AJEC6月編集講座「編集の基礎~工程と役割~」を受講して
【講義内容】
◎オンライン講座
「編集の基礎─工程と役割─」
講師:藤本 隆(ふじもと たかし)氏
プランディット 編集事業部 編集長
【講師略歴】
ベネッセグループの編集専門会社にて編集業務に長年携わる。学習教材をはじめ情報誌、フリーペーパー、教育系タブロイド、資格系教材、広告チラシ、フライヤーなど広範な印刷媒体の企画・制作経験を持ち、原稿、記事の執筆、イラストレーション、DTPデザインもこなす。ベネッセグループ各社向けの育成研修講師を務める。
著書に『印刷発注の基本がわかる本』(日本能率協会マネジメントセンター)。(AJECの講師プロフィールより)
AJECの2023年6月のオンライン講座は、藤本隆さんの「編集の基礎~工程と役割~」でした。藤本さんは、2021年で6回、2022年で3回、編集の基礎講座を担当されました。都合9回の基礎講座は以下のとおりです。
・2021年度
第1回 編集製作工程と編集者の役割
第2回 校正記号と校正補助ツール
第3回 漢字の歴史と文字コードとフォント
第4回 フォントとDTP組版
第5回 レイアウトとデザインの基礎
第6回 編集者に必要な著作権の知識
・2022年度
第7回 編集の基礎-工程と役割-
第8回 印刷・製本の歴史と現在
第9回 文字処理とAI校正システム
今期の第10回目は、「編集の基礎~工程と役割~」でした。今期もまた藤本さんの講座が続くものと思われますが、今回の講座は藤本さんの過去の第1回目と第7回目の編集講座と基本的にはほぼ同じ内容でした。ただし、全体として、説明は、簡潔になり、分かりやすくなっていました。終盤で、ChatGPTについて触れられました。今期の講座が今後どのように展開されるか分かりませんが、生成系AIの取扱いなどに関しても、今後取り上げられそうで期待してよいと思いました。
以下、藤本さんの講義の内容を簡単に紹介します。
(前期の講演内容については、エディットのホームページ「お役立ちレポート」を参照ください)
<講義内容>
1 印刷と組版の歴史
2 工程の設計(本をつくる工程についての考え方)
3 一冊の本ができるまで(6工程)
- 企画立案/②原稿準備 → 編集
- 組版/④製版 → プリプレス
⑤印刷 → プレス
⑥製本 → ポストプレス
4 各工程の詳細
5 編集者の立ち位置
6 編集者に必要なもの
7 チャットGPTの衝撃
・人間の思考・自然なやりとりに一気に近付いた生成AI
→国語の読解問題の「問題文」と「回答と解説」を作成してみた
8 まとめ──編集者と制作工程の理解
(詳しくは、2021年度・第1回の「お役立ちレポート」、2022年度・第7回の「お役立ちレポート」を参照してください)
<感想>
今回は、前回よりもさらに、本の製作工程の特徴と、そこでの編集者の役割、必要な技術や知識について、分かりやすく解説されていたと思います。内容としては、前期のときとほぼ同じでしたが、また違った面白さもありました。当然、同じスライドでも、語り口は、変わってきます。とにかく、藤本さんの基礎講座は、これから新しく編集の実務に携わる人たちには、とても参考になりますし、ベテランの編集者も自分たちの仕事の在り様を振り返ってみる参考になる講座だと思います。
ところで、「印刷と組版の歴史」でも語られていましたが、現在では、デジタルを中心として、「工程の設計」がなされています。そのために、プリプレスの中の組版と製版の工程は、活字組版や写植組版とはまったく別になっていて、原稿から、刷版までがデジタル化されており、ほとんどPCの中で処理されています。そこでは、いろいろなアプリやクラウド上のサービスが使われています。そして、それだけ編集者の知識も、デジタルの処理に関わるものが多くなっています。こうした、新しくなった工程の中での、デジタルの取り扱いについては、また別の機会に藤本さんが詳しく解説してくれるものと思われます。
デジタルの取り扱いについては、第7回では、デジタルの校正として、Brushupを取り上げられていましたが、今回は、「チャットGPTの衝撃」として、生成系AIの登場について触れられました。内容的には、ほとんど話されませんでしたが、社内で実験的に、国語科の説明文の問題作成と、回答および解説をすべてChatGPTでつくりましたと、成果物を紹介されました。形式的にも整った、ページになっていました。
これが、どれくらいの時間をかけてつくられたものかは、語られませんでしたが、社長が藤本さんに確認された話では、かなりの手間をかけてつくられたようです。多分、普通に作成するよりも、もっと時間がかかったものと思われます。現段階では、ChatGPTでつくってもそんなに時間やコストを削減することはできなさそうです。しかし、時間がかかったにしろ、それができるということは、将来的には、大きな可能性を秘めているようです。
国の省庁や地方自治体などで、ChatGPTの活用について、組織的に実証実験をして、使い方がいろいろ研究されているようです。一応、日本の場合は、わりと抵抗がなく、すんなりと皆さん、活用に取り組んでいるようです。初等教育の中での活用の仕方については、文科省のガイドラインが、夏休みが始まる前に出されるようです。夏休みの宿題や、読書感想文などにChatGPTを利用しないようにという通達が出るものと思われますが、その他の活用については、前向きに取り組むようなガイドラインではないかと思われます。
生成系AIについては、脳科学者や言語学者などが、いろいろと驚きと疑義を述べられていますが、確かに衝撃的な事態になったのだと思われます。今井むつみ・秋田喜美著『言語の本質』(中公新書/2023.5.25)がいま話題になっていますが、ChatGPTは、意味を理解していない(『言語の本質』では、身体性に接地していないという表現を使っています)にもかかわらず、自然言語を使えるということは不思議だと言っています。(微妙な言い方をされていて、本当の自然言語ではないというような意味合いも含まれているような印象を受けました)。これに対して、茂木健一郎などは、ちゃんとした自然言語を話しているのであり、チューリングテストなど、いろいろな条件はクリアしていて、それは自然言語だと認めるべきだというような論調です。まだまだ、LLM(大規模言語モデル)の中で何が起きているのかは、よく分かっていませんが、この問題は、仕事の生産性を上げるのか、仕事を奪うのかという問題だけでなく、人間の言語とは何で、人間とは何かという問題にも関わっているようです。
いずれにしても、生成系AIは、われわれ編集者に多分もっとも影響を与えるAIであり、この発展と活用が、今後のわれわれの仕事がどう変わっていくかを決めるのではないかと思われます。AIに組み込まれるブラグインだけでなく、APIを使ったいろいろな活用が実用化されていくと思われますので、しっかりと情報収集をしながら、われわれもまた生成系AIを使い倒してみる必要がありそうです。そして、それが組織的に活用できるようになった編集プロダクションが今後、多分、長く生き残っていくことになるものと思われます。
(文責:エディット東京オフィス 塚本鈴夫)