AJEC9月編集講座「校正の進め方と校正記号」を受講して
【講義内容】
◎オンライン講座
「校正の進め方と校正記号」
講師:藤本 隆(ふじもと・たかし)
プランディット 編集事業部 編集長
【講師略歴】
ベネッセグループの編集専門会社にて編集業務に長年携わる。学習教材をはじめ、情報誌、フリーペーパー、教育系タブロイド、資格系教材、広告チラシ、フライヤーなど、広範な印刷媒体の企画・制作経験を持ち、原稿、記事の執筆、イラストレーション、DTPデザインもこなす。ベネッセグループ各社向けの育成研修講師を務める。
著書に『印刷発注の基本がわかる本』(日本能率協会マネジメントセンター)
──AJECの講師紹介から
AJECで行われた藤本さんの「校正」に関わる編集講座は、15期3月の「校正記号と校正補助ツール」と16期11月の「自然言語処理とAI校正」の二つがあり、今回は、その統合バージョンだとも言えます。
講演の前半は、「校正とは何か」であり、後半は校正のためのツールにどんなものがあるかというお話でした。後半では、プランディットさんで実際に活用している、Brushupによるオンライン校正システムによる実例紹介もあり、DX化が話題になっている編集システムの問題などが提起されていました。
今回の講演では、基本的には、前回の講演を踏襲し、校正の理念の確認と、校正の現実の問題点など、とても分かりやすく説明されていました。そして、編集制作工程と編集者の役割を踏まえながら、編集者の大事な役割が説明されていました。
詳しくは、藤本さんのスライドやAJECでの活動報告で確認してもらうことにして、ここでは藤本さんの講座の流れをスライド順に紹介しておきます。
<講義内容>
●編集制作工程と校正の位置づけ
・校正とは「校(くら)べ 正(ただ)すこと」
──もとになる原稿、資料、基準と照合し、誤りを正すこと
・修正すべき対象
①誤字誤植──単純誤植・誤変換・文字化け
②文法・表現──誤用・口語表現
③整合性──連番・相関する要素
④ファクト──固有名詞・固有情報・異体字
⑤表記ゆれ──不統一
⑥レイアウト──色・書体級数・扱い
※修正すべき対象を明確にし、判断のぶれや修正の無限ループを防止することが大切。
●修正判断基準
・原稿・初校・再校・色校でどこまで直すか。
──品質特性に照らして、工程ごとの修正判断基準を明確にし、事前に合意しておくことが大切。
・「品質向上」の工程と「品質保証」の工程を明確にする。校正は本来、品質保証の工程。
●校正の工程と種類
・ゲラをチェックし、組版・レイアウト・内容の間違いを正し、ミスを防ぐ品質保証のための工程
・色校いろいろ
本機校正、平台校正、デジコン、インクジェット校正
・校正の種類
突き合わせ校正
読み合わせ校正
あおり校正
素読み校正
電子検版
●校正記号について
・JIS(日本産業規格)で規定され、2007年改訂。
・文字の修正・削除・挿入など、すべて決まった記号で指示。
・誰が見ても一目でわかる必要がある。
・いわば校正の際の共通語。
・我流のくずしを避けて運用する。
●校正記号の運用
──第三者に指示を伝える記号であることを意識する。
・JISのルールに従い、正しい記号で運用する。
・編集側とオペレーターの紙面理解の差を考慮する。
(オペレーターは紙面内容について知らないことが前提)
・雑な校正赤入れはオペレーターのモチベーションを下げる。
・わかりづらい校正赤入れはお互いの時間を浪費させる。
・あいまいな指示を避け、オペレーターの手を止めない。
・わかりやすく、見やすく、正確な赤入れを意識する。
●校正補助ツール
①機械校正ツール
・プラグラムにより、誤字の誤植や文法上の誤り、登録辞書との齟齬を指摘するもの
──AI校正(ルールベースの校正、機械学習による校正)
②オンライン校正ツール
・データ化されたゲラ(PDFなど)に画面上で手を入れるためのツール
③オンライン送校ツール
・データ化されたゲラ(PDFなど)をオンラインでやり取りするためのツール
<具体例>
①のツールの代表
Word
JustRight! 6Pro
校正支援ソフトPress Term
──機械校正のアプローチには以下の方法が組み込まれている。
・検索置換による正誤指摘
・名詞、固定フレーズに正誤例蓄積による検索置換
・正規表現を使った拡張検索
──形態素解析による文法把握(いわゆるAI校正)の方法
・ルールベースによる正誤指摘
・正誤例の大量蓄積(教師データ)による深層学習と正誤指摘
・機械が理解しやすいデータ形式に寄せることで制度を上げる
──非破壊テキストとレイアウトの分離・テキストの構造化
②のツール
Adobe Acrobat DC
②と③のツール
Brushup
──プランディットさんの活用方法の解説。
1.校正システム依頼
