AJEC18期8月編集講座「校正記号と校正補助ツール」を受講して
【講義内容】
◎オンライン講座
「校正記号と校正補助ツール」
講師:須藤 渉一(すどう・しょういち)氏
株式会社ネベッセコーポレーション ものづくり推進本部
【講師略歴】
ベネッセグループの編集専門会社にて編集業務に30年以上携わり、2024年度よりベネッセコーポレーションにて勤務。
小学校~大学受験の算数・数学を中心とした教材の編集制作を軸にしつつ、教材以外の各種冊子やアプリ・Webなどデジタル系教材の編集制作も担当。 また長年、ベネッセグループ内の編集者育成研修の運営や講師を務めながら、進研ゼミ各講座のオンライン授業の講師なども担当。
──AJECの講師紹介から
今回は、藤本さんが行っていた基礎講座の続きになる講座で、15期3月の「校正記号と校正補助ツール」と、基本的にはほぼ同じ内容です。
講演は、①工程としての校正のあり方について、②実際に使われている校正記号について、③デジタル進化に対応する構成補助ツールについての3つ内容です。スライドなどは藤本さんと共有されているようですが、藤本さんとはまた違った語り口で、分かりやすくお話されました。
「『品質向上』の工程と『品質保証』の工程とは明確に区別して、校正は本来、『品質保証』の工程である」という校正に対する原則は、藤本さんの講演と同じであり、これはベネッセで共有されている原則なのだと思われます。
ここでは須藤さんの講座の流れをスライド順に紹介しておきます。
<講義内容>
1)工程としての校正のあり方
●編集制作工程と校正の位置づけ
・校正とは「校(くら)べ 正(ただ)すこと」
──もとになる原稿、資料、基準と照合し、誤りを正すこと
・修正すべき対象
①誤字誤植──単純誤植・誤変換・文字化け
②文法・表現──誤用・口語表現
③整合性──連番・相関する要素
④ファクト──固有名詞・固有情報・異体字
⑤表記ゆれ──不統一
⑥レイアウト──色・書体級数・扱い
※修正すべき対象を明確にし、判断のぶれや修正の無限ループを防止することが大切。
●修正判断基準
・原稿・初校・再校・色校でどこまで直すか。
①誤っている、②伝わらない、③誤解を招く、④伝わりにくい、⑤コンプライアンス、⑥品質感を損なうなど、品質特性に照らして、工程ごとの修正判断基準を明確にし、事前に合意しておくことが大切。
・「品質向上」の工程と「品質保証」の工程を明確にする。校正は本来、品質保証の工程。
●校正の工程と種類
・ゲラをチェックし、組版・レイアウト・内容の間違いを正し、ミスを防ぐ品質保証のための工程。
・色校いろいろ
本機校正、平台校正、デジコン、インクジェット校正など
・校正の種類
突き合わせ校正──原本と一字一句を見比べる
読み合わせ校正──一方が読み上げ一方が見る
あおり校正──ゲラをあおって残像を確認
素読み校正──注意深く読みなおす
電子検版──原本と電子的に照合する
2)実際に使われている校正記号について
●校正記号について
・JIS(日本産業規格)で規定され、2007年改訂。
・文字の修正・削除、挿入など、すべて決まった記号で指示。
・誰が見ても一目でわかる必要がある。
・いわば校正の際の共通語。
・我流のくずしを避けて運用する。
●校正記号の運用
──第三者に指示を伝える記号であることを意識する。
・JISのルールに従い正しい記号で運用する。
・編集側とオペレーターの誌面理解の差を考慮する。
(オペレーターは誌面内容について知らないことが前提)
・雑な校正赤入れはオペレーターのモチベーションを下げる。
・わかりづらい校正赤入れはお互いの時間を浪費させる。
・あいまいな指示を避け、オペレーターの手を止めない。
・わかりやすく、見やすく、正確な赤入れを意識する。
3)デジタル進化に対応する構成補助ツールについて
●校正補助ツール
①機械構成ツール
・プラグラムにより、誤字誤植や文法上の誤り、登録辞書との齟齬を指摘するもの。
──AI校正(ルールベースの校正、機械学習による校正)
②オンライン校正ツール
・データ化されたゲラ(PDFなど)に画面上で手を入れるためのツール。
③オンライン送校ツール
・データ化されたゲラ(PDFなど)をオンラインでやり取りするためのツール。
