AJEC2月編集講座「レイアウトとデザインの基礎」を受講して
【講義内容】
◎オンライン講座
「レイアウトとデザインの基礎」
講師:藤本 隆(ふじもと・たかし)
プランディット 編集事業部 編集長
【講師略歴】
ベネッセグループの編集専門会社にて編集業務に長年携わる。学習教材をはじめ、情報誌、フリーペーパー、教育系タブロイド、資格系教材、広告チラシ、フライヤーなど、広範な印刷媒体の企画・制作経験を持ち、原稿、記事の執筆、イラストレーション、DTPデザインもこなす。ベネッセグループ各社向けの育成研修講師を務める。
著書に『印刷発注の基本がわかる本』(日本能率協会マネジメントセンター)
──AJECの講師紹介から
第17期最後のオンライン講座が、藤本隆さんの「レイアウトとデザインの基礎」ということになりました。藤本さんは、入工原稿を作成するときに編集者にとって必要な基礎知識と理論についてとても分かりやすく解説されました。
特に、レイアウトについては、雑誌の誌面や、ポスターなどでなされている工夫を藤本さんが手描きで写し取り、分かりやすく解説されていましたが、こういうデータ収集もあるのだなとびっくりしました。とても参考になりました。
藤本さんは、どんなに優れた「企画」も、的確に具現化されなければ読者に伝わらないのであり、具体的に「規格」に落とし込んで行くために、必要な技術として、「レイアウトとデザイン」の知識が必要だと述べられ、そこでは編集者とデザイナーの二人三脚が必要だと強調されていました。
現在、編集者は、レイアウトやデザインなどを専門家に任せることが多くなりましたが、そのときに、デザイナーと共有する企画と読者へのメッセージの理解が大事だというのは、とても共感できました。
以下、藤本さんの講義の内容を簡単に紹介します。
<講義内容>
●レイアウト・デザインの役割
・レイアウトとは、誌面の構成要素を、読みやすく、企画意図が正しく読者に伝わるように配置すること。
・デザインとは、レイアウトに視覚的効果を加えて細部と全体を調整し、誌面の総合的な演出を行うこと。
→企画・用意した素材が具体的なページイメージに固定され、「制作」から「製作」に変わる大切な役目
・編集者は、レイアウトとデザインのプロではないので、デザイナーに仕事を依頼することになるが、大切なことは企画・メッセージを編集者とデザイナーが共有することである。
※アート(アーティストの内面にあるメッセージを創造的に具現化したもの)とエディトリアルデザイン(企画されたメッセージを読者に伝えるために具現化したもの)との違いに注意
●レイアウトとデザインの基礎知識
1)誌面の構成要素の理解
・それぞれの要素の役割は明確か
・キャッチが絞り込まれているか
・各要素のボリュームは役割に応じて適切か
・全体の流れはスムーズか
・メッセージは明確か
2)構図の基礎知識
・基本構図(構図の役割や効果など)
→三角形の構図、逆三角形の構図、水平・垂直の構図、傾きの構図、整列の構図、アクセントの構図、繰り返しの構図、対称の構図、「起こし」と「受け」、集中、拡散、グルーピングなど
(構図の役割や効果など、具体例を通して説明、以下同じ)
3)色彩の基礎知識(色彩の役割や効果など)
・色彩の3要素
色相──色味(赤~紫)
明度──明るさ(白~黒)
彩度──鮮やかさ(潤色~濁色)
・色の連想(色相、明度、彩度ごとに)
具体的連想と抽象的連想
・暖色系と寒色系
・色の地味・派手
・色の調和と対比
4)文字組の基礎知識
・書体の区別
→明朝体、ゴシック対、ゴナ系ゴシック、丸ゴシック体など、役割を見極め効果的に用いることが大切・書体選択のセオリー
→多種類の書体を同一紙面に用いすぎない、ファミリー(ウエイト違い)を有効に活用する、ウエイトの太い書体を小さな級数で用いない、見出し用の書体で本文を組むのは可読性の問題がある、など。
・組版に関する注意事項
→組版ルールで印象が大きく変わること、半角約物・句読点のツメ処理に統一ルールを、ジャスティファイ(右揃え・下揃え)での字間アキに注意、組み方向(縦組み・横組み)に編集意図はあるか、行間・段間に編集意図はあるか、など
→誌面の基本設計として、組み方向と視線の移動、版面とマージン、段組などの工夫
●編集者に必要なもの
・基本的な編集スキルと、複雑な仕事の流れを整理して進める段取力
・クライアントはじめ、各工程のプロフェッショナルとスムーズなやりとりを進める交渉力
・担当するテーマ・分野に対する深い専門性と、担当するテーマ・分野を広い視野で位置づける幅広い知識
・各工程におけるプロの作業内容の理解と、各工程で扱われる用語の正しい理解、リスペクト
→製作工程を理解することで、クライアントや製作のプロフェッショナルとコミュニケーションが取れるようになるとともに、スムーズでリスクの少ない製作を進めることができる。
<感想>
私は、藤本さんより少し昔から編集に携わってきました。その頃は、丁度活字での組版から写植の組版に変わったところでしたが、レイアウトや紙面デザイン、活字の選択などは、いろいろな本を参考にしながら、自分たちで取り組まなければなりませんでした。イラストレイターはいましたが、デザイナーはほとんどいませんでした。そして、先輩の編集者から、レイアウトや組版の基礎から指導されたことを覚えています。