2.Brushupオンライン送稿
※校正システムからAI校正サービスに送り、集約作業に自動で取り込むようにしている。
3.Brushupオンライン校正
4.Brushup集約作業
※Brushupさんがプランディットさんからの注文をかなり受け入れてくれ、使いやすくなってきた。しかし、人によっては、紙の校正にこだわりも残っている。しかし、いずれ、オンライン校正システムに移行するのではないか。
<追加>ChatGPT
──ChatGPTの校正能力にはかなり可能性がある。
●編集者に求められる要素
工程設計力
知識とスキル(スピード・正確性・ていねいさ)
デジタルへの知見
●校正のポイント
──「読者の目」から「「チェックの目」へ
・一文字一文字を(意味でなく)形で見る。
・複数で見る。
・視点を変えて見る。
・見落としやすいポイント・パターンを知る。
・間違っていると思って見る。
・チェックシートの活用。
<感想>
藤本さんの校正の理念は、あくまでも品質保証にあります。品質向上ということもありますが、それは、あくまでも原稿段階のテーマであると言っています。「校正」は、「くら(校)べて、ただ(正)す」という意味であり、そこには、原稿が想定されています。現在では、ほぼ校正=校閲とされていて、校閲が強調されすぎると、そこで品質向上まで要求されているように思ってしまいます。しかし、「品質向上」をどこで行い、「品質保証」をどのようにやっていくかは、常に、編集者の工程管理の課題であることは確かです。
特に、編集プロダクションでの品質向上と品質保証の問題は、いろいろ課題があります。版元からの仕事が、原稿作成からの場合は、とりわけ、その関係が複雑になります。版元の原稿チェックが遅れたり、また、ある程度確定してからチェックしたいとなったりすると、原稿検討で済ませる内容が、初校や再校の段階で行われたりすることが出てきます。その場合は、品質向上と品質保証が同時に行われるようになったりすることがあります。その場合は、版元との連携がいっそう大事になります。できるだけ品質向上は、前工程で済ませるようにしたいものです。
藤本さんは、そういうことをよく知っていらっしゃるからこそ、この品質向上と品質保証の問題を明快にしているのだと思われます。だから、「修正すべき対象を明確にし、判断のぶれや修正の無限ループを防止することが大切」と述べられ、「校正は品質向上の努力目標ではなく、品質保証の工程」と位置づけられているのだと思います。「校正記号は第三者に指示を与える記号である」という指摘とともに、編集者が校正するときに胸に刻んでおきたい言葉だと思います。
さて、新たに藤本さんがつけ加えられた「Brushup」と「ChatGPT」について触れたいと思います。
Brushupについては、前から藤本さんを中心としてプランディットさんから、実際に使用すると同時に、ツールの改訂作業に加わっているという話を聞いていました。ベネッセさんが、BrushupやChatGPTの活用について、全社ぐるみで取り組んでいるという話は、いろいろなメディアで報道されています。その一端を、今回は、紹介していただきました。
確かに、Brushupは、工程管理としては優れていると思います。しかし、ツールとしては、慣れないと大変そうです。特に、私たち編集プロダクションなどは、いろいろなクライアントがいて、それらが独自の工程管理や作業ツールなどを使われていて、それだけに統一できないという特殊性があります。プランディットさんがやっている、進研ゼミなどの商品は、企画原稿から販売まで、総合的に取り組まれている場合には、工程管理ツールとしてとても便利だと思われます。
ただ、欠点があるとすると、校正作業をデジタルでやってはいますが、PDFではないため、拡大・縮小などがうまくできないことや、校正の朱書きなどが錯綜して、集約が難しくなるなどの問題がありそうです。エディットの一部が実践している方法は、PDFをiPadなどでひらいて校正を書き込み、最後は、それらをくらべながら、最終的にiPadのPDFに集約して、組版に回しています。紙の校正なども入ってきますが、最終的な集約をPDFに手書きしていく方法がいちばん使いやすく、次工程(組版、印刷所)に流していくのも、メール添付やファイル転送で済ませられます。
勿論、最近は、いくつかの会社でBrushupを使っていて、それに対応できるように、講習会に参加するなど、努力しています。今のところ、PDFをどう活用するかで検討中ということだと思います。PCで行うのか、それともタブレットで行うのかでも違ってきます。私個人の経験としては、オンライン校正システムが指定されれば、それを活用できるようにし、そうでなければPDFを活用し、PCで確認しながらiPadのGoodnotesやPDF Expertなどを使って、集約(よく分かる転記作業)していくのがやりやすいと思います。それが、校正を修正してくれるデザイナー(組版)、印刷所に優しい対応になると思います。そうでないと、Brushupから、それを使っていない相手に送稿することができないからです。
