7月編集講座「105万部のベストセラー」(越智秀樹氏)に参加して
【講義内容】◎オンライン講座「105万部の超ベストセラーはどのようにして生まれたか」
講師:越智 秀樹(おち・ひでき)氏出版マイスター、OCHI企画・代表取締役社長
【講師略歴】
1970年愛媛県今治生まれ、大分大学経済学部卒。1992年PHP研究所に入社。
法人営業を振り出しに、文庫出版部副編集長、エンターテインメント出版部編集長を経て、2015年PHP出資の関連会社PHPエディターズ・グループの代表に就任。
2017年10月に独立し、現在は出版マイスターとして活躍。
新人著者の育成を中心に、書籍の企画、プロデュース、編集を手がけている。
編集した書籍は『人は話し方が9割』(105万部/永松茂久・著)『「世界の神々」がわかる本』シリーズ(5冊累計100万部超/造事務所・編著)『絶対、よくなる!』(10万部超/斎藤一人・著)『スティーブ・ジョブズ 神の仕事術』(10万部/桑原晃弥・著)『トヨタ式「すぐやる人」になれる8つのすごい!仕事術』(5万部/桑原晃弥・著)など、今までかかわった書籍は600点以上、累計1100万部を超える。
今回の講師の越智秀樹さんは、OCHI企画の社長です。本人は、「出版マイスター」と名乗っていらっしゃいます。越智さんが編集者としてつくった永松茂久著『人は話し方が9割』(すばる舎)は105万部のベストセラーとなり、さらに売れ続けています。この講演では、その本がどのようにつくられたのかを分かりやすく話してくださいました。
昨年度のAJEC編集講座でも、いろいろな編集者に「売れる本のつくり方」について講演していただきました。皆さん、自分が惚れ込んだ著者の本を「売れる本」に仕上げています。今回の越智さんも、著者と本音でつきあう中で企画が生まれ、ベストセラーになっていきました。それを真似すればベストセラーが出せるというわけではないと思いますが、編集の仕方としては、とても参考になるお話でした。
以下、簡単に講演の内容を紹介します。
<講義内容>
<メンタル編>企画のでき方
- 著者と真正面から向き合ったから、著者の「ここが面白い」に気づいた。
→素直に企画にできた。 - 著者とつきあって見つけたコアメッセージ
→会話がうまくなる方法、それは「苦手な人との会話を避け、大好きな人と話す時間を増やす」これだけです。
<著者と深くつきあう3つのコツ>
- たった1人でいい。「仕事と関係なくこの人とつきあいたい」と思う著者を見つける(深くつきあう覚悟を持つ)。
- 自分の悩みや疑問を著者にぶつけてみる(裸の自分をさらす)。
- 食事を一緒にする(素の著者を知る絶好のチャンス)。
◎著者と深くつきあうことによって見えてくる企画があるので、たった1人でいいから、自分が共感できる深くつきあう著者を見つけることが大事。
<スキル編>本のつくり方(「型」を身につけることが大事)
○タイトルの型 →「はな9」(『人は話し方が9割』)が生まれたタイトルの「型」
『人は見た目が9割』(2005年)
『人は話し方で9割変わる』(2006年)
『伝え方が9割』(2013年)
『人は話し方が9割』(2019年)
○見出しの型→13の類型
- 問いかける →話のうまい人の人生はなぜうまくいくのか?
