挙げながら説明されていましたので、感覚的にも了解できました。
レイアウトやデザインは、簡単なものは編集者が自分で行うこともありますが、基本的にはデザイナーに依頼することになります。その場合、専門的なことは専門家に任せますが、本の企画やイメージは編集者が立てたものですので、的確にデザイナーに伝えて、企画やメッセージを共有することが大切です。そのためにも、スムーズなコミュニケーションが図れるように、レイアウトとデザインの基礎知識はぜひ身につけておきたいものです。
藤本さんの5回の講演に共通することは、専門的なことは専門家にまかせるべきですが、その専門家と的確なコミュニケーションを図り、いかに読者が読みやすい本づくりをするためにいろいろな分野の基礎知識はもつべきだというメッセージです。そうすることが、編集者と専門家との良好な関係づくりになり、よりよい本づくりにつながるということが強調されています。その通りだと思いますし、藤本さんがそうした努力を積み重ねられて、今回の講座内容の豊富な具体例が提示されたのだと思います。藤本さんの知的探究心に脱帽です。
本のレイアウトやデザインは、一種のセンスとして、感覚に頼るところもありますが、先人たちの努力によって、構図や色彩、文字組みなどの基礎知識・理論としてまとめられています。編集者は、単なる読者としてだけでなく、同じ本づくりの仲間の仕事として、本の体裁、誌面レイアウト、デザインなどを時には点検してみることも大事だと思いました。好き嫌いで終らせるのではなく、理論的にも理解することで、レイアウトやデザインの多様性を自分のものとして、よりよい本づくりに活かせることができるような気がします。
そのためにも、アートとしてのデザインではなく、エディトリアルデザインとして、その基礎知識と理論の提示をとても分かりやすくまとめていただいた藤本さんに感謝です。
特に、多様な構図の具体例に目をうばわれました。それとともに、何気ない雑誌の見開きページが、なんだか宝箱のように思われたのは私だけではないような気がします。
また、編集者は、日常的にレイアウトやデザインの見本を見ているわけで、もう少し意識的な探究をしてみることも面白そうだと思いました。それらは、これからの自分の本づくりにきっと役立つものだと思われます。