※具体例として、Word、JustRight!6Pro、校正支援ソフトPress Term、Adobe Acrobat DCなどによるPDFの活用。
●ベネッセの校正システムの実際(①・②・③のツールを組み合わせて)
── Brushupのベネッセでの活用方法の解説
1)校正システム依頼入力
2)Brushupオンライン送稿アイテム
※校正システムからAI校正サービスに送り、集約作業に自動で取り込むようにしている。
3)Brushupオンライン校正アイテム
4)Brushup集約作業アイテム
※プランディットからの注文をかなり受け入れてくれ、使いやすくなってきたのを、現在ベネッセでも使っている。ここでは、校正について触れているが、ベネッセでは、Brushupは工程管理のツールとしても利用している。
※ChatGPTなどの生成系AIの校正能力はかなり進化している。
4)まとめ
●編集者に求められる要素
工程設計力
知識とスキル(スピード・正確性・ていねいさ)
デジタルへの知見
●校正のポイント
──「読者の目」から「チェックの目」へ
・一文字一文字を(意味でなく)形で見る。
・複数で見る。
・視点を変えて見る。
・見落としやすいポイント・パターンを知る。
・間違っていると思って見る。
・チェックシートの活用。
<感想>
須藤さんの校正の理念は、基本的に、同じベネッセコーポレーションの藤本さんの校正の理念と同じで、品質向上ということではなく、あくまでも品質保証にあります。多分、その点が、「校閲」との違いを意味するのかもしれません。「校閲」には、ある意味では、品質向上ということも微妙に含まれているような気がしますので、避けているのかもしれません。須藤さんは、藤本さんと同じように、品質向上は、あくまでも原稿段階のテーマであると言っています。
「校正」は、「くら(校)べて、ただ(正)す」という意味です。もともとは、現在のようなデジタルデータでの原稿(Word原稿など)ではなく、紙の原稿が想定されてつくられての言葉です。だから、組版のゲラと紙の原稿とくらべて正すということが本来の意味になります。しかし、原稿がデジタルになった現在では、ほぼ校正=校閲とされているようです(過去の講演の内容では、そのように言われている人がどちらかというと主でした)。
だいたい大手の出版社や新聞社では、校閲部があり、そこで校正も同時に行われていて、校正=校閲というのが普通です。しかし、須藤さんが担当された学習教材などでは、「品質向上」をどこで行い、「品質保証」をどのようにやっていくかは、常に、編集者の工程管理の課題であることから、敢えて校正ということに拘ったのだと思われます。
編集者の工程管理から見れば、校正での修正すべき対象としては、①誤字誤植、②文法・表現、③整合性、④ファクト、⑤表記ゆれ、⑥レイアウトなどが中心となるのは確かであり、修正すべき対象を明確にし、判断のぶれや修正の無限ループを防止することが大切だというのは、その通りだと思います。しかし、原稿制作に関わらない、あるいは原稿がすでにできている場合には、現在の校正としては、校正=校閲ということが重要なような気がします。
編集プロダクションとしては、多様な紙の出版物や教材、その他にWeb上で使われるデジタル記事や教材なども扱うようになっています。だから、たとえ専門知識があって、一定の分野の原稿が完成されていたとしても、それを学校教材にする場合、当然、版元からの依頼には、教材としての品質保証だけではなく、品質向上も期待されている場合が多いと思います。つまり、その分野の専門知識のほかに、学習指導要領の内容や、教科書教材での学習過程の段階などのある種の専門知識も必要になってきます。もちろん、これは校正の段階ではなく、組版の前に、原稿チェックとして行われるべきですが、こうした場合は、たいてい組版後に、初校段階などで同時に版元や監修者チェックが行われることが多いです。また、そうしたことを期待して、編集プロダクションに依頼しているとも言えます。