紙の本がもっとも売れたのは、1997年だと言われています。それまでは、本の出版は右肩上がりで、出版点数も、売上高も増加していました。その頃、版元は出版点数の増加に社内体制がついていけず、仕事のアウトソーシングが始まりました。また、教材会社も教材の種類も増え、その上教科書準拠版を何種類もつくっているので、教科書改訂ごとにとても大きな仕事になり、こちらも仕事のアウトソーシングが始まりました。いずれにしても、その影響で、編集プロダクションが増えました。
ところが、その後、雑誌を中心にして、出版の売り上げが、激減してきました。特に雑誌は、インターネットの普及の影響が大きかったと思われます。しかし、売り上げが減少したにもかかわらず、というかそれ故に売り上げを確保するために、出版点数は増加していました。そのため1冊当たりにかけられるコストは、当然減少してきます。そのことが、逆に編集プロダクションの増加を促しました。版元のコスト削減が外注化になったわけです。
ただ、編集プロダクションの仕事は増えましたが、仕事の単価はより厳しくなってきました。そして、編集プロダクションも、競争が激化しました。やすく、しかも早く、的確な本をつくるという競争になりました。そのために編集プロダクションも大きくなり、社内の分業化やデザイナー、クリエイターそして、ライターなどへの外注化もするようになりました。多分、そのことが、編集業務のアウトソーシングの淘汰も促したと思われます。エディットは、そういう中で、生き残った会社です。
現在は、編集作業は、ほとんどデジタルデータを中心にして行われています。そして、レイアウトや誌面作りは、外部に委託されることが多くなっています。版元の編集者が、編集業務のアウトソーシングを始めたころ、デザイナーやライターなどもどんどん増えました。つまり、編集業務の一部が高度化し、外注化が進んだということだと思います。そして、それらの仕事が、独立した業務として成り立つようになったというべきかも知れません。エディットではとても多くのライターや、デザイナーに仕事を依頼しています。
現在、編集プロダクションにくる仕事は、企画から印刷までまかされる場合もありますし、校正だけという場合もあります。実に多様な種類があります。しかも、クライアントは版元だけではありません。出版社以外の企業からの仕事もあります。例えば、金融業界から、金融教育の教材をつくってほしいというような依頼もあります。そのために、編集プロダクションは、本づくり全体の工程管理もできなければなりません。
こうしたことから、編集プロダクションの編集者には、少なくともすべての工程の基礎知識は必須の知識だと思います。そんなに、たくさんのことが理解できるわけがないと思われるかもしれませんが、藤本さんは、それらの最低の知識を披露してくれました。藤本さんが、強調する編集者の資質の一つに「好奇心を持つこと」があります。興味を持ったことを自分で調べ、とことん追求してみること。そこから、いろいろな技術の仕組みなどが理解されるようになり、そうすると、今度はそれを利用して、新しい試みができるようになります。
今回の講座の「ライアウトとデザイン」の分野は、もっとも感性的な分野です。ある意味では、編集者とデザイナーの感覚の差が明確になり、その場合、好き嫌いで判断されがちになります。正解があるわけではないというべきかもしれません。しかし、藤本さんはそうした特殊な分野にもある種の文法があることを教えてくれました。形や色、書体、レレイアウトなどは、それ自体で人間に違った印象を与えます。そして、その印象は、理論化して理解することができるものがあります。そうした、理解を持っていると、編集者はデザイナーと共通の言語によるコミュニケーションが取れます。仕事は単にプロにまかせてしまえばいいというわけではありません。私たちは、デザイナーからそれなりに信頼感を得ることも大事だと思います。
講座の最後で編集者に必要なものとして、①段取力、②交渉力、③各工程に対する幅広い知識、③プロの仕事についての理解とリスペクトを強調されていました。勿論、それらは、日々の仕事をこなすことと、それなりの勉強をしないと身につきません。しかし、そのときに大切なことはそれらに興味関心を持ち、やってみようという気持ちになることです。そういう意味では、「好奇心」な必要だと思います。
これまでの藤本さんの講座で、①企画立案、②原稿準備(原稿執筆、リライト、入稿)、③組版(初校、再校、校了)、④製版(色校)、⑤印刷、⑥製本という出版の全工程の基礎知識を学んできました。私たちは、その基礎知識を踏まえて、自分の興味関心からさらに知識を広め、深めていくことが大事だと思います。出版界は、現在ChatGPTなどのAIの利用や、システムのデジタル化をとおしてのDXなどの取り組みが始まっています。そのためにもこうした基礎的知識があって初めて、新しいことへの取り組みも可能になるのだと思います。そんなことを、藤本さんのたくさんの講座から学ぶことができたと思います。
(文責:エディット東京オフィス 塚本鈴夫)