- 命令 →苦手な人に、自分から話しかけるのは止めなさい
- 韻を踏む →大いなる力には、大いなる責任が伴う
- 二面性を語る →うなずきにも、いいうなずきと悪いうなずきがある
- 共通点を語る →「人付き合いのコツ」と「話し方の極意」は、実は同じ
- 表と裏をしめす →正しいは間違い、間違いは正しい
- 強調する →話し方は「スキル」より「メンタル」
- 会話文を使う →「あなたはすでにツイている」
- 限定する →話し方上手の人だけが知っている3つの技法
- 体言止めをする →困ったことがおこるのは、心が乱れている証拠
- 伏せ字を使う →話し方は「〇〇」を止めるだけで、9割うまくなる
- 意外な言葉の組み合わせ →「正義中毒」
- 数字を使う →呼吸を変えるだけで記憶力は3倍
- 注意を引く →「嫌われない話し方」は「好かれる話し方」以上に重要
- 自問する →日本人に腰痛が多いのはなぜだろう
○「はじめに」にも型がある →読者と著者の橋渡し、映画でいう「予告編」、チラ見せ
・「はじめに」の役割
- この本はどんな本か
- 著者はどんな人なのか
- なぜこの著者がこのテーマで書いたのか
- 読むと、どんなメリットがあるのか
・売れている本の「はじめに」を研究しよう →「はじめに」のブラッシュアップ
・売れている本の「はじめに」を手書きする
・売れている本の「はじめに」を音読する
・自分が編集した「はじめに」を音読する
○図版にも型がある→図版の3つの型
- before・afterを見せる
- ストーリーで見せる
- 分類する
※「図版」の下絵は編集者が考える →できたら自分でラフを
◎最後は「型」を忘れて、自分の感覚を信じる勇気を持つ
<感想>
永松茂久著『人は話し方が9割』は、とても話題になっているベストセラーです。しかし、私はその本を読まないまま講演を聞きました。講演はとても分かりやすく、本の企画(主として「メンタル編」で語られています)のでき方と、実際の本づくり(主に「スキル編」で語られています)は、とても納得できるお話だとは思いましたが、なんとなく不安定な気持ちになりました。
多分、それは、『人は話し方が9割』を読んでいないことが原因ではないかと思いました。それで、講演後すぐに、AmazonでKindle本を購入しました。本を読まないと「人は話し方が9割」の意味することがわからないと思ったからです。
本は、講演を聞きながら想像していた本より、はるかに分かりやすくシンプルな本でした。複雑化した人間関係の中で、コミュニケーション能力を磨くコツがとても分かりやすく書かれています。「話し方のスキルを上げること=心を磨くこと」、そして、「相手の方が幸せでありますようにと祈りながら話すようにすること」が「話し方の究極のスキル」と書かれています。多分それが、「人は話し方が9割」の意味だと思いました。
本を読んでみて、初めて越智さんが、この本のコアメッセージが「苦手な人との会話を避け、大好きな人と話す時間を増やす」、これだけと言っていることが了解できました。もちろん、そのためのスキルがいろいろ語られていて、とても腑に落ちる内容になっています。だから、誰でも少し心がければ、すぐに実行できそうです。長さも適切で、すぐに読み終えることができます。そして、少し得した気持ちになります。
講演の内容は、どのようにして企画を立てたのか(メンタル編)、どういう構造の本になっているか(スキル編)ということでした。なぜこの本が105万部のベストセラーになったのかということが語られているわけではありません。100万部を越えるベストセラーは、一つの社会現象です。だから、その分析には、出版社のしたことだけでなく、社会的に分析が必要です。しかし、越智さんの話を聞いていると、ベストセラーの本は、こうしてつくられていたのか、あるいは、そういう工夫をすることにより、こういう本ができたのかということがよく分かります。
越智さんは、「強い思いを持ち続けること」と「難しいことをわかりやすく、わかりやすいことをもっとわかりやすく」ということの大切さを、最後にも強調されました。そして、そのことが、ミリオンセラーというのは「誰でも読めて、役立つもの」と定義されています。確かに、この本を読んでいると、まるで私のために書かれた本ではないかという気持ちにさせてくれます。それだけ、読者の心に響いてきます。多分それが「売れる本」の原点なのだと思いました。
今回の講演は、われわれ編集プロダクションで働くものには、直接関わらないかもしれませんが、分かりやすく、心に残る本をつくるためのスキルとしては、とても参考になりました。少なくとも、私は、ベストセラーになった本を読んでみることは、編集スキルを磨く上でも、とても役立つことだと思いました。本がベストセラーになるには、いろいろな要因が複雑に絡まっていると思いますが、少なくとも、本自体にも、内容と形式においてそれだけの特色があると思います。そして、それは、編集者を刺激するだけのものを持っていると思いました。