このように、編集プロダクションでの工程としては、品質向上と品質保証の問題は、いろいろ課題があります。版元からの仕事依頼が曖昧の場合や、原稿作成からの依頼の場合は、企画書が明確になっていない場合が多く、その場合は、その関係がより複雑になります。特に後者の場合は、版元と特別な関係ができていないと、版元の原稿チェックが遅れたり、また、初校以降でチェックしたいとなったりして、原稿検討で済ませる内容が、初校や、再校の段階で行われたりすることが多くなってきます。その場合は、品質向上と品質保証が同時に行われるようになります。そして、最後まで品質向上に拘って、進行が遅れるということがよくあります。品質向上は、組版前に済ませたいのですが、難しい問題があります。
須藤さんは、藤本さんと同じように、そういうことをよく知っていらっしゃるからこそ、この品質向上と品質保証の問題を明快にしているのだと思われます。だから、「修正すべき対象を明確にし、判断のぶれや修正の無限ループを防止することが大切」と述べられ、「校正は品質向上の努力目標ではなく、品質保証の工程」と位置づけられているのだと思います。特に、ベネッセさんの進研ゼミに主として関わってこられて、須藤さんや藤本さんは、「企画」がほぼ決まっているので、生産性を上げるためにも、原稿作成の段階と校正の段階を別工程として、品質向上と品質保証の関係を徹底されているのだと思いました。
この点は、前回の藤本さんの講演で語られた編集者による工程管理についての理解が必要だと思います。編集プロダクションの編集者も、単なる校正者ではなく、編集者としての自覚を持ち、工程のあり方(後工程はお客様であり、仕事の不備を、後工程にまわさないようにする)をよくよく理解し、いろいろな外注者や工程の前後の仕事のスムーズな管理をする必要があります。
校正記号については、「校正記号は第三者に指示を与える記号である」という指摘とともに、編集者が校正するときに胸に刻んでおきたい言葉だと思います。これも、後工程の作業者とのスムーズな関係づくりに影響することだと思います。
校正補助ツールの解説では、いろいろなツールが取り上げられていますが、昨年の藤本さんの説明より、進化しているように感じました。現在、他の版元でもBrushupが使われていて、エディットでも使わざるを得なくなってきていますが、デジタルデータのあり方、PDFの使い方とともに、知識としては、社内で共有化しておく必要がありそうです。
生成系AIについては、校正での使い方の紹介があり、ChatGPTで7割くらいは誤りの指摘ができるのではないかとのことでした。また、できるだけ完成原稿の段階で校正にかけるとよいとのことでした。この点については、今後また藤本さんの講演などで多様な使い方が紹介されるだろうと思われますが、須藤さんは主として、校正補助ツールとしての説明でした。企画案の作成、構成表の作成、原稿の作成などについて、今後どこまで使えるようになるか期待されるところです。
(追記)
これは、編集講座の内容とは、外れるかもしれませんが、版元またはクライアントが、エディットのような編集プロダクションに仕事を出すのは、本当は本づくりの工程管理がうまくできないからだとも言えます。ベネッセさんの進研ゼミなどの自社用の学習教材の編集製作にはこの編集講座の工程管理が妥当すると思われますが、実際にエディットが引き受けている仕事の大半は、工程管理がとても大変な場合が多いと思われます。だから、編集者は、逆にすべての工程についての知識と技能が必要になってきます。
デジタル化の結果、組版そのものや、印刷などの工程は、昔と比べると格段の進化をしています。この進化の結果、企画・原稿作成・校正が渾然一体となってしまっているというのが編集プロダクションの現状なのかもしれません。つまり、デジタル化によって修正自体がほとんど瞬時にできるので(ちょっと語弊があるかもしれませんが)、ある意味では、企画・原稿作成・組版・校正が工程分離されずに、同時進行している場合さえあります。特に、単体の本や自治体の本などはそうなりやすいです。
そういう意味では、工程管理などをあまり強調すると仕事が進まなくなってしまう可能性もあります。だから、編集プロダクションの編集者は、臨機応変にその場その場の工程の不備に的確に対処できるような総合的な知識や技能が必要になっています。そして、版元と同じように、デザインや原稿作成と同じように校正は校正の専門家に外注する場合が多くなってさえいます。いずれにしても、編集者としては望ましい知識技能ではありますが・・・。
(文責:エディット東京オフィス 塚本鈴夫)