ChatGPTについては、ChatGPTに校正をさせて、ある程度の校正もできますよ、という提案でした。多分、前回に藤本さんがされた、ChatGPTでの原稿作成の話などからすれば、もっといろいろなことをさせて、いま活用方法を研究されていることと思われますが、校正に使ってみるということは、いままであまり言及されてこなかったので、新鮮でした。しかし、ChatGPTは、基本的に、次にどんな言葉がくるのが統計的にいちばん妥当かと考えて、次から次へと言葉を並べているだけというAIだとすれば、校正などは、当然得意であることは確かだと思います。
スティーヴン・ウルフラムという人が書いた『ChatGPTの頭の中』(ハヤカワ新書/2023.7.25)によれば、ChatGPTの中には、個々の言葉(あるいは最小の単位としてのトークン)は大量の言語から学習されて、ベクトル表現(埋め込みベクトル)として保存されているそうです。そうすることによって、数値として計算対象になっているわけです。それが、どういう仕組みで文章として生成されてくるのかは、よく分かっていませんが、大規模言語モデル(LLM)では、それが可能になっているわけです。そして、ChatGPTは、話しかけることによって応答してくれるわけです。応答とは、続きを書くということです。
つまり、ChatGPTは、続きを書くことができるのであり、続きを書くことが唯一できることだということでもあります。適切な続きを書いてもらうためには、適切な投げかけが必要であり、それがプロンプトエンジニアリングと言われるものです。「続き」は、計算ではありません。計算を頼むと、もっている知識の中に該当するものがそれを答えますが、そうでないときは、ハルシネイション(幻覚)を出力します。統計的な確率計算をしてトークンを選んでいますが、計算式を使って計算をしているわけではないようです。だから、計算言語機械である、Wolframのプラグインを組み込んであげると、正しい計算をしてくれます。
User : 8の50乗はいくつですか ChatGPT : Used Wolfram 850の値は1.427247692705959881058285969449495136382746624×1045です。これは、46桁の数です。 詳細な計算結果や比較は、Wolfram|Alphaのウェブサイトで確認できます。(ChatGPTの有料版による出力) |
ChatGPTを使うには、続きを書くのが得意であるという特性と大量の言語データから得た大量の知識をもっているということを踏まえて使うことが重要だと思います。そして、しっかりした文脈を与えると、それに応じた続きを書いてくれるというわけです。文脈を読み取り、ChatGPTなりの言語イメージを作り、それを文章にしてくれると考えることもできます。このことは、画像生成AIがなぜ文章を読んで画像を生成してくれるのかということとも関係していて、画像生成AIでは、たくさんの画像とそれの説明書きを学習したAIが、画像の単位をベクトル表現にして保存することによって、入力された文章に応じて画像を生成しているということと似ています。
今後、生成AIはさらに進化すると思いますが、同時に、いろいろなプラグインを使って機能を拡張させたり、APIを通してアプリ側から活用されたりすることも始まっています。私たち編集者は、そうした進化するAIの実体を知って使うことだけでなく、どのように使われているのかを理解しておく必要があります。つまり、これからは、そうした生成AIによって作られた文章や画像が原稿として私たちの前にやってくる可能性が大いにありえます。そして、編集者こそが、そういう生成物を正しく見極める役割をもった存在だと思います。
<参考>
▶「ベネッセグループ、『Azure OpenAI Service』を活用した社内AIチャットサービス『Benesse GPT』を提供開始」(https://ai-market.jp/news/benesse-azureopenaiservice-benessegpt-aichat/)
▶「ベネッセが、メンバーズ、ビービットと、生成AIを活用した 『次世代型Webサイトプロジェクト』を開始。サイトの運用・制作に生成AIを活用し、抜本的に業務プロセスを改革」(https://blog.benesse.ne.jp/bh/ja/news/management/2023/07/31_5995.html)
(文責:エディット東京オフィス 塚本鈴夫)